2012年4月18日(水)
トラブル続発
日航 異例の安全キャンペーン
尻もち事故 飛行中エンジン停止 カート客室暴走
会社再生の名のもとにベテランのパイロット、客室乗務員の大量解雇、整備部門の切り捨てを強行した日本航空で、事故や不安全事例が短期間に続発する深刻な事態になっています。このため安全意識を高めるとして大西賢(まさる)会長・安全推進本部長が今月10日、全社員に向けた異例のメッセージを発表するとともに、11〜27日を期間として「特別安全キャンペーン」を実施しています。 (関連記事)
熟練乗員解雇のなか
大西会長はメッセージのなかで、3月31日、羽田空港で尻もち事故が発生したほか、2週間という短期間に、イレギュラー運航やパイロット・整備・客室・貨物の各領域で不具合事例、人身事故が発生していると危機感を表明しています。
「安全」に対する思いを再認識するために「特別安全キャンペーン」を実施すると述べ、組織長に向けて、不具合事例を自らのこととして考えること、短期間に発生していることを配下と共有し、全社員の力を結集して「安全の砦(とりで)」を守り抜こうと訴えています。
キャンペーン実施要領には、7件の発生事例一覧を載せています。そのなかにグループ会社でパイロットが腹痛の薬を服用して乗務した事例があります。航空法70条でパイロットが薬をのんで乗務することを禁止しています。
日本の民間航空のパイロットの95%が加入する日本乗員組合連絡会議(日乗連)の山ア秀樹議長は、「パイロットの薬服用は、注意力や運動機能に影響を与えるため、基本的にすべて禁止されています。医師が何カ月も影響のないことを確認した場合だけ例外的に認められます」と指摘。「薬服用を個人責任にせず、休める環境整備など経営者の判断も求められます」といいます。
客室乗務員の職場では、機内食カートのストッパーをかけ忘れ、離陸中に通路を10メートルも滑走したとあります。
これらの事例は、日航が「再生計画」にもとづく人員削減目標をオーバーしたにもかかわらず、2010年12月末に、経験豊富なベテランのパイロット、客室乗務員と、安全配慮のため病欠した労働者を解雇した影響がうかがえます。
日航では、稲盛和夫前会長の「利益なくして安全なし」のかけ声のもと、社内教育で加藤愼・顧問弁護士が「1兆円の内部留保を築いてから安全について語ってほしい」とまで言っています。こうした安全軽視の姿勢が、不安全事例多発の背景にあるとみられます。
日本航空のトラブル発生事例一覧
●尻もち事故
着陸やり直しで再上昇する際に、機体尾部が滑走路に接触し損傷。
●エンジン空中停止
上昇中2万フィート付近でエンジンに振動と異音発生。引き返す途中、警告灯が点灯し、空中でエンジン停止。
●客室内へカー卜飛び出し
離陸中、調理室から機内食カート1台が飛び出し、通路を約10メートル滑走して座席の間に挟まって停止。
●パイロットが医薬品服用
フライト中に副操縦士が腹痛となり、到着後、機長が市販薬服用可否を会社に問い合わせた。回答が得られる前に副操縦士に薬を服用させ、折り返し便に乗務した。その薬は、服用不可と判明。
●航空日誌未搭載
整備士が搭載用航空日誌(法定搭載書類)の搭載を忘れ、パイロットも確認せず飛行。到着後、パイロットが未搭載に気付いたが、整備士と協議し、次便も未搭載のまま運航。
●関係機関への報告遅れ
委託先の貨物検査で、爆発物反応。直ちに日航側に通報があったが、荷主が大手メーカーで、発生が深夜だったことから、翌朝まで関係機関に通報しなかった。最終的に、爆発物ではなかった。
●作業中の負傷
着用義務付けのヘルメット非着用で頭部にけがをする事例が2件。エンジン作業中、誤って指を入れ、エンジンのファン(羽根)で指先を切断。