2012年1月21日(土)
「一体改革」どうみる、対案は
BSフジ番組 市田書記局長語る
日本共産党の市田忠義書記局長は19日のBSフジ「プライムニュース」に出演しました。このうち、「社会保障と税の一体改革」への見方、将来あるべき税と社会保障の姿などを語った部分を紹介します。司会は反町理フジテレビ政治部編集委員と八木亜希子キャスター。
消費税大増税
被災地負担5300億円にも 経済も財政もだめになる
反町 税と社会保障については民主党が年末に素案を決定しました。(消費税率を)2014年に8%、15年に10%にするという中で、社会保障の像も出ているんですけど、共産党としてはどうみているんですか。
市田 国民の暮らしがこれだけ大変、景気も大変、中小企業の営業も大変という、こんなときに消費税の増税かと(思います)。
東日本大震災の被災地の人びとにも消費税がかかるわけです。被災地の3県で消費税が10%に引き上げられると、それ(5%分)だけで5300億円とられるんですよ。
反町 なるほど。
市田 3県の住民税は、いま4050億円ですよ。それを上回る額をとられちゃうわけでしょう。
それから、年収200万円以下のいわゆるワーキングプアといわれる人はいま4人に1人です。1100万人を超えたんですよ。
それから、1997年に消費税が2%引き上げられて5%になりました。あのときと比べて、民間の労働者の年収は平均で55万円減っているんですよ。
反町 なるほど。
市田 これだけ暮らしが大変なときに消費税を倍にするということになれば、これは暮らしだけじゃなくて、経済も財政もだめになる。
5%への増税で借金は膨らんだ
反町 財政もだめですか。財政がピンチだから5%上げると…。
市田 「財政再建のために」と(政府は)いっているわけですね。私は橋本内閣のときの歴史の教訓から学ぶべきだと思うんです。97年に3%から5%に引き上げられたときでも、消費税(増税)の分は5兆円ですよ。医療費の負担増などを含めて9兆円の負担増だった。あのときは緩やかだけど景気は回復基調だったし、国民の所得も上がり始めていたんですね。
反町 うん、うん。
市田 ところが9兆円負担増でどん底に突き落とされたわけですよ。今度は消費税(増税)分だけで13兆円です。それ以外を含めると16兆円の負担増なんです。(97年の)あのとき、消費も落ち込んだし、経済も景気もどん底に落ち込んだんだけど、借金がどうなったか。消費税増税前の96年に(国と地方の)借金が449兆円だった。GDP(国内総生産)比で88%です。それが(消費税の)増税後の2000年に645兆円に膨れ上がって、GDP比で128%になった。
つまり税収も減る、景気も悪くなるという中で、かえって借金も増えた。だから暮らし、経済だけじゃなく、財政も壊すと(いうことです)。
反町 うん。
八ツ場ダム・原発・戦闘機・政党助成金…
ムダ遣い続けたままで国民に消費税増税とは
市田 それから今度の消費税でものすごく問題があると思っているのは、一つはムダ遣いを続けながらの増税だという点です。
例えば八ツ場ダムは民主党のマニフェストの一丁目一番地でしたよね。ムダの典型だ、削れといっていたのに(継続し)、総事業費で国と地方で9000億円ですよね。そこへ原発推進予算4200億円でしょう。それからアメリカでも軍事費を80兆円ぐらいこれから減らそうといっているときに、1機100億円ぐらいする戦闘機F35を42機買うという。関連経費を含めれば1兆6000億円です。それから政党助成金。
反町 (共産党は)もらっていないですもんね。
市田 わが党はね。(政党助成金は)320億円でしょう。ムダという面もあるけど、自分の党の運営を国民の税金でやっておいて国民には消費税を倍にする。これではね。
「弾力条項」のごまかし明らか
反町 でも素案の中には「弾力条項」がある。景気の状況をみて(消費税を)引き上げるかどうか決めるっていう。そこの部分はだめなんですか。
市田 弾力条項ほどのごまかしはないと思います。いつごろから消費税を上げるとなると、消費税が上がるまでにモノを買おうということになって一時的に景気が回復したようにみえるんですよ。
反町 駆け込みがありますからね。
市田 駆け込み消費がある。今度は2段階で(税率引き上げを)やるわけだからよけいにそういうことが起こる。だからあんなものは全く信用ならないということは、もう97年のときで証明済みなんですよ。
国会比例定数80削減
民意の正確な反映こそ 比例削減には反対
反町 なるほど。与党は公務員の給与7・8%カットとか、国会議員の歳費も削ろうとかいっていますけれども、こういう与党の姿勢はあまり評価はされないんですか。
市田 むちゃくちゃな増税を強いるためにこういうことをやりますよと、合理化するための考え方だと思うんですね。
定数削減というのは、(議席は)私物じゃないと思うんですよ、国会議員の。国民の民意を反映するのが国会議員ですから。とりわけもっとも民意を正確に反映する比例を80削減するなんていうやり方はよくない。
国家公務員でいいますと…。
賃下げ競争では国民の懐冷える
反町 共産党は国家公務員の給与削減には反対なんですか。
市田 被災地をごらんになったら分かると思うんですけど、一部の高級官僚は別ですが、一般の公務員のみなさんはみずから被害を受けながらも必死で献身的に救援・復興のためにがんばられたと思うんです。
国家公務員の給料が民間と比べると高いといいますが、前は別のことがいわれたんですよ。民間が高いと。それで国家公務員がこんなに低いんだからと(いって)民間が下げられた。今度は民間が相対的に下がったから国家公務員を下げろと。こういう賃下げ競争をやってしまうと、家計も消費も落ち込んで、国民の懐が冷え込んでしまう。
反町 なるほど。
市田 日本のGDPの6割近くが個人消費です(反町「個人消費ですね」)。それが落ち込めばモノの売り買いが不活発になって、景気も悪くなる。財政も悪くなる。そういうやり方をやるべきではないと(思います)。
ムダを削るなら、さきほどいったようなムダを削るべきです。
米も軍事費削減日本もカットを
反町 そうすると、1000兆円にも上る借金を共産党はどうやって返そうという話になるんですか。
市田 いっぺんにはなかなか難しい。いくつかの段階があると思います。第一にムダを削ることです。
反町 防衛費なんかもカットですか。いま5兆円ですけど。
市田 そうです。軍事費をカットすべきです。「思いやり予算」なんてね、(反町「あれはでも4000億円ぐらいじゃないですか」)、これからもずっと使い続けるわけでしょう。さっきの戦闘機なんかも42機買い続けるわけでしょう。やっぱり軍事費は大幅に削る。アメリカでも削るといっているときに、きちんと削るべきだと(思います)。
反町 なるほど。
市田 それから大資産家、大企業にまけすぎてやっている税金がありますよね。これから毎年1・7兆円、大資産家と大企業に減税をやるというんです。これをやめる。いま、ヨーロッパでもアメリカでも富裕層自身が「もっと税金をとってくれ」とみずからいっている状況なんですよ。
反町 そうですか、それは知りませんでした。
八木 (うなずきながら)そういう集団もありますよね。自発的に…。
市田 ウォーレン・バフェットというアメリカの投資家は、ニューヨーク・タイムズ紙も書きましたけれども、“もっとわれわれから税金をとってくれ、うちの社員よりも僕のほうが税金が少ない”と(訴えた)。日本からそういう声が起こってこないんですよね。
高くない日本の法人税
特権的減免がいっぱい 大企業への減税はやめるべきだ
反町 金持ちの規模が(日本とアメリカでは)全然違うじゃないですか。
市田 ただね、株の取引とか配当にかかる税金が、証券優遇税制といって、本則2割だったのがいまは10%でしょう。
反町 なるほど。
市田 ヨーロッパではだいたい3割、4割で、5割にしようかとなっているときに、いまだに10%。これはひどい。やっぱり富裕層から負担能力に応じてきちんととる。
反町 なるほど。
市田 それから大企業ですけど、法人税が日本は高い高いといわれるんだけど、研究開発減税とか連結納税制度とか、特権的な減免制度がいっぱいある。実質払っている法人税は、例えばソニーは13・3%です。京セラは16・7%。住友化学は17・2%なんです。実効税率4割で高いといっても、特権的な制度があって(実際は)低いんですよ。
むちゃくちゃ上げろとはいいません。しかし少なくともこれから1・7兆円減税するようなことはやめなさいと(いうことです)。
反町 うん、うん。
社会保障拡充の財源
「応能負担」で国民全体が支える
市田 それから将来的には社会保障をもっと拡充しようと思うとこれだけでは足りないですよ。やっぱり国民みんなが負担する。
反町 そのときは消費税ですか。
市田 いや、消費税というのはもっとも不公平な税制ですから。
反町 ほう。
市田 「応能負担」の原則で(反町「じゃあ累進性を強める」)、累進性を強めて、しかもいま国民所得は落ち込んでいるから、国民の懐をもっと温めて、景気も経済も安定する状況をつくる。そのためには雇用のルールを確立するとか、最低賃金制をきちんとつくるとか、少なくとも時給1000円にするとか、大企業と中小企業の公正な取引のルールをつくるとか、そういう状況をつくった上で累進的な課税で(財源をつくる)。
大企業と大資産家にさえ負担を強いたらいいんだという考えでは共産党はないんです。将来的には国民みんなが支えなかったら、社会保障の拡充はやっていけない。その場合でも、収入の低い人ほど負担が重くなる消費税に頼るべきではない。
反町 (消費税の)逆進性に問題があるということなんですね。
市田 やっぱり社会的な連帯で、負担能力に応じて国民みんなが負担していく。将来的にはそういうことを考えるべきだということで、いま具体的な案を検討中です。
総選挙
消費税増税反対とともに社会保障拡充へ対案示す
反町 そうすると、この次の総選挙はやっぱり消費税がテーマになると思います?
市田 思います。
反町 そのときは共産党は、自民、公明、民主が(消費税を)上げるといっているときに、真っ向からたたかいを挑むことになるわけですね。
市田 大きな争点になるでしょうね。ただ、消費税増税に反対というだけではだめだと思うんです。
暮らしと経済と財政まで壊してしまうような消費税増税はストップする。ムダを一掃して、増税するんだったら富裕層や大企業からまず始めなければいけない。同時に、景気が回復してまともな状況になれば、国民全体で負担して社会保障の拡充をきちんとやろうじゃないかと(いうことです)。国民の中には社会保障拡充のためには少々の増税はやむをえないんじゃないかという思いの方がおられると思います。
反町 ありますね、いまの状況では。
市田 しかしだんだん(政府案の)中身がわかってきて、「社会保障拡充のための消費税増税」というけれども中身はそうではないんじゃないかということで、どの世論調査をみても五十数%の人が「反対」という声があがってきています。
内閣を改造したけれど、ふつうはご祝儀相場で(支持率が)上がるのに全然上がらなかったのは、そのへんを国民のみなさんはきわめて健全で、よくごらんになっているなと思いました。
反町 ありがとうございました。
市田 どうもありがとうございました。