2012年4月15日(日)
主張
原発再稼働
福島事故の重大さの認識ない
政府は、野田佳彦首相ら関係閣僚の協議で関西電力大飯(おおい)原発3、4号機(福井県おおい町)の運転再開を妥当と認め、枝野幸男経済産業相が説明のために地元入りしました。政府は大飯原発の「安全性」と再稼働の「必要性」を判断したといいますが、安全を強化する対策はなく、安全抜きで「電力不足」を脅しに使う、“再稼働ありき”の決定です。
政府の拙速な決定は全国の原発が停止してしまう事態は避けたいという“よこしま”な動機によるものです。いまも深刻な事態が続く東京電力福島原発事故の重大さの認識はまったくありません。
証明された「異質」の災害
昨年3月11日の大地震で送電線の鉄塔が倒れるなど大きな被害を受け、十数メートルに達した大津波で非常用電源も働かなくなり、全交流電源を失った東電福島第1原発は原子炉の冷却ができずに炉心が溶融、発生した水素が爆発して建屋も大きく破壊されました。事故から1年余りたっても原子炉内部の様子は満足にわからず、放射性物質に汚染された冷却水が漏れ出す事故もたびたび起きています。
有害な放射性物質の拡散で原子炉周辺の住民は避難させられ立ち入りを規制されているうえ、被曝(ひばく)を恐れて新たに避難する人も多く、16万人が避難生活を送っています。原発事故を起こせば、広い範囲で、長期間にわたり、社会そのものを崩壊させる「異質」の被害をもたらすことが浮き彫りになっています。事故の深刻さを受けとめるなら、事故原因を徹底究明し、全国の原発の地震や津波の対策を根本から見直し、危険な原発からの撤退をこそ政府は決断すべきです。
ところが野田政権は、事故原因の究明は尽くされていないのに、大飯原発をはじめ原発の再稼働を急いできました。政府が再稼働を認めるために持ち出した「基準」には、福島原発のような事故を繰り返さない「安全対策」と呼べるものはありません。事故直後の緊急対策や机上の計算だけで、「福島」程度の地震や津波に耐えられるとしているだけです。政府が関電に提出させた「計画」では、水素爆発を防ぐ排気設備や事故に対応する免震事務棟の完成は3年後です。「計画」だけでは、安全性は向上しません。
避難計画の見直しもこれからです。福島原発事故のあと、原子力安全委員会は避難が必要な範囲を、原発から10キロメートルから30キロメートルに広げました。大飯原発から30キロ以内には京都府や滋賀県も入ります。これらの地域の避難計画さえ示さず再稼働だけ押し付けるのは、まさに住民無視のきわみです。
原発に頼らぬ電源確保を
政府は、大飯原発を再稼働させなければこの夏、電力が「不足」するといいますが、それは関電の言い分を受け入れただけで、政府自身はこの夏の全国的な電力需給見通しさえ示していません。原発以外の電源の調達や他の電力会社からの融通も検討しないで「不足」をいうのは無責任です。
現在全国で動いている原発は北海道電力の1基だけですが、それが止まる前に大飯原発を再稼働させ、国民に「原発ゼロ」を体験させないようにするというのではあまりに“よこしま”です。原発の再稼働ではなく、いまから原発に頼らない電源対策や節約対策に取り組むことこそ政府の責任です。