住民の暮らしに欠かせない都市農業を発展させるために
日本共産党の都市農業振興政策
2010年5月7日
日本共産党の小池晃政策委員長と紙智子農林・漁民局長が7日に発表した都市農業振興政策「住民の暮らしに欠かせない都市農業を発展させるために」は次の通りです。
都市の農業は、都市住民にとって、新鮮な食料・農産物を消費者の食卓に供給するもっとも身近な存在です。ところが今、「農産物の価格は値下がりする一方なのに、固定資産税の負担が重くて農業が続けられない」、「代がわりの相続税で、農地を売り、面積が半分になった」など、農業を継続するのが困難だという声が農家から上がっています。この状況は、首都圏、近畿圏、中京圏の三大都市圏だけでなく、政令市、県庁所在地などの大都市にもひろがっています。
都市の住民の側からは、たとえば東京に農業・農地を残したいと思う人が85%にも達します(東京都「都政モニターアンケート」09年6月)。現に直売所、圃場(ほじょう)販売、観光農園など、地産地消の利用も活発になっています。消費地に近くて輸送コストがかからないという条件をいかして、住民の需要にあう農産物を少量・多品目で生産するなど都市の農家も頑張ってきました。農地は、緑の環境や酸素の供給、防災機能など、都市生活に欠かせない多面的な役割も果たしています。大都市圏の自治体も「農業振興プラン」(東京)や「新農林水産振興ビジョン」(大阪)などを策定し、都市の農業と農地の保全に動きだしています。しかし、実効あるものにするためには、国の制度として農地への固定資産税、相続税の負担軽減が不可欠です。
もはや都市の人口が増えず、農地の転用需要が弱まり、住民・農家の高齢化が進んでいるもとで、都市計画のあり方も根本的な見直しが迫られています。政府の側でも、都市計画法の見直しのために、検討を進めてきた国土交通省の社会資本整備審議会都市計画部会も、「都市政策の基本的な課題と方向検討小委員会報告」(09年6月)で、農地から転用して開発の対象とするとされてきた市街化区域内農地の位置づけを百八十度転換すべきだという考え方を示しました。今年3月末に政府が閣議決定した、新しい「食料・農業・農村基本計画」でも、「都市農業の機能や効果が十分発揮できるよう、都市農業を守り、持続可能な振興を図る」ことを掲げ、「都市農地の保全や都市農業の振興に関連する制度の見直し」を提起しています。民主党政権は現在、都市計画制度の見直し作業を中断しています。都市農業を窮地に追い込んでいる開発優先の都市計画や農地税制の改正にただちに取りかかり、都市農業の振興政策を実施することが必要です。
日本共産党は長年にわたって、都市農業の果たす役割の重要性を評価し、農地を都市の重要な一部として保全するよう要求してきました。いまこそ都市農業の政策を抜本的に転換し、農地を適切に管理し、農家が意欲を持って生産に取り組めるようにするため、次のような政策の実現に力をつくします。
(1)都市の農地と農業の維持・発展を都市づくりの重要な柱に位置づける
(1) 多くの農地を開発の予備地として、市街化区域に広く取り込み、転用を強いてきた都市計画制度、市街化区域、調整区域の区分けをやめ、農地、里山の役割をとりいれた都市政策を確立し、農地税制を抜本的に転換して、都市計画における農地・農業の位置づけを明確にします。こうした取り組みを支えるために、「都市農業振興法」(仮称)を制定します。
(2) 「農のある町づくり」「食と農が支える地域づくり」など、都市と農業、森林などの共生をめざす条例づくりをひろげます。それを通じて、農地の所有者は、適正な利用と管理の責任をはたし、住民は地場の生産物利用や生産活動への参加、支持などで、地域の農業と農地・緑地の維持・利用に参加するなど、地域住民の共同の発展をはかります。
(2)農地税制を抜本的に改め、都市農地・緑地の減少を食い止める
(1) 現況農地で、実際に農業が営まれている農地の固定資産税は、市民農園、任意の貸借による場合をふくめて農地並み課税とします。農業生産の継続に不可欠な作業場(住宅を含む)や農機具、畜舎、温室・ハウス用地などの土地固定資産などへの固定資産税・都市計画税も農地に準じた課税にします。
当面、生産緑地の指定条件を500平方メートルから300平方メートルに緩和し、追加指定を促進します。民主党政府が廃止しようとしている農業用地の取得税の軽減措置、一般屠畜(とちく)場の衛生施設、地方卸売市場の家屋などの固定資産税・都市計画税の減免措置は継続します。
(2) 農地の相続税を抜本的に引き下げます。現況農地で、農地として継続利用が確認される農地の相続評価は、永続的な農地利用を前提にした農業投資価格(恒久的に農地利用する場合に通常の取引が成立する価格)とすべきです。
当面、相続税の納税猶予制度を維持し、市民農園や貸付農地も納税猶予を適用します。営農に不可欠な作業場や、農機具倉庫、畜舎、温室・ハウスなどの農業用施設用地、屋敷林なども、対象に加えます。
(3) 農地の転用規制、農地の適正な利用・管理の推進、遊休農地の解消など、市街化区域をふくむ農地利用の適正化をはかるため、農業委員会の機能をつよめます。
(3)採算のとれる価格の実現、農地の基盤整備、販路確保など、農業生産を拡大する条件をひろげる
(1) 「一年中、手を抜かずに頑張っても採算が合わない」と嘆いている農家の声にこたえ、国の価格保障・所得補償を充実させるとともに、国の野菜・果樹対策を、少量・多品目生産、小規模の多い都市部の生産も対象になるように拡充します。
(2) 市街化区域に組み入れられていたために、後回しにされてきた圃場整備、作業道・水利の整備・補修、境界の緑化などの小規模土地改良事業を、地域の実情にあった内容で、国の補助事業として実施します。
(3) JA農協が、農業生産の技術指導や直売所の設置、生産・出荷の計画的実施など、生産と流通、加工など地域農業の振興に積極的な役割をはたすよう支援・協力を強めます。
(4) 相続税の支払いのために物納された農地(国有)について、条件に応じて既所有者の継続使用、新規参入をふくめた貸し付けなど、農地としての利用を拡大できるようにします。
(4)生産者と消費者、住民の結びつきをつよめ、地産地消の多面的な発展をはかる
(1) 生産者の顔のみえる販売は、消費者にも歓迎されています。農産物直売所の建設・更新・拡張、直売を行っている農家や販売所を紹介する地図の作製、地元産農産物を扱っている商店の表示など、地産地消の取り組みにたいする自治体の援助をつよめます。
(2) 学校給食や病院など、公共施設での地元産農産物の利用拡大など、学校教育や市民生活との結びつきを生かした農業生産の振興と消費の拡大の取り組みを広げます。
(3) 体験農園を都市農業における大事な施策として充実させるとともに、農業ボランティア、市民農園、都市住民による農業生産への参加など、地域の条件にあった農業生産への参加、農家と住民との交流が広げられるようにします。
(4) 家庭の生ごみや食品廃棄物、街路・公園などからでる枝葉、家畜ふん尿など、都市生活のなかで大量に発生する有機質廃棄物の堆肥(たいひ)化・ペレット化をすすめ、リサイクルを生かした有機農業や資源循環型の生産体制をひろげます。この取り組みをすすめる自治体、農業団体への支援を強化します。
(5)都市の条件を生かした担い手の確保対策を強化する
(1) 国の制度として転職、定年を機会にした就農などに対する援助制度をつくり、50歳までの専業的な新規参入者には、3年間月15万円生活費を補償する担い手支援制度の創設をはかります。
(2) 新規就農者に対する農地のあっせん、機械・資材の購入資金、技術の習得などを自治体とJA、農業委員会などが共同しておこなえるよう、国が助成するようにします。
都市の農業・農地は、安全な食料の供給とともに、良好な住環境を備えた21世紀のまちづくり、地域の経済やコミュニティーの活性化のために不可欠です。日本共産党は、都市に農業・農地を残したい、守りたいと考えている農民、住民、行政のみなさんと力を合わせ、これらの政策を実現するための国・自治体における農業予算の増額を求めるなど、都市農業政策の充実のために全力を尽くします。