2011年11月4日(金)
主張
南スーダン派兵決定
PKO参加の原則に反する
政府がアフリカ南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に陸上自衛隊を派遣すると決めました。一川保夫防衛相は陸自に派遣準備を指示しました。
野田佳彦首相が南スーダンPKOへの派遣の決定を急いだのは、近く開かれる日米首脳会談で、海外派兵の強化を求めるオバマ米大統領の要求にすすんで応える姿勢を示すためです。自衛隊の海外派兵はどんな形であれ憲法に違反するものです。憲法をふみにじって派兵決定を強行した野田政権の責任は重大です。
武器使用拡大の危険も
陸自が行くのは南スーダンの首都ジュバです。第1陣は年明けになる予定です。まず海外派兵を専門とする陸自中央即応連隊200人が先遣隊としてジュバに入り、宿営地の整備などを行った後に、陸自施設部隊約300人が現地入りする計画です。
南スーダンでは独立してまもない8月、東部の10カ所以上の村で大規模な衝突が発生し、女性など数百人が殺害される事件が起きました。10月29日には北部での政府軍と反政府軍の戦闘で市民ら75人以上が犠牲になっています。危険が明らかなのに自衛隊を送り込むのは、PKO派遣は「安全」を前提とするという政府見解にも反しています。武力衝突がくりかえされる地域がジュバから遠く、「派遣に支障はない」などという政府の説明は危険に目をつむる無責任な言い分でしかありません。
政府軍と武装勢力が武力衝突をくりかえしている南スーダンへの自衛隊派遣は、1992年のPKO法制定時に政府がもちだしてきたPKO参加5原則にさえ反します。停戦合意、受け入れ国の同意、中立性、以上のいずれかが崩れた場合は撤収、武器使用を隊員の身体・生命防護に限る―という5原則は、PKO参加は憲法違反という批判をかわすために政府が持ち出したものです。武力衝突のある南スーダンへの自衛隊派遣は5原則違反が明白です。政府が自らに課した制約さえほごにするのは絶対に許されません。
しかも南スーダンPKOの根拠である国連安保理決議1996は、一般市民保護のためにも「あらゆる手段を用いることを許可する」とのべ、武器使用を認めています。南スーダンへの自衛隊派遣は現行の武器使用基準の緩和を促進する口実にもなりかねません。
実際、政府も民主党も、自衛隊とともに活動する他国の部隊などを守るために武器を使用できるように5原則の見直しを急いでいます。その結果が南スーダンで活動する自衛隊に適用されない保証はありません。それこそ海外の戦争で自衛隊が他国の軍隊を守るための武器使用にもつながりかねません。PKO参加5原則の見直しは許されません。
日本への信頼を失う
野田首相は南スーダンへの自衛隊派遣が東日本大震災での世界的支援への「恩返し」とのべていますが、支援国が日本の海外派兵を求めているかのようにいうのは震災の支援国を冒瀆(ぼうとく)するものです。
国際社会の多くは戦争を放棄した憲法をもっているからこそ日本に信頼を寄せています。日本が憲法をふみにじって海外へ自衛隊を派兵し、武力を行使するのは警戒心を高めるだけで、国際社会の信頼を失うことになります。