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2012年3月25日(日)

きょうの潮流

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 津波の映像を、どれほどたくさんみてきたことか。石巻や陸前高田の廃虚の街も歩きました。しかし、いくら知ろうとしても、やはり現実は想像を絶します▼たとえば音です。「ズダダーンと地獄の割れた音がした息(こ)も友がきも呑(の)みしあの音」。陸前高田市の、佐藤フミ子さん(83)の短歌です。「地獄の割れた音」の7文字に、一瞬、身がすくみました▼夫の運転する車で逃げる、逃げる。もっと速く。もっと上へ。しかし津波は、2人を捜しに家に戻った息子さんをのみこんでいました。恐怖と悲しみで破裂する心の中の音が入り混じる、「地獄の割れた音」でしょうか。「返してよ家はどうでも息(こ)を返せヒスイも真珠もくれてやるから」▼報道写真家の森住卓さんは、大震災の半月後、避難所の取材で佐藤さんに出会います。のちに、佐藤さんから届いたはがきにびっしりと書かれていた15首の歌に、衝撃をうけます。「悔しさと無念さ、当時の情景やそのときの空気や臭いまで」が感じられました▼佐藤さんの歌に、森住さんと郡山総一郎さんの写真を添えた、『つなみ 風花(かざはな) 胡桃(くるみ)の花穂(はなほ)』が出ました。しかし、出版の準備が始まったころ、佐藤さんは夫も亡くします。夫は、自分たちを救おうとして帰らなかった息子の犠牲を苦にしながら、体調を崩しました▼「地獄の割れた音」の一撃に、分かったつもりにならないよう戒められた気がします。大震災についての分かったつもりは、3・11を忘れることの始まりかもしれないのだ、と。


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