2003年2月7日(金)「しんぶん赤旗」
日本共産党、民主党、自由党、社民党の野党四党は六日、東京・千代田区内で、サラリーマンなどの窓口負担を二割から三割に引き上げる健康保険法等改悪の凍結法案について、関係団体ヒアリングを実施しました。医師、患者、労働者などの六団体が参加、すべての代表が強い賛同の意思を表明しました。同法案は、来週中に四党共同で国会提出を予定しています。
日本医師会の青柳俊副会長は、「国民は不況のなかで強い将来不安を抱えている。すでに国民に痛みを強いる政策が連続して出されているなか、自己負担を一・五倍にすることはまかり通らない」と力をこめて発言。日本共産党の小池晃参院議員が「負担増を凍結しようと四野党がいわば小異をすて大同についた。この法案についてどう考えますか」と質問すると、青柳氏は「日本医師会として全く同じ方向を向いている」とこたえました。
また、全国保険医団体連合会の室生昇会長は、「昨年十月の高齢者医療負担増で福岡の老夫婦が入院を拒み亡くなった例もある。さらなる負担増は国民の健康に重大な影響を与える」と発言するなど、三割負担による受診抑制に強い懸念の声も出されました。
政府が政府管掌健康保険の国庫補助率を16・4%から13%に減らしたことにも批判が集まり、「削減額の累積は一兆六千億円にのぼり、元に戻せば国民に負担を強いる必要はない」(全労連の坂内三夫事務局長)、「政管健保の保険料率引き上げも圧縮できる」(連合の小島茂生活福祉局長)などの意見が相次ぎました。
全国肝臓病患者連合会の西河内靖泰相談役、労働者住民医療機関連絡会議の斎藤竜太幹事がそれぞれ患者団体、医師の立場から意見をのべました。
4野党が6日に東京都内で開いた「健康保険法改正に対する関係団体ヒアリング」での、各団体代表の発言(要旨)は次のとおりです。
昨年十一月から窓口三割負担実施凍結を求めて四師会で、ときには住民もまきこんで運動してきました。今年度の医療費の動向をみると大幅なマイナスで推移しており、医療費がふくらみ政管健保の財政が破たんするという政府の予測ははずれています。
また、これからの日本の社会保険をどう方向づけるのか、医療にどういう役割を求めるのかという根本的な議論がないまま、従来型の議論に推移しています。これらの点から三割負担実施を延期し凍結するということをいわざるをえません。
政府や企業の負担を求めるのではなく、受益者負担だけをいっていますが、私たちは患者のみなさんは受難者という位置付けです。
国民が個人貯蓄に走っていくのは将来不安があるからで、その第一は健康への不安です。どれだけカネがかかるかわからないという不安がつよい。不安を払しょくするのは政治家の役割です。ペイオフ解禁も、国債発行三十兆円枠もはずれたのに、なぜ三割負担をはずさないのかという問題意識があります。
みなさんの三割負担凍結の提案とまったく同じ方向を向いています。
四月からの本人三割への引き上げは、国民への大幅な負担増による当面の財政対策でしかありません。医療制度全体の抜本的な改革が実施されないなか、負担増を押しつけるのは断じて認められません。
仮に、四月から三割負担が実施されれば、いまの景気低迷が長期化します。さらに、医療を含めた社会保障に対する国民の信頼をますます失墜させます。三割負担に反対であり、凍結を求めてきました。
連合は、いまの状況のなかでも政管健保をはじめ医療保険財政はもつと思っています。三割自己負担を凍結し、その間に医療費全体の効率化をはかっていくことがあれば、将来的にも健保二割で十分可能です。また、政管健保の保険料率の引き上げ圧縮も可能です。
四野党で進めようとしている三割負担凍結法案と合わせ、政管健保の引き上げの圧縮を、ぜひお願いしたいと思っています。
私ども患者団体としては、健康保険財政が大変だから患者負担を上げると政府から説明を受けてきました。財政が本当に大変だということになれば、患者団体もそれなりの覚悟はせざるを得ないと思います。しかし、医師会の話を聞くと上げる必要はないという。財政が悪化している状況ではないというなら、とてもいやなものを感じます。
患者負担が増えれば、受診抑制が進むということは事実です。患者からの相談で一番多いのは、医療費の問題です。重い医療費は患者を病院から遠ざけます。しかし、肝臓病は、きちんと病院に通い、医師の指導のもと自己管理ができていれば、命を永らえることも、悪化させないこともできる病気です。逆に、放っておけば悪化して、最終的には終末期医療では膨大なお金がかかってしまいます。
患者の受診抑制が進めば進むほど、最終的には国家財政が苦しくなるはずなのに、なぜ受診抑制を加速させるようなやり方をすすめるのでしょうか。私は、このことに大きな疑問を抱かざるをえません。
国民は一九八四年の健保本人十割給付の廃止以来、度重なる医療改悪による負担増を強いられてきました。その一方で、国庫負担の割合は引き下げられています。
政府が直接運営している政管健保は、健康保険法第七〇条三項の本則に従えば、労働者に給付した医療費の16・4%を国が補助しなければならないことになっています。ところが、政府は一九九二年に、政管健保の財政が大幅な黒字になったからといってこれを13%に引き下げました。この際、財政が悪化したら元に戻すと約束していましたが、これがまだ実行されていません。
これによる国庫負担削減額の累積は約一兆六千億円ですから、医療改悪による国民負担増一兆五千百億円とピッタリあうのです。本則通りに元にもどせば、三割負担はやる必要がありません。
私は、健康保険財政が赤字になったからといって、それを労働者や国民に押し付けるというやり方には絶対反対です。野党四党が医療改悪の凍結を求める法案を提出することには全面的に賛成をしたいと思います。
健保本人三割負担の実施によって、もっとも大きい問題は受診抑制の問題です。一九九七年に健保本人が二割になったため、患者の受診抑制が起き、その傾向が長期間にわたって続いています。
さらに、昨年十月に高齢者の医療負担の改定がおこなわれたために、受診率が輪をかけて減少する事態になっています。福岡県では、お年寄り夫婦が医療費負担の高額化で入院をためらい、急性心不全で死亡するという事件も発生しました。
現在の経済情勢のもとで三割負担が実施されるようになれば、いったどうなるか。サラリーマン本人の負担でいえば一・五倍にもなります。われわれ医療担当者として、これは必ず凍結してもらわなければならない、そうしないと大変なことになると感じています。
こういう点で、野党四党が凍結法案を共同提案していただけることは非常にありがたいと思っています。また、この法案に対してどういう態度をとるかということは、まさに政治家としての真価が問われているといえます。
神奈川県内で診療所を開いている医師ですが、政府は「国保(国民健康保険)で三割負担がやられているから」サラリーマンもそれに合わせるなどといっているようですが、とんでもないことです。国保の三割負担自体が問題なのです。
たとえば高血圧、心臓病などの虚血性疾患、糖尿病などの患者が、二週間分もらった薬を一カ月かけて飲んでいる、一カ月分を一カ月半かけて飲んでいるということがあります。
胃の調子が悪いという患者に検査しようというと月末まで待ってくれという。給料日まで待ってくれということです。その当日になってもこない。ふところ具合で調整しているのです。しかし、そんなことをしていたら高血圧の人は脳卒中になったり、狭心症の人は心筋梗塞(こうそく)をおこす危険があります。
とくに中小企業で働く人たちは三割負担はたいへんです。
国保の三割負担でこうですから、サラリーマンが三割負担になったら、サラリーマンの中に同じことが起きてきます。