2012年3月26日(月)
被災者「仕事ない」
失業給付 延長して
来月末1万人 給付切れ
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東日本大震災から1年がたった宮城県石巻市。ハローワーク石巻で、求職に訪れた被災者に声をかけると、まず口にするのが失業給付切れへの切迫した思いです。「給付が切れるんです。どうしても仕事を見つけないといけない」と。被災地の雇用を拡大する政府の対策が不十分な現状で、緊急に失業給付を延長することが求められています。(田代正則)
宮城・ハローワーク石巻ルポ
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昨年末、ハローワーク石巻を取材に訪れたときは、駐車場待ちの車は4〜5台でした。3月半ば、再び取材に来てみると、十数台に増えていました。交通整理係の男性は「これまでも午前中は混雑していたが、午後になっても行列が続く」と話します。
長距離トラックの仕事をしていた男性(56)は、車が津波被害にあって失業しました。失業給付は18日で終了しています。「地元を離れれば仕事はあるかもしれないが、家族のことを考えると、職場は近場でなければ困る」。妻、19歳と23歳の娘2人の4人暮らし。「まだまだ働かなければやっていけない」
震災前は同県女川町の冷凍食品工場に勤めていた女性(37)の失業給付切れは22日。「小学校1年生と4年生の子どもがいるので、土日が休める仕事を希望していますが、条件の合う仕事は限られています」と話します。
この年齢で
45歳の男性は、2月で失業給付が切れ、仕事も見つかりません。「震災前にやっていた水産関係の仕事には、何十人と求職者が殺到する。この年齢で違う職種では、うまく働き続けられるか不安がある」といいます。
求人は、復興事業にかかわる建設土木に偏っています。お菓子をつくっていた店が流された女性(30)は、「父親と弟が建設関係の仕事について生活を支えあっている。自分も仕事をしたいが、できる仕事が見つからない」と話します。
必死で仕事を探しても見つからない。これが被災地の現実です。
求職14万人
被災した岩手、宮城、福島の3県で有効求職者数は最大16万人(昨年8月)におよび、今年1月時点でも14万人以上が職探しを続けています。今年1月の失業給付受給者は前年比103・8%増の6万2528人でした。
ところが、政府は失業給付の延長を打ち切りました。2月17日までに特例延長措置が切れた3510人のうち、給付切れ前に職を得られたのは921人だけでした。このままでは、4月末までに累計1万人以上の失業給付が切れ、9月末には震災直後に失業した全員の給付が打ち切りとなります。
失業給付延長共産党求める
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被災地で切実な失業給付の延長。小宮山洋子厚生労働相は昨年11月22日の記者会見で、「失業手当で就労意欲が薄れるのではないかという話もある」と発言しました。
日本共産党の志位和夫委員長は、「被災者に安定した仕事と収入を保障することは待ったなし」だと指摘し、失業給付の延長を求めました(1月27日、衆院代表質問)。また、塩川鉄也衆院議員が2月1日、国会で「職に就けない人を見捨てるのか」と追及しました。これに対し、小宮山厚労相は「仕事(に就く支援)に力を入れるのが重要だ」と答弁し、失業給付を延長しようとしません。
「国会中継をテレビで見ていた」という男性(61)は、「最後の失業給付1カ月分を受け取った。60歳を超えても働きたいから、こうやってハローワークに通っている。意欲が薄れるとは心外だ」と話します。
欧州では、特別措置による給付延長がなくても、日本より失業給付期間が長い国がたくさんあります。たとえば、フランスは23カ月、ドイツは12カ月、オランダは18カ月、デンマークは24カ月(OECDの2007年資料)。また給付が切れても、再就職まで支える生活扶助制度がつくられている国もあります。
雇用が不足している被災地で失業給付をより長期間延長するのは、当然必要な措置です。
再就職の障害低すぎる賃金
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再就職がすすまない理由のひとつに、賃金があまりにも安すぎるという問題があります。
「労働条件がかみ合わない」と訴える男性(39)がいました。以前は運送業や製造業で、月の手取りが20万円程度でした。「いま求人に出ている仕事は十数万円ですよ。家族4人で暮らせません」と話します。
「失業給付は今月で終わり」と話す女性(40)は、「事務系を希望していますが、月の基本給は12万円台です。税金、社会保険料を差し引けば、手取り10万円いくかどうか。生活できない仕事では応募できません」とうつむきました。
別の女性(56)も、「事務系の仕事は、震災前より時給で100円以上も安くなる。それでは生活が厳しい。4月で失業給付が切れたら、どうすればいいんでしょうか」と訴えました。
被災地の最低賃金(時給)は、岩手県645円、宮城県675円、福島県658円。
労働運動総合研究所と全労連による生計費調査(2009年)では、東北地方(モデルケースは岩手県北上市)でまともな生活をするには、自動車などが生活必需品のため、時給1332円以上が必要だと試算されています。いまの最賃は生計費の半額程度であり、賃金下落の歯止めになりません。
正社員として働き口地元で
「被災地では、復興のために地元で正社員として働きたいと探しても、あるのは県外の非正規雇用ばかりです」。震災を口実にした雇い止めの撤回を求めてたたかうソニー労働組合仙台支部の期間社員の男性(31)はいいます。
被災地でビジネスを広げているのが、派遣会社です。
派遣会社の業界団体、日本人材派遣協会による岩手、宮城、福島、茨城4県の調査では、昨年3月14日から今年2月末までに派遣で新規就業したのは、同協会会員26社だけで2万2542人にのぼります。これは4県の新規就業者数の10〜12%と推計されます。全国の派遣労働者が労働人口の2%未満であることと比較して、異常な規模です。
派遣協会の坂本仁司会長は1月17日の記者会見で「10倍の実績をあげた」と自慢しましたが、派遣では地元での安定した長期雇用を求める被災者の願いとはかけ離れています。
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失業給付の延長 雇用保険法にもとづく失業給付の受給日数は、加入期間や失業時の年齢によって最も短い人で90日、長い人で330日です。被災者にたいして30日から60日の延長措置がとられましたが、それでも仕事がみつからない人に対して特例で60日の再延長が認められています。再延長の期間が終了するため、新たな延長措置が求められています。