2012年3月22日(木)
イラク戦争開始から9年
戦争で生活は惨めに
夫は米兵に殺され 2人の子抱え職転々
【カイロ=小泉大介】ブッシュ前米政権が国際社会の反対を無視してイラク戦争を開始してから20日で9年がたちました。この日、同国では各地で爆弾テロが発生し、死者は50人以上に達しました。国民は戦争とイラクの現状をどう考えているのか、米軍に夫を奪われた首都バグダッド在住のカリーマ・イブラヒムさん(36)が本紙の電話取材に応えました。
犠牲者家族が語る
私の夫が米兵の銃乱射で亡くなったのは2006年でした。いまは幼い2人の息子と3人で暮らしています。夫との結婚生活はわずか5年。戦争によって、私たちの生活は惨めなものになってしまいました。
今も治安悪化
イラクはいまも治安の悪化が続き、安全な場所などどこにもありません。失業も増え続けていますが、政府の支援は何もありません。私は職を転々とし、今は衣類販売の仕事で早朝から夜遅くまで働き通しですが、子どもたちに満足に食べさせることができないでいます。
戦争を始めた時、米国はサダム・フセイン(大統領)を倒せば、平和で民主的で豊かなイラクが訪れると宣伝しました。しかしそれはまったくのうそでした。
今の政府は、治安悪化、失業率の増加、教育や医療環境の悪化への対応を放っておいて、宗派間のいざこざばかり起こしています。ただ、このいざこざも、本はといえば戦争がつくり出したものですが。
こんな状況ですから、私は、生活の面でも、治安の面でもまだサダム時代の方がましだったと思ってしまいます。民主主義のない抑圧社会でしたが、少なくとも治安は問題なかった。愛する夫や子どもたちと一緒に、ささやかだけれど平穏な生活を送っていました。
「住んでみて」
今も、もし戦争がなかったら、と考えずにはいられません。戦争は私の夫を含め、100万ともいわれるイラク人の命を奪ってしまいました。国民の多くがサダム体制を変えたいと願っていたのなら、外国軍の力によってではなく、エジプトやチュニジアのように国民自身が成し遂げればよかったのです。
米国のオバマ大統領は、「イラクは安定した国づくりに向かっている」と言っているようですが、私はこう反論したいのです。「それだったら、1カ月でいいからこのイラクに家族と一緒に住んでみてください」と。米国がいかに間違った戦争を行ったかが理解できるでしょう。
戦争を始めたブッシュ前大統領には…。それは口に出さなくてもわかってもらえると思います。