2012年1月4日(水)
社会保障の給付減狙う共通番号法案 提出へ
野田政権は、国民一人ひとりに番号をつけ、税と社会保障の個人情報を一つにまとめる共通番号制度の法案(マイナンバー法案)を通常国会に提出しようとしています。財界が「長らく実現を求めてきた」(経団連)もので、社会保障給付の抑制やプライバシーの侵害につながると危惧されています。
政府は昨年12月16日の実務検討会で法案の概要を決定。2012年度予算案には整備費として、総務省や内閣官房など4省庁で合計約67億円の予算を計上しました。
仮に法案が成立すれば、14年6月から個人と企業に番号を割り振ります。15年1月以降、「番号カード」を交付、年金の相談や確定申告の手続きなど各分野で順次利用が開始されます。「国民の利便性の向上」「行政運営の効率化」「安心して暮らすことのできる社会の実現」を目的に掲げています。
政府はこの間、共通番号制導入のメリットとして、医療や介護などの自己負担の合計額に上限をもうける「総合合算制度」など低所得者対策が可能になると強調してきました。ところが、内閣官房の担当者は「何か特定の制度のためということではない。社会保障や税の“公平性”を担保していくことが一番の目的」と話します。
求め続けた財界
真のねらいは何か。民主党は共通番号制について「不要あるいは過度な社会保障の給付を回避する」ために「不可欠」(09年の政策集)と位置づけてきました。
導入を求め続けてきたのは財界です。経団連などは、一人ひとりの負担と給付を把握する「社会保障個人会計」を提言してきました。“社会保障は自らの負担の対価”という、権利としての社会保障とは相いれない考え方を広げ、給付の削減と国民負担増につなげるねらいです。
番号制について、日本弁護士連合会は、「名寄せされる個人情報の範囲が広範になればなるほど、プライバシーに重大な脅威をもたらす」と批判する意見書(昨年7月)を政府に提出しています。
同制度には、他人の番号を盗用する「なりすまし」や個人情報の国家による一元管理などの危険もあります。昨年6月末の政府・与党社会保障改革検討本部の「番号大綱」自身、「深刻な被害が発生する危険性」を認めています。
ところが、個人情報の保護策はお寒いかぎり。「番号情報保護委員会」を新設し、監視・監督などを行うとしていますが、その構成は委員長および最大6人の委員。基本的には各行政機関任せです。
民間利用に危惧
もう一つの危惧が民間利用です。「大綱」では、「将来的に幅広い行政分野や…民間のサービス等に活用する場面においても情報連携が可能となるよう…設計を行う」と明記。18年をめどに「利用範囲の拡大を含めた番号法の見直しを行う」としています。
番号制度を活用して「行政内部だけで管理されていた情報を…民間でも利活用する」(経団連、10年11月の提言)ことを求めてきたのも財界です。提言は「大量の匿名情報の活用や民間サービスとの融合により、新たな産業やサービスの創出が可能となる」と述べています。
営利追求の巨大企業に集中した個人情報によって人が類別化される社会を生みかねません。(藤原直)
政府がねらう共通番号制導入の日程
2012年 通常国会に法案提出
2013年 番号情報保護委員会設置
2014年6月〜 番号通知
2015年1月〜 順次、番号の利用開始 番号カードの交付
2016年1月〜 個人用ホームページの運用開始