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2012年5月1日(火)

残された牛 生かす道は

原発20キロ圏内

福島・南相馬でシンポ

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 「牛は家族です。牛の寿命が先か、資金が底をつくか。最後まで牛飼いを続けます」。福島第1原発から20キロ圏内に取り残された牛たちの活用を探るシンポジウムが福島県南相馬市で開かれました。そこで畜産農家の痛切な訴えが響きました。(都光子)


写真

(写真)200人以上集まったシンポジウムで畜産家、研究者が登壇(福島県南相馬市)

 「町から、家畜は食用にできないから原則殺処分にする、と安楽死の同意を求められている。安楽死させるために作ったさくには屋根もなく、雨や雪が降れば膝まで泥につかって横になって寝られない。餌と水もほんのわずか。それが人間のために飼ってきた家畜に対する結末で良いのでしょうか」。こう発言したのは大熊町で和牛31頭を飼育してきた男性。立ち入り許可をもらい、今も餌と水を与えています。「絶対安楽死処分には同意しません」と力をこめます。「安楽死させたくない。研究目的に使用するなら喜んで協力します。最後は老衰自然死を望みます」

 警戒区域が設定されて1年。立ち入り禁止となった区域内に数千頭の牛が取り残され、いまなお、約千頭が生きているといわれています。

 政府は、原則として同意をえて安楽死処分という姿勢をくずしていません。4月になって、飼養継続を望む場合は出荷・移動・繁殖の制限などの条件つきで飼うことを認めていますが、その費用はすべて自己負担です。

どん底から

 「3号機が爆発する音をこの耳で聞いた。原発反対だし、安全神話なんて信じてなかったが、音を聞いて、起きてしまった、と衝撃を受けた」。原発から約14キロにある和牛繁殖の牧場主。30頭の牛を出荷する予定でした。「もう出さなくていいよ、といわれたとき、自分がやってきたすべてが無意味になったんだと、絶望のどん底に落ちた」といいます。

 いま、牧場では300頭の牛たちが生きています。昨年7月に「希望の牧場」プロジェクトを立ち上げ、取り残された牛を生かす活動に取り組んでいます。「浪江は、絶望の条件をあげれば十指に余る。放射能に汚染され、もう子どももその親も戻ってこないだろう。じゃあ、希望の条件は…。原発被害の生き証人として牛たちとともに生きていく。東電と国に補償を求めていく。無理やり殺すなんて、おかしい」

ぜひ研究に

 シンポジウムを主催したのは応用動物行動学会警戒区域内家畜保護管理特命チーム。実行責任者で東北大学大学院教授の佐藤衆介さんは、南相馬市で保護されている牛66頭はじめ、20キロ圏内で安楽死させられた牛5頭もあわせて血中におけるセシウム強度、ロース肉への汚染度も調べました。比較対象として、原発から150キロ離れた同大学付属複合生態フィールド教育研究センターの放牧牛も調べた佐藤さん。「原発20キロ圏内に取り残されている牛の放射能汚染度は、相対的にみて決して高くない」とみています。また、里山形成に牛を活用する方法もあげ、研究をすすめるためのセンター設立を提案しています。

 浪江町でいまも和牛30頭を飼育している男性は、「この前も札幌の大学の先生がうちに泊まり込んで調査していった。研究にぜひ使ってほしい。里山保全も有効だと思った。牛飼いとしておやじの代からやってきた。牛を見殺しにできない」


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