日本共産党

2002年9月15日(日)「しんぶん赤旗」

どうなってるの?――…

義務教育費の国庫負担制度


 来年度予算で国の支出を減らすために、小泉首相の強い指示で、義務教育費の国庫負担制度の廃止・削減が検討されています。全国の公立小・中学校の教育条件に大きくかかわります。

目的、現状は

義務教育は、全国どこでも一定水準以上の教育条件、教育内容が子どもたちに保障されなければなりません。義務教育への国の責任を果たすため、教職員の給与の半分を国が負担しています

 憲法は、国民が、ひとしく教育を受ける権利をもつと定め、経済的負担で教育を受けられないことがないよう、義務教育は「無償とする」と決めています。義務教育の水準を保ち、向上させ、一定水準以上の教育を受ける機会を、すべての国民に等しく保障することは、国の責務です。

 一人ひとりの子どもを大切にし、成長・発達を支える教育のためには、優れた教職員の確保が不可欠です。教育基本法が「教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない」と定め、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の「教員の地位に関する勧告」が「教職における雇用の安定と身分保障は、…教育の利益のためにも不可欠」としているとおりです。

 公立小中学校の設置者は市町村です。しかし自治体の財政力によって勤務条件に大きな差が生まれ、教職員の確保に支障が出てはなりません。どこでも優れた教職員が教育にあたれるようにするため、教職員は都道府県の職員とし、給与は都道府県が出し、その半額を国が負担しています。これが毎年、国の予算に義務教育費国庫負担として計上されます。国は法律で、一クラスの子どもの人数(学級編成の標準)や教職員定数の最低ラインを決めています。これに必要な人件費を国庫負担の対象にしています。

 義務教育費の75%が人件費です。小泉首相は、これを削れば国の負担が軽くなるはずだと目をつけたのです。

ねらいは国の支出削減

地方への国の補助負担金は総額十七兆円。そのなかで義務教育費は三兆円余を占めます。小泉内閣は、国庫補助負担金を数兆円削減するといいます
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 小泉首相は国の予算方針を話し合う六月の経済財政諮問会議で、「私が主導し、各大臣に責任を持って検討していただく」と、福祉、教育、社会資本などにかかわる国庫補助の廃止・削減の大号令をかけました。最大の標的が義務教育費。国が直接責任を持つ国庫負担制度の対象から、義務教育費を除外し、地方に財政責任を押しつけるのがねらいです。

 片山虎之助総務相は一般財源化を主張します。地方財政が苦しいなか、「一般財源化すると、過去の歴史を見ても、教育費があとまわしになるおそれが大きい」と三輪定宣・千葉大教授はいいます。

 実際、今年度、学校図書整備費として百三十億円が地方交付税で国から地方に回りましたが、本の購入に充てた自治体は三分の一しかなかったことが、全国学校図書館協議会の調査で分かっています。

 地方交付税は、自治体による財政力の差をおぎなうために国が地方に出すお金で、何に使うかは自治体に任されています(一般財源)。小泉内閣は、骨太方針(六月)で地方交付税の役割を縮小する方針を決めているのです。

制度改悪でどうなる

財政力の乏しい自治体では、教育条件の維持が困難になります

 首相肝いりの地方分権改革推進会議は中間報告(六月)で、一般財源化の前に、当面、生徒数などに応じてお金を出す交付金制度(使用目的を限定)にすることを打ち出しています。

 現行の四十人学級では、生徒が四十人から四十一人になれば二クラスになり、その分の教員が必要です。しかし仮に生徒数に応じた交付金になった場合、生徒一人分のお金が増えるだけ。教員一人を増やすことは、地方の大きな負担になります。同会議はさらに、学校栄養職員、事務職員を国庫負担の対象から外し、各学校に必ず置かなくてもよくすることも求めています。

 地方からは「地方自治体への財政負担の転嫁のみならず、義務教育の根幹にかかわる重大な問題」「義務教育の円滑な推進に支障をきたす」との意見があいつぎ、八月末までに、二十六都道府県が現行制度の堅持を求める意見書や要望書を国に提出しました。

文科省の対応は

文部科学省は、「制度の根幹を守る」といいつつ、改悪に踏み出しています

 遠山敦子文科相は、現行制度の廃止には難色を示しつつ、教職員の給与のうち、年金や退職金などを国庫負担の対象からはずし、約五千億円削減することを表明しました。その分は都道府県の負担になります。

 地方分権会議は、義務教育費国庫負担制度が「給与の低い非常勤講師の活用」を妨げているといい、制度廃止とあわせ、教員の給与・人事体系の「弾力化」を求めています。これを受けて文科省は、現在、全国一律の教員給与を、来年度から、各都道府県が独自に決められるようにする方向です。教員の給与・待遇は不安定になり、非常勤職員の多用がすすむでしょう。

 文科省は昨年まで、自治体が独自に四十人以下学級を編成することを妨害してきました。また増員した教員の活用方法について、国庫負担金の返還を脅しに、統制してきました。国は現行制度を堅持して少人数学級推進など教育条件整備に責任を果たすとともに、地方への無用な統制をやめることが必要です。


全国の知事から地方6団体のアンケートに寄せられた意見

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 ・交付金化、一般財源化により、財政力によって都道府県間に教育格差が生じることも懸念されることから、現行の義務教育費国庫負担制度の根幹は維持しつつ、地域の実情に応じた特色ある教育の展開がよりいっそう可能となるよう必要な検討をおこなうべきである。

 ・一定の内容・水準の教育を保障することは国の義務であり、地方に転嫁することがないよう慎重な検討が必要である。

 ・義務教育は、国民として必要な基礎的資質を培うものであり、国は国民のすべてに対し一定の水準の維持確保を図るという責任と役割をになっているものであり、これを踏まえて現行制度を見直す際には、十分かつ安定した財源の手当て(地方に負担転嫁しないこと)は当然のことであるが、国と地方の果たすべき役割について幅広い議論がなされる必要がある。

 ・義務教育が、本来、ナショナル・ミニマムとして国が行うべきものであるとするならば、財源はすべて国が負担すべきものである。

 ・地方交付税についても大幅な見直しが予想される中で、義務教育費のような義務的経費をすべて一般財源でまかなうことは、都道府県にとってきわめて困難なことと予想される。

 


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