2012年2月27日(月)
主張
「一体改革」
ブレーキが壊れた増税マシン
消費税増税は「リーマン・ショックや東日本大震災後のように著しい落ち込みではない今の時点なら可能だ」―。安住淳財務相が22日の衆院予算委で明言しました。
政府は消費税を2014年4月に8%、15年10月に10%に増税する法案を来月国会に提出するとしています。安住財務相の発言は、そのときの日本が「今の時点」のような経済状況なら増税を実行するという姿勢の表明です。
マイナス2・3%でも
「今の時点」―。直近の速報では昨年10〜12月期の経済成長率は年率で実質2・3%のマイナスです。世界経済危機による海外需要の低迷などで輸出が落ち込み、家計の収入が減って内需も冷え込んでいます。厳しい経済状況が続いていることは明らかです。
こんな経済状況でも消費税を増税できるとした財務相発言は、新たな経済危機や大震災でも起きない限り、景気がどうあれ増税を強行するという暴論です。
17日に閣議決定された「社会保障・税一体改革大綱」は「経済状況の好転」を増税実施の条件にするとしています。経済状況を「総合的に勘案」して増税を停止できる規定を増税法案に盛り込むというものです。民主党の「一体改革」想定問答集も「経済状況が好転していなければ、時の政権が引き上げをすることができない」と模範回答を示しています。
「消費税増税は仕方がない」と考える人も、1997年の消費税増税による大不況の経験から、経済への打撃には大きな不安を持っています。そんな人にも「心配はいらない」と説得するための規定です。しかし「総合的に勘案」した結果、経済がマイナス2・3%でも増税できるなどというのでは何の歯止めにもなりません。
見過ごせないのは、民主党政権が消費税増税の影響を極めて軽く見ていることです。1月の「経済財政の中長期試算」でも消費税増税で発生する増税前の駆け込み需要と増税後の反動減は相殺され、経済への影響はゼロだとしています。その後も、社会保障に充てるから「経済への影響は限定的」としています。
これは97年の経験をまったく無視した議論です。当時は景気の回復局面であったにもかかわらず、駆け込み需要の反動減によるショックで大量の製品在庫が積みあがり、景気を急速に悪化させました。とくに資金繰りの厳しい中小企業の倒産の大幅増加が長期にわたって続きました。98年の「中小企業白書」も、「駆け込み需要の反動減が予想以上に大きく、かつ、長引いている」と指摘しています。
いっそう破壊的な作用
極端な需要の変動は市場経済にとっては劇薬です。それを1年半の間に2回も引き起こす今回の増税計画は、いっそう破壊的な作用を景気に及ぼします。
政府の説明でも社会保障の「充実」に回るのは税率1%分にすぎず、それも「大綱」に列挙された社会保障切り捨て策で吹き飛ぶ計算です。実際の「充実」は1%分をはるかに下回るという試算もあります(大和総研)。社会保障に充てるという議論は、前提そのものが崩壊しています。
机上の空論で消費税増税に突っ走る民主党政権はブレーキが壊れた増税マシンです。世論と運動の力で止めるしかありません。