日本共産党

記者会見要旨(於・熊本県庁記者クラブ)

国交省担当者が語る「ダム無し治水」の方策とホンネ

───九州地方整備局部内会議速記録が示すもの

二〇〇二年七月十五日  日本共産党衆議院議員 小沢和秋


 この度、私が国土交通省より入手した会議記録(「八月九日(水)事務所長意見交換『今後の河川整備の進め方』」等)は、一昨年の八月九日から十日の二日間にわたり九州地方整備局管内の河川事務所長、専門官が集まって開かれた意見交換会というべきものの速記起こしである。この会議は、新河川法によって河川整備計画の考え方の転換が図られたのを機に、従来の河川改修計画及び工事実施基本計画を再検討するために開かれたものである。ここには、後で紹介するように例えば有明海に注ぐいくつかの河川では「ダムがなくても流せる」といった趣旨の発言があったりするなど、いわば現場担当者たちのホンネを記した貴重な記録になっている。

 この間、県下で大問題になっている川辺川ダムについて三回にわたる住民討論集会が開催され、ダム無しの治水について基本高水量や河床掘削等の方策について住民側提案を軸に論争が続けられている。今回の速記起こしには、こうした論点について国交省担当者たちの口からダム建設に固執するような意見表明はほとんど見られない。

 現在「論点が尽くされた」として川辺川ダムをめぐる討論集会の継続を中止させようとの動きが国などから出ているが、こうした発言の記録が現れたことはますます討論を深めていく必要性を示したものといえる。川辺川ダムについての具体的な言及はないものの、治水計画はどこでも同じであり、川辺川ダムを含む九州全体の河川整備とダム計画を見直していく上で、この記録の内容を吟味していくことは重要である。

 あわせて「脱ダム」を掲げる田中康夫長野県知事が県議会において、わが党のみ反対したが不信任とされ、その後の動向が全国的に注目を集めている折であるが、この記録は長野県と全国のダムの問題を考える上でも貴重な資料となる。今後、各地で同様な資料が積極的に開示されるべきだと考える。

 <余裕高の見直しや河床掘削は可能な選択

 速記起こしにあるいくつかの発言について、内容に触れる。

 川辺川ダム建設をめぐって国交省は住民側が示した「ダム無しでも川辺川、球磨川の治水は可能」とする案について、「住民側の代替案は、河川管理施設等構造令に定められた余裕高を確保していない」とか、もともと自分たちの側が河床掘削計画を持っているのに「人吉地区での大規模な河床掘削はできない」、「河床掘削は河川環境を著しく悪化させる」などと、先月の第三回住民討論集会でかたくなに反論を続けた。

 しかし、以下の現場担当者たちの発言は、国交省側の主張の根拠を完全に覆すものといえる。いずれも、八月九日の事務所長意見交換で出されたものだ。

 「技術的な問題は、…ハイウォーターとか余裕高とか掘削とか計画河床、最新河床と、そんなことをどう考えるかによって、相当振れ幅といいますか、選択する幅が増えますので、そこをどう考えるか。そこを大きめにとると、大体水は流れてしまう」(23ページ/菊池川工事事務所)

 「先ほどの余裕高の議論もあるんですが、白川の場合は特殊堤を使っていまして、というのは、構造令上、余裕高というのは土堤原則の中で生まれているわけですね。そうなっていきますと、余裕高の議論というのもなかなか説明しづらくなってくる。本当は余裕高でいくと、立野ダム一つが吹っ飛んでしまうわけですね」(45ページ/専門官)

 「先ほど言ったハイウォーターを変えてもいいのかとか、現実の河床高を使ってもらう。河床掘削をやられていますから、相当流下能力はあるわけですね、それを使えば。そうしたらダムは消えちゃうわけです」(35ページ/菊池川工事事務所)

 これらを見ただけでも、川辺川ダム建設に固執する国交省の言い分は、何をかいわんやといったことにならざるを得ない。「住民は、必要な余裕高を考えていない。刑務所の塀が出来てしまう」とか、「河床掘削は無理」などと言いながら、部内のホンネで話せる会議では余裕高については考え方如何、河床掘削も河川整備のメニューにしっかり折り込み済みで、彼ら専門家にとって「不可能」とか「無理」なものではないことが明白だ。

 <ダム無しで治水可能と認識

 まして、河床掘削などの手法を組み合わせれば、いくつかのダム建設計画が不要になることが明らかにされている点は、いくつか計画進行中のものも具体的に名前があげられているだけに重大である。

 例えば、先にあげた発言にあった立野ダムと共に、長崎県の本明川ダム計画についても不要ととれるような発言があるが、この両ダムは有明海に注ぐ河川に計画されているものだけに、諫早湾干拓の工事再開や開門調査の継続問題が緊迫している状況下、きわめて問題があるものといえる。長崎工事事務所の発言は、次のようなものである。

 「余裕高についてですが、本明川はダム計画がございますけれども、その余裕高まで水を流すということになると、本明川ダムがなくても流せるんじゃないかみたいなところもあるわけでございます。その辺、余裕高の考え方について十分理論武装をしていかないといけないんじゃないかと考えております」(19ページ/長崎工事事務所)

 有明海の再生を求めて、漁民のみなさんが農政局や国会で座わり込みを行うなど、懸命なはたらきかけを行うと共に川辺川ダムを含むダム建設の動向も注視されているが、以上の立野、本明川両ダムをめぐる「不要」発言は環有明海、八代海の観点から「宝の海」の再生を考えていく上でも、検討を要するものだ。

 両ダムは計画進行中であるが、先の発言にあるように選択する方策次第で「吹っ飛んでしまう」というのだから、この際、自分たちがホンネで語っている通り立野ダム、本明川ダム計画をあわせて再検討することが、無駄な公共事業をなくすと共に有明海再生に資することになるのではないか、と指摘したい。

 この点は、筑後川の城原川ダムや完成した菊池川の竜門ダムについても本来、同様だったのではないかと思われるし、速記起こしの中に言及もある。先にわが党の沿岸四県委員会が共同して発表した有明海・八代海再生のための緊急提言でも流入する河川の開発中止を提起したが、この主張の正しさを裏付けたものといえる。

 <議論は尽くされていない/扇大臣は専門家たちのホンネを検証し、現地にも出向き大胆にダム計画の見直しをはかるべきである

 河床掘削や堤防の嵩上げ、基本高水の問題について、速記起こしには住民側が討論集会で展開した主張の正しさを裏付ける事務所長や専門官の発言が、多数ある。いわば、国交省はホンネを隠してタテマエの「まずダムありき」論に立って議論を行っているにすぎないと、私はこの記録を見て痛感した。お配りした発言抄を見ていただきたいが、まさに現場担当者たちは恣意的な「ダム必要論」を展開するため、苦しい「理論武装」を余儀なくしているさまがまざまざとわかる。

 私は、先日の国会での質問で扇国交大臣に対し、潮谷知事が求めているように大臣自らが川辺川ダム問題の現地に足を運び、政治家として現地の声をきいて判断すべきだと指摘した。これに対して扇大臣は、「大臣が行けば解決するというものではない」「専門家の判断を信頼している」と述べ、現地行きを拒絶した。しかし、大臣の信頼する専門家たちが部内とはいえ正式の会議で「ダム不要」ととれるようなホンネを述べていながら、国会や住民に対しては「ダムが最適」と偽って事業を進めようとしているのだから、自らの発言に責任を負うなら大臣はこうした議論の全容を調査して吟味し直すべきだ。そして、現地にも赴いて自らが住民側の声も聞き、従来の立場にとらわれずに川辺川ダム計画を含むあらゆるダム計画の当否について様々な側面からの技術的可能性を勘案し、見直しをはかるべきである。

 とりわけ国交省側が「議論が尽くされている」として漁業権の強制収用裁決申請という暴挙に出てまで強硬姿勢をとっている川辺川ダム計画については、今回の速記起こしの出現により全く議論が尽くされていないということが明白となった。

 この際、政府はいま一度、全国のダム計画の必要性について、部内での検討資料も開示し、住民とも公正な議論を尽くし、説明責任を果たすと共に、「ダムは要らない」との現地と熊本県民の多数を占める声に真摯に応えるべきだ。

〔以上〕


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