2011年11月16日(水)
主張
7〜9月期GDP
不安材料が山積している
内閣府が発表した7〜9月期の国内総生産(GDP)速報によると、物価下落の影響を除いた実質で542兆円(季節調整値)となりました。経済成長率は前期と比べて実質でプラス1・5%、年率に換算して6%増加しました。
2010年10〜12月期から続いたマイナス成長が一転して、1年ぶりのプラス成長です。数字の上では輸出や家計消費を中心に、公共事業を除くすべての項目が増加しています。
「復旧」には程遠く
輸出は年率で27・4%増です。東日本大震災で分断された部品供給網の一定の回復で、自動車などの輸出が前期より増えました。家計消費は震災後に大きく悪化した消費者心理が上向いて、年率4・1%の増加となりました。
マイナスが続いていた公共事業は、前期はプラスに転じたものの、7〜9月期は再びマイナスに戻ってしまいました。公共事業は東日本大震災の復旧事業で増加してもいいはずです。それが年率で10・8%もの大幅なマイナスとなったことは、民主党政権の復旧の取り組みが遅々として進んでいないことを示しています。
より実感に近い名目値で見ると国内総生産は469兆円で、大震災前(10年10〜12月期)と比べて依然として約6兆円下回っています。アメリカ発の金融・経済危機が世界に拡大する前(2008年4〜6月期)と比べると約40兆円も落ち込んでいます。
日本経済は大震災の打撃からも、世界経済危機の影響からも、「復旧した」と言うには程遠い状態にあります。
足元の回復にも不安材料が山積しています。企業の設備投資の先行きを示す機械受注統計は10〜12月期にはマイナスになる見通しであり、10月の消費者態度指数は横ばいになりました。欧米経済は低成長の長期化が予想され、その影響は新興国にも及ぶとともに円高が定着して、輸出頼みの成長は限界が明らかです。
「構造改革」と経済危機、大震災で破壊された国内需要を立て直さない限り、日本経済の安定的な成長は望めません。
こういうときに民主党政権は輸出大企業を応援し、農業をはじめ内需関連産業をないがしろにする環太平洋連携協定(TPP)への参加に熱を上げています。「復興増税」と法人税減税に続いて、社会保障の給付減・負担増と消費税増税を一体で実行しようとしています。日本市場への輸出増加と浸透を狙うアメリカ、輸出大企業の目先の利益を代弁する財界の言いなりになっているだけ―。これでは日本経済の安定成長を図る戦略を描くことはできません。
「合成の誤謬」に終止符を
経費削減、国外への工場移転など個々の経営判断としては合理的な行動が、日本経済全体では国内の産業連関の寸断、経済波及効果の国外流出、雇用の減少という「合成の誤謬(ごびゅう)」をもたらした―。ことしの「通商白書」の“分析”は的を射ています。
大震災の復旧・復興に全力を挙げるとともに、雇用と中小企業を守るルールを確立し、大企業に社会的責任を果たさせる経済政策への切り替えで「合成の誤謬」に終止符を打つことが必要です。大企業応援から暮らし最優先の立場への転換こそが求められます。