[8問8答]そこが知りたい! 合併論議のポイント |
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市町村合併をめぐって、いま市町村の首長や行政、議員のみなさんにいちばん影響を与えているのが、地方交付税の「削減」です。これが市町村合併の押しつけのつよまりと一体となって、合併を望まない市町村長や議員からも「こんなに交付税が減らされたら、町(村)はやっていけない」、「町(村)を残したいが、財政的にやっていけないのなら合併もやむをえない」という声がひろがりはじめています。
しかしこれは、ことし国がとった地方財政の措置によるもので、「交付税が何億円も減らされた」というのは、基本的に誤解です。それを知りながら、あえて強調しているとすれば、それは合併促進のための意図的なごまかしの宣伝というべきです。 「減らされた」の大半は臨時財政対策債への振替え分
ことし(二〇〇二年度・平成十四年度)の予算をみると、たしかに多くの自治体で地方交付税が減額になっています。これは、これまで地方交付税として国が地方に交付してきたうちの一部分を、臨時財政対策債に振り替える制度になっているためです。ですから、地方交付税と臨時財政対策債を合計すれば、ほとんどの自治体で、それまでの地方交付税額を上回るか、それほど大きくは減っていないはずです。実際、国の地方財政計画では地方全体で、二〇〇〇年度の地方交付税額と、この制度がはじまった昨年度および今年度の地方交付税額と臨時財政対策債の合計を比較してみると、二一兆四一〇七億円(二〇〇〇年度)から二一兆七九八六億円(二〇〇一年度)、二二兆七七一〇億円(二〇〇二年度)へと増えています(表1)。 総務省も、「地方交付税は前年度比四・〇%のマイナスとしたが、臨時財政対策債を加えると実質四・五%増となる。市町村長には地方交付税が減ったことだけを注視する傾向があるようだが、地方財政の運営に支障が生じないよう必要額を確保した」(河野・財政課長)と説明し、さらにこの点に関する国会審議を紹介しつつ「トップ(市町村長)にも話を上げるよう協力をお願いする」(岡本・交付税課長)と発言しています(四月十九日の全国都道府県財政課長・地方課長合同会議。「自治日報」四月二十六日付)。 臨時財政対策債とは この臨時財政対策債という制度は昨年二〇〇一年度から始まりました。それまで国は、地方交付税の財源不足分を、地方交付税特別会計の借金でまかなって地方交付税として各自治体に交付してきました。この借金の将来の返済は国と地方が折半で負担するとしていました。しかし、昨年度から三年間の期限つきで、不足額を特別会計の借金でまかなうというやり方から、国負担分は一般会計で、地方負担分は各自治体の赤字債によってまかなうことにしたのです。これによって地方交付税は、それに応じた額が減るということになりました。各自治体が「地方交付税が大幅に(何億円とか何割とか)減らされた」といっているのはこのためです。 こうしたやり方にたいして、日本共産党は国会で批判し反対してきました。地方交付税の不足額の手当てを、国と地方で折半として地方に負担をおしつける、しかも、各自治体に赤字債(臨時財政対策債)の発行をおしつけるのは、交付税の不足額は国の責任で補うという地方交付税法の趣旨に反するものだからです。 同時に、地方自治体での対応としては、臨時財政対策債による財源は、これまでは地方交付税の一部だったものであり、通常の地方債のように使い道が限定されているわけでもありません。行政当局が発行し、歳入額を確保するのは当然のことです。 とくに臨時財政対策債は、地方自治体の赤字債といっても、そもそも地方交付税の振り替えであり、その元利償還(借金返済)については全額、その返済年度に地方交付税として交付される仕組みになっているからです。つまり、各自治体の借金であり、返済義務も当然自治体にありますが、それに相当する額を国が交付税で措置するのです。地方財政法(第三三条の五の二)でも明記されています。 これにたいして、「将来の地方交付税の先食い」との批判はできるとしても、個々の自治体にすれば、独自の負担が新たに生まれるという性格のものではありません。 ですから、地方交付税が減ったかどうかは、臨時財政対策債を加えた額で比較しなければなりません。この点にたてば、どこでも「地方交付税がこんなに減らされてはやっていけない。合併もやむなし」などと悲観的になる必要はないはずです。 ある自治体では、合併問題のパンフレットで、この臨時財政対策債について何の説明もせずに、「地方交付税はこれだけ減った(減る)、「地方債はこれだけ増えた(増える)」という表をかかげて、「財政を考えれば合併しかない」という説明をしています。つまり、名目上の額は減っても、実質はそれほど減ってもいない地方交付税について、「地方交付税はこんなに減った」といい、一方、地方交付税と同様に扱うべき臨時財政対策債は、地方債(借金)の方に加えて「こんなに地方債が増える」といって、「だから財政的にやっていけない」という論法です。これは、基本的な仕組みを知らないか、知っているなら、意図的な世論誘導といわなければなりません。〔※総務省は「臨時財政対策債の概要(2001年4月)」を示していますが、その要点は、(1)地方交付税の振替措置であり、二〇〇一年度から二〇〇三年度の三年間の臨時的措置であること、(2)臨時財政対策債の発行可能額の算出は、普通交付税の算定基礎である基準財政需要額の算式に準じること。対象となる費目の単位費用のうち一定額を臨時財政対策債に振替え、その分地方交付税の基準財政需要額の単位費用が減ること、(3)臨時財政対策債の返済(元利償還)については、その自治体が発行してもしなくても、発行可能額の全額を発行したものとみなし、その元利償還額相当分を後年度に基準財政需要額に加えるものとすること、です。 「段階補正の縮小」の規模をどうみるか また、ことしは地方交付税の制度の「見直し」として、「段階補正の縮小」がおこなわれました。「段階補正」というのは、標準団体(市町村は人口一〇万人)より小さい自治体には割増で、逆に大きい自治体には漸減して地方交付税額を計算するという仕組みです。これは、たとえば人口の規模にかかわらず首長は一人ですから、その費用の住民一人当たりの額は、人口が少なければ多くなり、人口が多ければ少なくてすむことになります。「段階補正」は、このように人口の多少にかかわらず、標準的な行政がおこなえるようにつくられたもので、合理的で必要な仕組みといえます。 「段階補正の縮小」とは、この「割増し率」を三年間かけて段階的に下げるというものです。総務省の試算で、一番影響額が大きいのは人口四〇〇〇人規模の町村で、三年間で二〇〇一年度と比較して五五〇〇万円の削減、ことしは約三分の一の一八〇〇万円の削減という額です。こうした削減の影響は約五万人までの市町村に出ます。その総額に見合う分、逆に約五万人以上の自治体に人口に応じて割り振られます(単位費用の増額による)。総務省は、合併へのムチではない」といいますが、合併誘導策の一つであることは否定できないでしょう。これは、小規模の市町村への不当な削減であり、もちろん日本共産党は断じて反対です。 同時に、ここで強調したいことは、だからといって「段階補正が縮小されたから合併しかない」などと悲観的になるほどの額ではないということです。 合併すれば地方交付税は大幅に減る 「地方交付税がこんなに減っては合併もやむをえない」という議論がいかに正しくないかをみてきました。それどころか、逆に、合併すればその地域全体に来ている地方交付税が大幅に減ります。だからこそ、政府は、合併市町村にたいして、合併後一〇年間は、旧市町村ごとに合併しなかった場合の地方交付税を毎年度計算して、その合算額を下回らないようにして、これを合併支援策として宣伝しています。もし、この一〇年間の支援策の「ありがたみ」が大きければ、それだけ合併一〇年後からの地方交付税の削減が大幅だということになります。どのくらい減るのかなど詳しくは問5を参照してください。 |