2012年1月27日(金)
介護報酬改定案
「在宅化」が意味するもの
社会保障審議会が25日に小宮山洋子厚生労働相に答申した2012年度の介護報酬改定案は、「高齢者が住み慣れた地域で生活し続けることを可能にする」ことを掲げ、在宅支援強化を看板にします。目玉は「24時間巡回型訪問」の創設です。
住み慣れた場所で暮らし続けること自体は国民の願いです。しかし、改定案の実態はどうでしょうか。
今回の改定では施設への報酬を全体として下げます。そのうえで重度者が多い施設に加算をつけるため、中軽度者は入所しにくくなります。老人保健施設では、在宅に移った人の割合やベッドの回転率の高い施設の報酬を高くして、経営面から退所を誘導します。
これでは42万人を超す特養ホーム待機者がいるのに、施設を増やすのではなく強引に在宅化をすすめるもので、「介護難民」を生みかねません。
受け皿となる在宅介護はどうかといえば、要介護者の暮らしを支えている生活援助の時間を大きく削り、生活の質を落とします。
ヘルパーが利用者と会話する余裕もなくなり、利用者への精神的な支えやヘルパーのやりがいを奪うと強い批判があがっています。
新設される24時間対応の定期巡回・随時対応型訪問サービスは、「中重度者の在宅生活を可能にする」ためとして、1日に5〜10分程度の短時間・複数回の定期巡回と随時の訪問介護・看護を行うというものです。このサービスを受けた場合は、従来の1回1時間などの訪問介護は受けられません。
訪問回数などはケアプランで決められますが、事業者が変更することも認められています。事業者への報酬は定額制です。「24時間、何度でも受けられる」とメディアで宣伝されていますが、一定以上のサービス提供は事業者の持ち出しになるため、“誇大宣伝”といわざるをえません。
介護保険の利用サービスは1割負担で使える上限があり、それ以上は10割全額が自己負担です。定期巡回型サービスの利用料は上限ぎりぎりに設定(表)されたため、このサービスを使うと、利用限度内では、リハビリなど他のサービスを受けるのに制約が生じます。24時間対応できるだけの人材が確保できるかも不安視されています。
強引に施設から在宅化しても、地域で安心して暮らすには程遠いものです。
なぜそうなるのかといえば、政府の言う「在宅への移行」とは実は、給付費削減を意味するからです。
今回の改定は、「社会保障・税一体改革」の「第一歩」とされていますが、昨年6月の「一体改革」成案の工程表では、「在宅への移行」と「介護予防・重度化予防」で1800億円の公費削減を見込んでいます。
給付費削減のための在宅化では、掲げた看板とは逆に「介護殺人」や虐待などの悲劇を増やしかねません。 (西沢亨子)
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