2011年11月25日(金)
主張
報酬同時改定
医療・介護抑制の手段にするな
来年4月からの医療保険の診療報酬と介護保険の介護報酬についての議論が本格化しています。政府の行政刷新会議(議長・野田佳彦首相)は「提言型政策仕分け」のなかで診療報酬の引き下げ、介護報酬の抑制を打ち出しました。
診療・介護報酬は、医療や介護のサービス費用です。その改定は、利用者が受ける医療・介護の内容や医療機関・介護事業者などの経営に直接かかわり、政策変更につながります。「医療崩壊」「介護難民」といわれる深刻な事態を打開することが求められているにもかかわらず、削減・抑制路線を推進しようとすることは重大です。
削減を加速する危険
診療報酬は2年に1度、介護報酬は3年に1度の改定で、来年は、6年ぶりの同時改定となります。
自公政権時代、社会保障のあらゆる分野で実行された削減路線のもとで、診療報酬は2002年から4回の改定がいずれもマイナスとなり、産科・小児科を中心にした医師不足、リハビリ医療の制限など国民の命と健康に多大な影響を与えました。介護報酬もほぼ毎回マイナス改定が続き、必要な人から介護を取り上げる容赦ない政策が次々と強行されました。
「地域から病院がなくなった」「保険あって介護なし」―09年に政権交代が実現し自公政権を退場に追い込んだ背景に、こうした社会保障削減路線への国民の怒りがあったことは明らかです。
民主党は09年の総選挙政策で「累次の診療報酬マイナス改定が地域医療の崩壊に拍車」などと批判しました。しかし、政権交代後初の診療報酬改定(10年度)では、「報酬引き上げ」を口にしながら、実質伸び率ゼロの改定しか行わず、医療関係者など国民から厳しい批判を受けました。国民にゆきとどいた医療と介護ができるには報酬の増額こそが求められているにもかかわらず、民主党政権はそれにこたえようとはしていません。
診療報酬改定についての厚労省の「基本方針」(案)では、消費税増税と社会保障削減・国民負担増を打ち出した「社会保障・税一体改革成案」に沿った「第一歩」の改定に位置づけていることを明記しています。「一体改革」では、診療・介護報酬の「体系的見直し」を行い、人口が相対的に多い「団塊の世代」が75歳を迎える25年に、平均入院日数の短縮、「外来患者数を現行ベースより5%減少」、「要介護認定者数を現行ベースより3%程度減少」などを目標に掲げています。
いまより高齢者人口が増加するにもかかわらず、方針は患者の病院からの追い出し、受診制限、介護からの排除を加速させかねないものです。機械的な抑制方針を許せば、日本の社会保障の将来はめちゃくちゃになってしまいます。
社会保障費の増額こそ
いま必要なことは、「構造改革」路線の復活を許さず、医療・介護の予算を拡充することです。社会保障費を国の「財政の重荷」ととらえる考え方は誤りです。
財務省などは診療報酬を引き上げれば国民の負担増に直結するようにいいますが、それこそ医療と介護への国の責任を投げ捨てるものです。公的負担を大幅に引き上げ、利用者の負担が増えないように配慮しながら、診療・介護報酬を抜本的に改善することが求められます。