2012年4月7日(土)
主張
原発「安全」基準
再稼働ありきでは信用されぬ
政府は、野田佳彦首相と経済産業相、原発事故担当相、官房長官の4大臣会合を開き、定期点検などで停止中の原発の再稼働の前提となる「安全」基準を決定しました。原発の「ストレステスト(耐性試験)」だけで再稼働を強行しようとして住民や地元自治体に反発されたためですが、決定された基準には新しい安全対策と呼べるものは何もありません。まず「再稼働ありき」では国民に信用されないのは当然で、政府は住民や自治体に再稼働を押し付ける態度を改めるとともに、原発からの撤退をこそ政治決断すべきです。
再稼働押し付ける口実に
政府は新しい基準にもとづき関西電力大飯原発3、4号機について再稼働を近く正式に決定し、関係自治体の同意を求めるとしています。まさに基準を口実に再稼働を押し付ける態度そのものです。しかも政府はこの基準をこれから再稼働が問題になる原発にも適用する方針です。文字通り「再稼働ありき」の態度は明白です。
政府が決定した基準は、まず地震や津波で電源がすべて失われても原子炉の冷却ができなくなったりしないよう、電源設備や冷却・注水設備などの対策を求めていますが、その中身は政府が昨年の東京電力福島原発の事故直後、各電力会社に指示した「緊急安全対策」そのものです。実態は非常電源車や消防車などを配備しただけで、小手先の対策です。福島原発事故のような地震や津波が起きても冷却を続け燃料損傷が起きないかどうか確認するというのも、結局は「ストレステスト」の1次評価が実施済みかどうか確認するだけです。なんら新しい対策と呼べるものはありません。
「ストレステスト」の結果、原子力安全・保安院から改善が求められた項目や、保安院が福島原発事故の検討から示した30項目の安全対策についての基準も、電力会社が計画を提出すればいいだけです。再稼働の前に安全対策を強化しようというものではありません。保安院が示した30項目の対策自体、原発の「安全神話」をふりまき、推進してきた保安院が勝手に持ち出したもので、なんら信頼できる対策と呼べないものです。
たとえば保安院は、福島原発は地震による原子炉本体や重要な配管の破壊は確認できないとの立場のため、その対策は含まれていません。保安院自体その不十分さを認め、「今後さらに分析を加え内容の充実を図っていく必要がある」としています。そうした対策を金科玉条にし、それさえ、やりやすいものはやるがあとは計画を提出するだけというのでは、安全強化などと呼べないのは明らかです。
「原子力ムラ」に丸投げ
重大なのは、野田首相らが基準の検討にあたり、口先では「納得がいくまで議論したい」などといいながら、実際には保安院に丸投げし、わずか3日で決めてしまったことです。保安院は電力会社と一体で原発を推進してきた「原子力ムラ」の一員で、本来3月末で廃止されていたはずの機関です。こうした決定過程自体、国民の不安を顧みず、再稼働を推進していることは明らかです。
政府の基準決定に対しても住民や自治体は不安と不信を募らせています。政府は再稼働を押し付けるのではなく、そうした国民の声にこそ耳を傾けるべきです。