どのようにして「核兵器のない世界」を実現するか
――「国連会議」への文書発言
2017年3月27日
核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)・日本国衆議院議員
日本共産党幹部会委員長 志位和夫
親愛な議長。
参加された政府代表および市民社会の代表のみなさん。
私は、「核軍縮・不拡散議員連盟」(PNND)の一員として、また、日本共産党を代表して発言します。
「核兵器禁止条約の国連会議」の開催を心から歓迎する
私たち日本共産党は、今年で党創立95年を迎える政党ですが、広島と長崎への原爆投下による言語を絶する惨禍を体験した唯一の戦争被爆国において、戦後一貫して日本国民とともに核兵器廃絶を求め続けてきました。
とりわけ、この間、わが国の被爆者、反核平和運動、そして日本共産党が強く求めてきたのは、「核兵器禁止条約の国際交渉をすみやかに開始すること」でした。わが党は、2010年、2015年のNPT(核不拡散条約)再検討会議において、また、アジアのすべての合法政党に開かれたフォーラムであるICAPP(アジア政党国際会議)において、この要求を掲げて力をつくしてきました。
そうした政党として、昨年12月23日の国連総会が、加盟国の圧倒的多数の賛成で、「核兵器全面廃絶につながる、核兵器を禁止する法的拘束力のある協定について交渉する国連会議」の開催を決定したことを心から歓迎するものです。
「核兵器のない世界」を達成し維持するための法的措置――二つのアプローチ
政府代表および市民社会の代表のみなさん。
「核兵器のない世界」を達成し維持するための法的措置として、どのようなアプローチが最も現実的、効果的でしょうか。
国連加盟国の多数の諸国の支持を得ているアプローチとしては、次の二つのアプローチがあげられます。
第1のアプローチは、「核兵器を禁止する法的拘束力のある文書」(核兵器禁止条約)です。この条約は、核兵器の一般的禁止と義務、核兵器のない世界の達成と維持に対する政治的な誓約を確立するものです。この条約が含みうる要素としては、(1)核兵器の取得、保有、配備、備蓄、開発、実験、生産の禁止、(2)核兵器の使用および使用の威嚇の禁止、(3)国家の領土における核兵器持ち込みの禁止などがあげられます。
この条約は、核兵器の廃棄に関する措置を含まず、将来的な交渉課題として残しています。その意味で、この条約は、核兵器全面廃絶にむけた中間的条約といえます。それは、核保有国の参加がなくても交渉と締結が可能とされています。
第2のアプローチは、「包括的な核兵器禁止条約」です。この条約には、核兵器の一般的禁止と義務とともに、特定の時間枠のなかでの核兵器廃絶のための段階的計画が含まれています。それは禁止と廃絶という二つの要素によって構成され、この二つの要素を一つの条約で一挙に達成しようというものです。
この条約はその意味で文字通り「包括的」なものですが、同時に、核保有国の参加がなくては、核兵器廃棄のための詳細な条項を交渉することは技術的に困難であるとされています。それは核保有国の参加をもって初めて効果的になりうるとされています。
第1のアプローチと第2のアプローチは、もちろん互いに相いれないものではなく、どちらも「核兵器全面廃絶」という同じ目的の達成をめざすものです。それは、「包括的な核兵器禁止条約」を支持する諸国の多くが、「核兵器を禁止する法的拘束力のある文書」(核兵器禁止条約)についても支持していることに示されています。
核保有国の参加を追求しつつ、参加が得られなくても賛成する諸国で禁止条約締結を
政府代表および市民社会の代表のみなさん。
私たち日本共産党は、二つのアプローチのどちらに対しても強く支持するものです。
同時に、今回の「国連会議」では、第1のアプローチ――「核兵器を禁止する法的拘束力のある文書」(核兵器禁止条約)の早期締結にむけた国際的合意を達成することが、最も現実的かつ効果的だと考えます。
その最大の理由は、核兵器保有大国(P5)の態度にあります。核兵器保有大国は、2000年のNPT再検討会議で「自国核兵器の完全廃絶を達成するというすべての核保有国の明確な約束」に合意しました。2010年のNPT再検討会議では「核兵器のない世界を達成し維持するために必要な枠組みを確立するための特別な取り組みをおこなう」ことに合意しました。ところが、これらの国際社会への誓約を実行するどころか、「段階的アプローチ」の名で核兵器廃絶を永久に先送りし、自国の核軍備を近代化・強化するという態度をとっています。
私は、核兵器保有大国にこうした態度をあらため、国際社会への誓約を誠実に実行することを強く求めます。同時に、私たちは、彼らの態度が変化するまで待つべきでしょうか。もはやこれ以上待つわけにはいかないのではないでしょうか。
以上を踏まえて、私たち日本共産党は、今回の「国連会議」に対して、次の要請をおこないます。
核保有国の参加を追求しつつ、かりに最初は核保有国の参加が得られなかったとしても、賛成する諸国の政府によって核兵器禁止条約――核兵器を禁止する法的拘束力のある協定を早期に締結すること。今回の「国連会議」で、核兵器禁止条約の早期締結にむけた国際的合意を達成すること。
核保有国の参加を追求しつつ、参加が得られなくてもこれ以上待つことはしない、賛成する諸国の政府によって核兵器禁止条約――核兵器を禁止する法的拘束力のある協定の締結へと一歩大きく踏み出す。これが現在の国際的な政治状況のもとでただちに追求できる唯一の方策であり、最も現実的で効果的な方策ではないでしょうか。
核保有大国からは、「そのような条約をつくっても核兵器の削減に結びつかない。意味がない」との声が聞こえてきます。
そんなことは決してありません。国連加盟国の大多数の賛成で核兵器禁止条約が締結されれば、核兵器は人類史上初めて「違法化」され、あらゆる兵器のなかで最も残虐なこの兵器に「悪の烙印(らくいん)」を押すことになります。そのことによって、核保有大国は、法的拘束は受けなくても、政治的・道義的拘束を受けることになるでしょう。核兵器に「悪の烙印」が押されれば、それを保有し、使用しようとする国にも「悪の烙印」が押されることになるからです。さらに、核兵器禁止条約は、そこに盛り込まれた諸措置によって、核保有大国の核戦略を軍事的に拘束し、破たんさせる可能性をもっています。だからこそ核保有大国は、核兵器禁止条約の国際交渉の動きに対して、危機感を燃やし、結束して反対しているのです。
いま核兵器禁止条約の締結へと踏み切ることは、核兵器全面廃絶への決定的な突破口となることは疑いありません。核兵器禁止条約の力と、世界の反核平和運動の力――この二つの力をあわせることで、核保有大国の変化を促し、このプロセスに参加させ、核兵器の全面廃絶に道を開く。私は、ここにこそ「核兵器のない世界」への大道があると確信するものです。
そのさい、核保有大国とその「核の傘」のもとにある国ぐにで、核兵器禁止条約を求める声を国民多数の声とし、政治の変革をつくりだすことが、決定的なカギとなっていることを、私は強調したいと思います。
今回の「国連会議」では、核兵器禁止条約の早期締結にむけた国際的合意を達成することが何よりも大切であり、私たちはそれを重ねて強く要請するものです。
日本政府は、被爆国政府として、核兵器禁止条約に賛成の態度をとるべき
政府代表および市民社会の代表のみなさん。
私たちがたいへん残念に思うのは、唯一の戦争被爆国である日本政府が、核兵器禁止条約の国際交渉に反対し、この「国連会議」の開催に反対するという態度をとっていることです。
日本政府は、「核兵器全面廃絶につながる、核兵器を禁止する法的拘束力のある協定について交渉する国連会議」の開催を決定した国連総会の決議に反対した理由として、この決議が、「具体的・実践的措置を積み重ね、『核兵器のない世界』を目指すというわが国の基本的立場に合致していない」とのべています。しかし、核軍縮のあれこれの部分的措置を積み重ねれば、いずれは「核兵器のない世界」が訪れるという「段階的アプローチ」がなりたたないことは、第2次世界大戦後の核兵器に関するすべての外交交渉の結果が示しているではありませんか。
さらに、日本政府は、国連決議に反対した理由として、この決議が、「核兵器国と非核兵器国の間の対立を助長する」とのべ、「核兵器国と非核兵器国の協力を重視する」と表明しています。しかし、「協力」を重視するといいながら、日本政府のとっている立場は、核保有大国の側に身を置き、核保有大国が核兵器廃絶を永久に先送りするためにとなえている「段階的アプローチ」をおうむ返しにくりかえし、核保有大国への「協力」を一方的に求めるものにすぎません。国連加盟国の圧倒的多数の諸国が求めている核兵器禁止条約に、核保有大国の協力を迫ることこそ、被爆国政府のなすべきことだと考えます。
私たち日本共産党は、日本の反核平和運動とともに、日本政府に対して、こうした態度をあらため、核兵器禁止条約に賛成の態度をとることを強く求めていることを、参加されたみなさんにお伝えするものです。