2012年1月31日(火)
市田書記局長の代表質問 参院本会議
日本共産党の市田忠義書記局長が30日、参院本会議で行った代表質問は次の通りです。
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私は日本共産党を代表して野田総理に質問します。
東日本大震災・原発事故からの復興
失業給付や医療・介護負担減免の延長を
いまも33万人ものかたがたが避難生活を強いられている東日本大震災と原発事故からの復興は、引き続き国政上の最重要課題であります。そこでおうかがいします。
被災地では仕事を失い、いまだに職につけない人が多数残されています。ところが、その人たちの職場の確保の見通しも立たない中で失業手当が次々に打ち切られています。この3月までに7000人をこえ、9月末には全員が打ち切られてしまいます。職につけないまま失業手当を打ち切られた人を見捨てるつもりですか。安定した仕事と収入を保障するために全力をあげるとともに、当面、少なくとも失業給付の延長を行うべきだと考えますがいかがですか。
また被災地で続けられている医療と介護の負担減免措置もいまのままでは2月いっぱいで打ち切られます。延長すべきではありませんか。
福島の人たちは、日々刻々、放射能被ばくのおそれにさらされながら暮らしています。とりわけ子どもたちの健康への影響は、すべての国民が心を痛めています。福島県はそうした不安にいくらかでもこたえるために、18歳以下の子どもたちの医療費の無料化を求めてきました。総理も直接その声を福島県知事から聞かれたはずであります。なぜその願いを拒否したのですか。かかる費用はわずか90億円にすぎません。民主党が懐にいれている政党助成金はそれをはるかにしのぐではありませんか。自らの懐は温めても、福島の子どもたちには手を差し伸べない、こんな冷たい政治はありません。
消費税大増税・社会保障切り捨て
国民生活・経済・財政に大打撃。きっぱり断念を
2009年9月の政権交代に国民が託したのは、「自民党政治を変えてほしい」という願いでした。ところが野田総理は、当時の自公政権の総理の施政方針演説を引いて「私が目指すものも、同じです」と述べられました。国民の期待と公約を完全に裏切った、文字通りの自民党政治への回帰宣言であります。
そしてやろうとしていること、その中心が消費税の大増税であり、社会保障の切り捨てであります。
総理は、消費税の大増税が国民の暮らしにどれだけ大きな打撃を与えるか考えられたことがありますか。
消費税の大増税は、必死で生活と生業(なりわい)の再建に立ち上がろうとしている被災地の人々にも例外なくおそいかかります。
消費税が5%から10%に引き上げられれば、岩手、宮城、福島の3県の人たちへの増税額は5300億円にもなります。いま3県のみなさんが負担している住民税の合計額は4050億円ですから、それよりもはるかに巨額な負担を強いることになります。あなたは、「今なお仮設住宅で不自由な暮らしを余儀なくされている方々に、少しでも『ぬくもり』を感じていただきたい」と言われました。しかし、これだけの負担増を押し付けて、なにが「ぬくもり」ですか。この言葉ほどうつろに響くものはありません。
消費税が今の5%に引き上げられたのは1997年でした。その時と比べて会社員の年収は55万円も減りました。さらにこの間、正社員から派遣や契約社員などへの置き換えが進み、非正規労働者は全体の38・7%にもなり、年収200万円以下の民間労働者は、4人に1人、1000万人をこえています。こんなに収入が減っている国民に2倍の増税をする、何が「生活第一」でしょう。いま生きている人の暮らしを破壊して、どうして社会保障が充実するというのですか。しかも社会保障は拡充どころか、年金支給額の削減、支給開始年齢の繰り延べ、医療費の窓口負担の値上げなど、改悪と切り捨てのオンパレードではありませんか。
消費税の増税は庶民の暮らしに打撃を与えるだけではありません。日本商工会議所などの調査によれば、現状でも消費税を価格に転嫁できず、身銭をきって消費税を納めている事業者は、売上高が比較的多い5000万円のところでも半数以上に及んでいます。これが2倍の10%に引き上げられたら、売上高がさらに多い2億円の事業者でも身銭をきらなければならないと答えた人が半分をこえています。ただでさえ、下請け単価が切り下げられ、庶民の暮らしの悪化から売上高が急減しています。そこへ増税すれば日本経済を根っこで支えるために必死でがんばっている中小企業の、息の根をとめることになってしまうではありませんか。これでどうして日本経済の再生ができるというのでしょうか。
消費税の大増税は、ただでさえ大変な日本経済と財政に決定的な打撃をあたえます。歴史の教訓に学ぶべきであります。97年の消費税引き上げは3%から5%、増税額は5兆円、それに医療費の値上げなど合計で9兆円の負担増でした。それによって、なんとか回復しつつあった景気がいっぺんに冷え込みました。税収も落ち込みました。景気対策だといって大企業減税、大型公共事業のばらまき、銀行救済のための公的資金の投入などが行われた結果、財政再建どころか、国と地方の債務は増税後の4年間に449兆円から645兆円、対GDP(国内総生産)比で88%から128%に膨らんでしまいました。それを、国民の収入が減っているときに消費税の増税だけで今度は13兆円、年金給付削減、年少扶養控除廃止などを合わせると16兆円もの負担増をかぶせれば、財政再建どころか、97年のとき以上に暮らしも経済も財政も大打撃を受けることは明らかであります。
しかも、いったん消費税増税に踏み出せば、際限のない増税につながることは閣僚の相次ぐ発言からも明らかではありませんか。きっぱり断念すべきであります。
日本経済を再生させるには
横暴なリストラに歯止め「原則正社員」ルールこそ
GDPのほぼ6割は個人消費であります。本当に日本経済を再生させようというのなら、まず何よりも経済の主体である国民の暮らしと営業の再建、労働者の雇用の拡大と安定、中小企業を支援しながら最低賃金を時給1000円にするなど、賃金の引き上げこそ急務です。ところがいま、パナソニックや東芝など日本を代表する大企業は、全国各地で猛烈な工場閉鎖と退職強要を強行しています。大量の期間工切り、派遣切りが横行していることは、リーマン・ショック後の大リストラと何ら変わるところはありません。派遣村に象徴される非正規労働の課題は、政権交代の端緒ともなった大問題でした。ところが、財界に言われたとおりに、労働者派遣法の抜本改正の願いを、民主・自民・公明3党で完全に骨抜きにし、さらにこんどは、期間労働者を、いつでも、どこでも、何年でも、くりかえし使い捨てにすることができるようにする有期労働契約法制をつくろうとしています。
いまこそ大企業による横暴・勝手なリストラに歯止めをかけるとともに、「雇用は正社員を原則とする」というルールの確立をめざすべきではありませんか。
社会保障拡充と財政危機打開
まず無駄遣い一掃し特権的優遇税制廃止を
社会保障の拡充と財政危機を打開するためには、八ツ場(やんば)ダムなどの無駄な大型公共事業、原発推進予算や米軍への「思いやり予算」をはじめとする軍事費、政党助成金などの無駄遣いを一掃し、富裕層・大企業への1・7兆円もの新たな減税をやめるとともに、特権的な優遇税制を廃止する。そして、次の段階では社会保障の抜本的な拡充のため、国民全体で支えることが必要になります。その場合も、収入の少ない人ほど負担が重くなる消費税ではなく、負担能力に応じて負担する応能負担の原則にたった税制改正によって財源をつくりだすべきだ。このことを指摘して質問を終わります。
市田書記局長への野田首相答弁(要旨)
日本共産党の市田忠義書記局長の代表質問に対する野田佳彦首相の答弁(要旨)は次の通り。
【被災者の失業給付の延長、医療・介護の負担軽減】被災者の方々が生活の再建を進めるうえで最大の不安は、働く場の確保であると認識をしている。これまで、特例として210日分の延長をしてきた失業給付の期限が到来する方が出始めるなかで、産業政策や復旧・復興事業で生じる求人をハローワークで開拓・確保し、必要な求職者には個別対応、職業訓練を行うなど、きめ細かな就職支援を実施する。被災地の強みである農林漁業、水産加工業に対して、産業政策と一体となって安定的な長期雇用を創出するなどにより、被災された方々が働くことで収入を得られるよう、被災地の雇用創造に全力を尽くす。
被災された方々の健康を守る観点から、福島原発事故による警戒区域等の住民の医療や介護の一部負担金の免除措置を最長1年間延長するとともに、その他の地域でも無職や高齢者の方が加入する国民健康保険、後期高齢者医療制度や介護保険の一部負担金の免除措置を一定期間継続する方針としている。
【18歳以下の医療費無料化】子ども医療費無料化については、福島県から要望をいただいており、関係閣僚の間でも熟慮を重ねてきた。しかし、国の医療保険制度の根幹に影響を与えるなどの課題もあり、対応が難しいとの結論に至った。この旨を一昨日、福島県に対して伝えた。
福島県としては、子どもたちを育てやすい環境を整備していく観点から、福島県民健康管理基金の活用を含め、子どもの医療費無料化を前向きに検討するとうかがっている。政府としては、放射線被ばくの低減や健康管理対策等を通じ、引き続き福島の将来を担う子どもの健康について最大限の支援を行っていきたい。
【消費税増税と被災地や国民生活への影響】大震災からの復興はこの内閣の最優先課題であり、復興庁や復興交付金、復興特区制度などを活用して、被災地の復興を加速をしていく。
一方で社会保障・税一体改革は、社会保障の充実、安定化を図り、若い世代を含めた国民の不安を解消し、将来に希望を持てる社会を取り戻すための、どの内閣であっても先送りできない課題だ。すべて国民に還元するものであり、消費税の引き上げにあたっては、低所得者等にも十分配慮をしていく。
この改革の実施にあたっては、国民の理解と協力を得るために、改革の意義や具体的な内容をわかりやすく伝えていく努力が欠かせないと考えており、私と関係閣僚が先頭に立って国民への情報発信に全力を尽くす。
【一体改革における社会保障】今回の一体改革は、社会保障の充実を確実に実施するとともに、社会保障全体の持続可能性の確保を図ることにより、全世代を通じた国民生活の安心を確保する全世代対応型の社会保障制度の構築を目指すものである。このため、全体で3・8兆円程度の充実を行う一方、最大1・2兆円程度の重点化・効率化も行い、あわせて2・7兆円程度の充実を行うことにしている。
具体的には、保育などの子育て支援の量的拡充と質の向上、在宅医療・介護の充実、低所得者への加算など、現行の年金制度の改善、低所得者の保険料の軽減、総合合算制度など貧困格差対策の強化などを行うことにしている。このように、一体改革は、社会保障の必要な機能の充実と重点化・効率化をあわせて行うものであり、「改悪と切り捨てのオンパレード」との指摘は当たらない。
【消費税の適正転嫁】消費税の適正転嫁については、弱い立場の事業者が不利益をこうむることのないよう、事業者の実態を十分に把握し、関係府省が一丸となって対策を講じる。
具体的には、今般の消費税率の引き上げが段階的な引き上げになることも踏まえ、消費税の転嫁・表示等に関するガイドラインの策定およびその周知徹底、中小事業者向けの相談窓口の設置、講習会の開催、取引上の優越的な地位を利用した不公正な取引の取り締まり・監視の強化、便乗値上げ防止のための調査・監督および指導といった取り組みを行っていきたいと考えており、関係府省の緊密な連携を確保し、総合的に対策を推進するための本部を内閣に設置することとしている。
【消費税増税の経済、財政への影響】人口構造の急速な高齢化、社会・経済状況の変化、欧州の政府債務問題に見られるグローバルな市場の動向を踏まえれば、社会保障の充実・安定化を図ることは先送りできない課題だ。
一体改革により社会保障の安定財源を確保し、財政健全化を進めることは、将来への不安を取り除き、人々が安心して消費や経済活動を行う基礎を築くものと考えている。
1997年の景気後退については、同年7月のアジア通貨危機、11月の金融システムの不安定化という他の要因によるものが大きいと考えている。
【日本経済再生のための方策】分厚い中間層を復活させるため、中小企業をはじめとする企業の競争力と雇用の創出を両立させ、日本経済全体の元気を取り戻せるよう取り組んでいく。
このため農業、エネルギー・環境、医療・介護といった新たな需要を生み出す分野でのイノベーションの推進等により、安定雇用を生み出すとともに、労働力人口の減少が見込まれる中で、若者、女性、高齢者、障害者の就業率の向上をはかり、意欲あるすべての人が働くことのできる全員参加型社会の実現を進めていく。
最低賃金の引き上げについては、「新成長戦略」でも掲げた目標の実現に向けて、中小企業団体とも連携しながら、中小企業に対する総合的な施策を講ずるなど、雇用・経済への影響も配慮し、労使関係者との調整を丁寧に行いながら、その引き上げに取り組む。
【大企業のリストラへの歯止め、正社員を原則とする雇用ルールの確立】解雇・雇い止めは、労働者の生活に大きな影響を与えるため、企業の理解を得ながら、雇用の維持・確保をはかることが重要である。非正規労働者は、正規労働者と比べて雇用調整の対象となりやすいこと、相対的に低賃金であることなど、雇用や生活が不安定であるとの認識をしている。このため、ハローワークにおける就職支援や各種助成金の支給により、非正規労働者の正社員としての就職を支援していく。
派遣労働者の雇用の安定をはかるため、現在、国会で継続審議となっている労働者派遣法改正案については、与野党で精力的に議論いただき、速やかな成立をお願いしたい。
有期労働契約を長期にわたり反復継続した場合に、労働者の申し出により、期間の定めのない労働契約に転換させる仕組みを導入することなどを柱とする法案を今国会に提出する予定だ。これらの対応を通じて、働く方々の不安を取り除き、安心して働き続けられる社会の実現に努める。