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2011年12月26日(月)

原発事故 賠償縮減狙う東電

「収束」宣言 怒る福島

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 福島第1原子力発電所の事故について、政府の原子力災害対策本部(本部長・野田佳彦首相)が16日に出した「収束」宣言―。故郷を離れ県内外への避難を余儀なくされている15万5千人(福島県)の人々に、帰還の見通しは全く立っていません。「収束」宣言強行に県内外から厳しい批判の声があがっています。(中祖寅一)


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(写真)原発事故収束宣言の説明のため福島県庁を訪れた3人の大臣に抗議する人たち=18日、福島市・県庁前

 福島県災害対策本部の職員の一人は、「『ステップ2』の終了宣言の前と後で福島の状況は何も変わってない。これで福島が置き去りにされるなら本当につらい。東電と国に対して、賠償や事故収束への取り組みをしっかり監視していかなければならない」と述べます。

 福島大学災害復興研究所の丹波史紀准教授は指摘します。

 「地元の首長らが語るのは、まだ除染もままならず、モデル事業の効果が確認中の段階で、『収束』の宣言はありえないということだ」

 汚染された土をはがしてどこにもって行くのか―。仮置き場も最終処分場の問題も結論がないし、きちんと検討されていません。

 丹波氏は「飛来してくる汚染物質があり、広範囲の除染が必要で、莫大(ばくだい)な費用がかかる可能性がある。森林が大半を占める地域で、森林をどのように除染していくかの具体性が乏しい」と強調。「安心できる生活圏にするような除染の見通しについて、どのような技術で、どのぐらいの期間でできるのか、そこが工程表として示されなければ、とても『収束』と言えない」と指摘します。

 原子炉を溶かした溶融燃料の現状を誰も明確に把握できず、循環冷却に重大な障害が生じている状況のもとでの「収束」宣言に、専門家の根本的疑問が発せられています。被災者の生活状況から見るなら「論外」でしかない「収束」宣言強行の背景には何があるのか―。

11月段階から

 「東電に対する賠償責任の切り縮めだ」

 福島原発事故被害者弁護団の共同代表の一人である広田次男弁護士は、「収束」宣言の背景についてこう述べます。

 東京電力側は、すでに11月の段階から、「年内に『ステップ2』が完了し収束宣言が出る」と予告。その後は「一斉に除染の作業に入り、来春には避難者の帰宅が可能になる」と主張していました。交渉では、東電としては一年余りにわたり避難生活を強いたことによる営業損害と、慰謝料の二つしか払うつもりはないとして、その後も自宅に戻れないことに対する賠償(財物補償と生活補償)は「考えていない」としていたといいます。

 広田氏は「まさに符節を合わせたように『事故収束』宣言が出た」と述べます。民主党中堅議員の一人は、「事故収束」宣言の狙いについて、「早く帰りたい人を帰して、なるべくお金がかからないようにするということだ」と広田氏の話を裏付けます。

「国の責任も」

 政府は18日、「事故収束」を踏まえ、現在の警戒区域(20キロ圏内)と計画的避難区域を、帰宅困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域に再編する方針を示しました。避難指示解除準備区域は「近い将来の帰宅が可能」とされ、政府はその時期について「来春から年央(来年6、7月ごろ)」としたとされています。広田氏は「東電の国有化の方向も出ており、そうなると国が自らの責任を減少させるための収束宣言だ」と述べます。

米政府高官も相次ぎ来日

 「原発再稼働と輸出など、原子力産業を支える政策の遂行のためには、福島の状況について何も手つかずとは言えない。内外に『安全』をアピールすることが必要なのだ」

 福島大学災害復興研究所の丹波史紀准教授は、野田内閣による原発事故「収束」宣言の狙いについて、こう述べます。

 11月15日に日本経団連が発表した「エネルギー政策に関する第二次提言」は、「安全性の確認された原子力発電所の再稼働が非常に重要である」と強調しています。

 原発再稼働に向け、電力会社と政府、原子力安全・保安院はストレステスト(耐性試験)の手続きを進めています。

IAEA「歓迎」

 各原発のテスト結果の報告書は保安院、原子力安全委員会の評価に加え、IAEA(国際原子力機関)の評価を受けるのが政府方針です。現在、泊原発1号機、大飯(おおい)3、4号機、伊方3号機、玄海2号機、川内(せんだい)1、2号機、美浜3号機の8機がストレステストの結果を保安院に提出しています。「事故収束」を強弁し、福島を置き去りに事故検証もないまま再稼働を急ぐことは、歴史的責任への反逆です。

 日本政府の動きに対しIAEAは16日、即座に「冷温停止」を歓迎し、日本政府と東京電力を称賛する声明を発表。来日した、天野之弥事務局長は細野豪志原発担当相や枝野幸男経産相らと会談(19、20日)する中で、「(原子炉は)不安定な状態を脱しており、収束の判断を尊重する」と述べました。また、ストレステストについて、早ければ来年1月にもIAEAが結果を評価する方針と報じられました。

水面下での動き

 民主党の前原誠司政調会長は22日、日本記者クラブでの講演で、「日本政府は原発再稼働できるか、消費税の引きあげをできるか。市場関係者は共通して厳しく見ているポイントだ」と強調。「(原発再稼働は)外では進んでいないように見えるかもしれないが、当該地元の自治体を含め、話をしているし、安全に対する評価、ストレステストを進めている」と述べ、水面下で再稼働に向けた動きを進めていることを明らかにしました。

 アメリカの動きも見え隠れしています。

 「収束宣言」前日の15日に来日した米エネルギー省のダニエル・ポネマン副長官は、玄葉光一郎外相と会談。アメリカ大使館でマスメディアとの懇談会を開き、都内で講演するなどし、日米安保条約にも言及して「原子力の平和利用の開拓に責任を負う日米両国は安全な原発への移行を加速させる好機(チャンス)と責任をもっている」と語りました。

 また、前原政調会長は21日の都内の講演で、「先般私の部屋にアメリカのエネルギー省副長官が来た」とし、「原子力に対する日米の協力関係というものをいっそう強化していきたいといわれた。私は原子力のみならずあらゆるエネルギーの協力を強化していくと(答えた)」と述べました。

 米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長も来日して、「冷温停止」宣言を支持、歓迎すると表明しました。22日にはNRCが東芝の子会社・ウエスチングハウスの新型原子炉の設計を認可。米国内ではスリーマイル島原発事故以来凍結されてきた原発の新設が、34年ぶりに復活する動きです。東芝は23日に歓迎の意向を表明しました。


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