2003年6月16日(月)「しんぶん赤旗」
国と地方の税財政をめぐる「三位一体改革」。小泉内閣は、六月末に具体案を決めようとしています。どんなことで、何が問題なのか、くらしへの影響は――。(山本長春記者)
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「三位一体」とは「三つの要素が互いに結びついていて、本質においては一つであること」(「広辞苑」)です。
小泉内閣は、(1)国庫補助負担金の削減(2)地方交付税の見直し(3)地方への税源移譲を含む税源配分の見直し―の三つをセットで「改革」しようとしています。昨年六月、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(「骨太の方針第二弾」)に盛りこみ、今月中に決める第三弾の方針で具体化する予定です。
国と地方の税財政の関係は左図のようになっています。
【国庫補助負担金】国庫負担金と国庫補助金があります。合わせて社会保障関係が約六割、文教・科学関係が約二割を占めます。(円グラフ)
全体の八割以上を占めるのが国庫負担金。国の法令にもとづく地方の事業・事務で、責任に応じて国の支出を義務付けています。小中校教員給与の半分を国が負担する義務教育費国庫負担金や老人医療給付費負担金、生活保護費負担金など、くらしに直結したものがほとんどです。
国庫補助金は、特定の事務・事業を奨励するものですが、公共事業関係のほか、在宅福祉事業補助金、私立高校等経常費助成金など、これもくらしにかかわるものが少なくありません。
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【地方交付税】自治体間に財政力の差があるので、これを調整し(財源調整機能)、どの自治体でも標準的な行政をおこなえるよう保障する(財源保障機能)仕組みです。基本的な財源として、国が、国税(所得税、法人税、酒税、消費税など)として集めた税金の一定部分が法律で決められています。このところ、それだけでは不足する状態が続いています。
【税源配分】国税と地方税など、国と地方の配分のこと。税収では、だいたい「国六」対「地方四」の割合です。それが支出の面では、国が四割、地方が六割と逆になっています。地方自治体からは、地方分権をすすめ、仕事に見合う仕事をするうえで税源移譲を求める声が強くあがっています。
なぜ、「三位一体改革」なのか。小泉内閣は「国、地方のスリム化」「地方の権限と責任の大幅な拡大」などをあげます。しかし、大和田一紘・埼玉大講師(地方自治論)は、「『三位一体』といえば聞こえはいいが、地方分権とはかけ離れたものです」と指摘します。
「地方分権には財源の裏付けが不可欠で、〇一年の地方分権推進委員会の最終答申でも税源移譲を提言していました。実際は、移譲は増税をするまでは先送り。国庫補助負担金や地方交付税の削減・縮小は具体化する。地方への財政支出を大幅に削ろうという狙いが浮き彫りですね」
そのことを示したのが、地方分権改革推進会議(首相の諮問機関)が六日、小泉首相に提出した意見書です。
国庫負担削減 |
意見書「国庫補助負担金は中長期的に廃止・縮減等を行うべき」「数兆円の削減が実現することを強く期待」 |
同分権会議は五月、小泉首相に、重点的に整理・削減すべきものとして十一項目をあげました。保育所制度、介護などの保険制度・サービスの見直しや、義務教育費の国庫負担制度などが対象になっています。
この整理・削減をめぐる閣僚折衝で、塩川財務相は四兆円の削減を提案。十一日に明らかになった「整理合理化方針」案には、介護保険事務費交付金や義務教育費国庫負担金の一般財源化なども盛り込まれています。社会保障、文教関係を削減の標的にしているのです。
交付税縮減 |
意見書「国が地方の歳出を規定し保障するという側面を極力少なくする」 |
財源保障機能こそ、地方交付税の本来の役割なのに、それを否定する考えです。意見書では、将来的に地方交付税をなくし、現在の交付税の法定率部分(たとえば所得税の32%など)を「地方共同税(仮称)」として再編成する案も出しています。交付税の「上乗せ分」も本来、国の責任にもとづくものであり、それを法定分と切り離して減らしていく案に、地方団体が強く反発するのは当然です。
税源移譲 |
意見書「国・地方を通じて歳出を徹底的に見直す。この努力を踏まえても国税・地方税とも増税を伴う税制改革が必要」 |
税源移譲を先送りし、「増税」のテコにしようとするものです。
塩川財務相は、たばこ税などの移譲案も出しています。しかし、それも国庫補助負担金を四兆円削減し、その七割分を移譲するというもの。三割は地方への新たな負担を強いることになります。
結局、国の財政危機のつけを地方に押しつけ、住民にとっては、福祉・教育切り捨てが先行し、増税が待っている、という構図です。
意見書にたいし、全国知事会をはじめ地方六団体は、真に地方分権を推進する立場に立っていない、と強く批判し、地方税財源の充実・確保を改めて求めています。