日本共産党

2002年7月14日(日)「しんぶん赤旗」

記者ノート

田中知事不信任の長野県でいま

「脱ダム」は世界の流れ―

頑固に公約守る姿に共感

東海北陸信越総局 長谷川守攻記者


 十五日深夜十二時までに長野県で一つの判断が下されます。田中康夫知事が、県議会多数の横暴で突きつけられた不信任決議に“議会解散か知事失職か”を選ぶことになるのです。山深く水清き信州でこの間、見つづけ思ったことは―。

 “たいへんな現場を見てしまった”。六月二十七日の県議会でそんな思いを抱きました。知事の答弁中に、議長が発言中止を命じ、マイクの電源を切り、議員がぞろぞろ退場…席に残ったのは日本共産党の五人のみという異常な情景です。

 議長は最大会派・県政会(自民党、羽田系民主党)出身。口汚いヤジや怒号は放置したまま、二百二十万県民を代表する知事を無き者扱いにしたのです。そしてその一週間後、県政会、政信会(自民党)、県民クラブ(民主党、公明党)によって不信任決議が強行されました。理由は「県政の停滞と混乱を招いた」。

 田中知事は一年九カ月前の選挙で、「公共事業の見直し」などの公約を掲げて、旧オール与党が推す前副知事の候補に十一万票の差をつけて当選。「しなやかで、すがすがしい県づくり」「県民の目線からの県政」をうたいました。

 当選から四カ月ほどした昨年二月二十日、知事は「脱ダム宣言」を発します。「日本の背骨に位置し、あまたの水源を擁する長野県においては出来うる限り、コンクリートのダムは造るべきではない」。そして下諏訪ダムは建設中止としました。直後の世論調査では、支持率が86・8%。当時の森内閣の7・6%と比べられ、きわめて高いことが話題を呼びました。

 地元のメディアも当時は「二十世紀型の開発主義を反省すれば、その延長上に『脱ダム』が浮上してくる」(「信濃毎日」二十一日付社説)と同調的な記事が目立ちました。

 ダムなど大型公共事業の見直しは、すでに世界と日本の大きな流れとなっています。ところが議会のダム推進勢力は依然、「経済効果」や一部自治体首長の要求などを論拠に、知事の作法をあげつらい、ためにする質問を繰り返すなど根強く抵抗し、妄動を続けました。「停滞と混乱」をしたのは彼ら自身でした。

 「宣言」から一年四カ月後、下諏訪・浅川の両ダムは、県議会の決定をうけて設置された長野県治水・利水ダム等検討委員会の県民に開かれた検討、その答申を経て中止となりました。

 「なぜいま知事不信任なのか」。そんな疑問が県内外からよく聞かれます。分かりづらくしているのは、「知事vs議会」の構図ばかりが一般マスコミで描き出され、県民世論と議会多数との“ねじれ”や、日本共産党の見解が十分報道されてこなかったことによります。

 不信任決議案にたいし日本共産党の石坂千穂県議団長は反対討論でこう述べました。

 「知事は、県議会が選んだのではなく、県民が直接選挙で選んだのです。その知事が、自らの公約を守り、実行しているさなかに、あくまでダムに固執し、任期半ばで不信任にすること自体が、広範な県民への挑戦であり、暴挙です」「変わり始めた県政の新しい流れを歓迎し、この流れをさらに大きく発展させていく私たちの決意を込めて、理不尽な不信任決議に反対します」

 じっと耳を傾ける知事の目にうっすら涙のようなものが…。「44対5」で不信任決議は通りましたが、直後の世論調査では、不信任反対は61%に及び、「ダム中止賛成」も59%ありました。

 石坂討論の後、日本共産党の県議団と県委員会の電話は鳴りっ放しです。「よく言ってくれた」「共産党支持に宗旨がえだ」「知事を支えてあげて、お願い」…。石坂議員のホームページへのアクセスも激増。一日に二千~四千件近くあり、十二日までに二万六千件を超えました。県委員会へのはがきも千通を超えました。

 県庁に行けば、いまでも必ず一階のガラス張り知事室をのぞきます。客人の応対、部課長らとの打ち合わせ、昼食休憩など、ほとんどがここで行われているからです。「公開」は知事公約の一つ。胸に付けた障害者手作りのブローチとともに、頑固なまでに外そうとしません。その頑固さには共感を覚えます。

 知事の「脱記者クラブ宣言」以後、会見に「しんぶん赤旗」も参加できるようになりました。質問の際はメディア名と氏名を名乗るのが鉄則です。会見場はときに知事と取材者とのバトルの場となります。名指しされ逆質問されることもしばしば。記録されるので気も抜けません。

 十五日には、議会解散か失職・知事選かの判断が下されます。県民の声を担って、これからも目が離せない日々です。

 


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