2011年11月16日(水)
薬害イレッサ 国・企業の責任認めず
東京高裁 一転、不当判決
肺がん治療薬「イレッサ」の致死的な副作用、間質性肺炎で死亡した患者3人の遺族が輸入販売元のアストラゼネカ社(大阪市)と国に計7700万円の損害賠償を求めた薬害イレッサ東日本訴訟の控訴審判決が15日、東京高裁(園尾隆司裁判長)でありました。園尾裁判長は、国とア社の賠償責任を認定した一審判決を取り消し、請求を棄却しました。原告・弁護団は「被害の原因を見ようとしない不当判決だ」と批判しています。
次女、三津子さんをイレッサによる間質性肺炎で失った原告の一人、近澤昭雄さん(67)は「死者が出ても国と企業の責任ではなく、医療現場に訴えろという判決だ」と話しました。
最大の争点は、医療機関向けの添付文書による副作用の注意喚起が十分かどうかです。
判決は、イレッサは手術不可能な患者のための肺がん治療薬で、添付文書の対象は処方するがんの専門医だったと指摘。「専門医であれば死亡の可能性を知っていたと考えられる」と述べました。その上で「添付文書に警告欄を設けず、間質性肺炎で致死的事態が生じるとの記載がないことは、合理性を欠くとは認められず、指示・警告上の欠陥とは言えない」として、国とア社のいずれにも責任がなかったと判断しました。
東日本訴訟弁護団事務局長の阿部哲二弁護士は「825人もの突出した被害者を出しているのは、日本だけだ。承認後、半年で180人もの死者を出しながら、国と企業の責任を問わないのはきわめて不当だ」と批判しました。
薬害の教訓どこへ
肺がん治療薬イレッサは、承認からわずか半年で180人、2年半で557人もの命を間質性肺炎などの副作用で奪いました。日本でこれほどの副作用死被害を出した薬害事件はありません。
しかし、東京高裁の判決の内容は、承認前の副作用報告症例について、イレッサが確定的に「因果関係がある」状態でなければ安全対策をとる義務は発生せず、「因果関係がある可能性ないし疑いがある」程度なら安全対策の義務は発生しないとするに等しいものとなっています。
薬害イレッサ訴訟統一原告団・弁護団は15日、声明で、この考え方を誤りだと批判。「過去の多くの薬害事件は、企業と国が予防原則に基づいて、安全対策をとることの必要性を示しており、薬事法もこのような考え方に立って改定されてきた」と指摘しています。
同様に、イレッサの添付文書の記載要領も提訴後、改訂されてきました。原告の一人、近澤昭雄さんは、今年1月から3月までのイレッサによる死者が4人であったことにふれ、「医療現場が変わった。この大きな変化はたたかいによる成果だ」と強調しました。
同判決は、企業と国の安全対策の必要性を根底から否定するもので、この判決を前提とすれば、薬害を防止することはできません。
同原告団・弁護団は、「将来の医薬品安全対策、薬事行政に禍根を残す本判決の不当性を強く訴え、薬害イレッサ事件の全面解決までたたかい抜く」と決意を表明しています。 (岩井亜紀)