2011年11月17日(木)
きょうの潮流
泉に映るわが身に恋した美少年が、三途(さんず)の川で水中の自分の影をとらえようとして舟から落ち、花と化す。花は、少年の名にちなみナルキッソスとよばれた…。スイセン(水仙)です▼ことしも、暦のうえではスイセンの花の咲き始める時節がめぐってきました。美少年の物語はギリシャ神話ですが、実際にスイセンの多くの仲間は、もともと地中海・ヨーロッパで生まれています▼スイセンの生まれ故郷をたどれば、世界をめぐる気分です。日本の野生スイセンは、中国からやってきました。すみかの中国・福建省の海岸が、台風の波などで洗われます。海に落ちた球根が、沖へと流され、黒潮の波間に漂い日本の海岸にたどりついたようです▼中国へは、シルクロードを通って誰かが運んできたらしい。日本や中国に育つ種類のふるさとは、イスラエルからギリシャにいたる地域ですから。紛争やまないパレスチナで、民主化運動つづくシリアで、大地震が起きたトルコで、財政難に苦しむギリシャで、日本と同じ花が咲いていても不思議ではありません▼すっくと潔い立ち姿。すがすがしい白い花。ほどよい香り。スイセンは、上品さがきわだつ花です。冷たい風が吹きつけ、寄せる荒波をみおろすような海岸の崖に咲くスイセンに、人は気丈さを発見します▼日本では、古くから「雪中花」ともよばれてきました。雪の中で、寒さに耐えながら冬を越すスイセン。雪中花は、冬の東北の被災地で、きっと人々をみまもるように咲くでしょう。