2012年1月7日(土)
米新国防戦略
財政難でも軍事力維持
【ワシントン=小林俊哉】オバマ米大統領が5日に発表した新しい国防戦略指針は、「米国の地球規模の指導性を堅持」するとして、「米軍の優越性を維持」する(オバマ氏による前文)と強調しています。パネッタ国防長官は同日、「世界のどの地域であれ、米国の(軍事的)存在を維持する」必要性を強調。積極的な海外展開方針に変更はありません。
地上部隊は削減
世界最大の軍事力は米政府にとって「地球規模での他に例のない(米国の)指導性を支える」(パネッタ長官)ものと映ります。厳しい財政事情から軍事費の削減に迫られながらも、「(戦費を除く)国防予算はブッシュ前政権の末期より増額し続ける」(オバマ氏)と強調しました。
今回の指針発表のきっかけは予算上の制約でしたが、イラク戦争の終結、アフガニスタン戦争の「出口」をにらんで、新しい戦略環境に適応するための軍戦略の見直しという狙いもあります。オバマ氏自身、第2次世界大戦やベトナム戦争後の軍事費見直しでは戦略的観点が足りなかったとして「過去の誤りを繰り返す余裕はない」と強調しています。
その一つが、地上部隊の削減措置です。パネッタ氏は、イラク戦争のような大規模かつ長期に侵攻・占領するような能力を保持する態勢はとらないと表明。カーター国防副長官も「そのような軍事作戦は、将来ありそうもない」と述べました。
二つの大きな紛争に同時に対応する「二正面戦略」についてパネッタ氏は、「複数以上の敵に一度に立ち向かい、打ち負かす能力を持ち続ける」と表明しました。
ビンラディン容疑者の殺害などの特殊作戦については、国際的批判にもかかわらず、「能動的アプローチ」をとるとしています。核兵器については、「より小さな核戦力で抑止目的を達成することは可能」として、削減する方向です。
海外展開政策については、指針で「持続可能なペースで維持」することが、「米国の影響力を高める」ことにつながると表明。同時に「思慮深い選択」を行うとしました。
「アラブの春」などを受け「不確定性」が増しているとした中東地域については、イスラエルの安全保障を優先すると同時に、イランの行動を問題視し、中東での米軍のプレゼンスを維持することを重視するとしました。
米軍の存在も抑止力も強化するとしたアジア太平洋地域については、既存の同盟国との関係、インドを中心とした新興国との協力網の強化を強調。中国については、商業・航行の自由との関係で、米軍の接近を阻む戦略に懸念を表明し、中国の戦略意図の透明化を求めています。