規制緩和路線がつくりだした格差社会の問題を告発する声が多いなかで、多様な相談も寄せられました。すべてに答えられるわけではありませんが、できるだけ拾っていきたいと思います。
1 「セクハラを告発したら派遣契約を更新されなかった」という声がありました。労働者派遣は、派遣元と派遣先との間の契約ですので、たとえ打ち切りになっても「解雇」ではないということにされ、法的保護がありません。そのため、多くの企業が派遣を導入するようになってきています。
しかし、「使い捨て」にされるわけにはいきません。派遣労働者でも、3年を超えて同じ人を同じ業務で使い続けようとする場合には、派遣先は直接雇用をその派遣労働者に申し込む義務があります(労働者派遣法40条の5)。ですから、これに該当する方は積極的に直接雇用とするよう派遣先に申し入れることができますし、首をたてに振らなければ労働局に指導してもらうよう相談に行くこともできます。場合によっては弁護士に依頼して交渉をするという道もあるでしょう。
また、該当しない方でも、継続雇用への期待はあるでしょうから、それが不合理な理由で失われた場合には損害賠償を請求することが考えられます。実際に、タイガー魔法瓶を相手に契約を打ち切られた大阪の派遣社員が裁判を提起しています。こうした闘いの積み重ねにより派遣労働者の地位向上をはかることができます。どのチャンネルを利用するのがいいか、その時々の判断がありますので、まずは労働組合に相談してもらうとよいでしょう。
2 1日18時間勤務で月給8万円、辞めたいけど育成費用300万円を返してからにしろと言われてやめられないという声がありました。しかし、この会社は違法だらけのようです。
まず、労働者には職業選択の自由(憲法22条を読んでください)がありますから、退職予定日の2週間前に予告をしておけば、いつでも退職できます。使用者は、身体または精神的に労働者を不当に拘束してはいけません(労働基準法5条)。たとえ契約時に、退職する場合に一定の額の支払いをすることを定めていても、それは違約金または損害賠償の予定にあたり無効です(労働基準法16条)。それに、そもそも「育成費用」が返還を要する費用かも大いに疑問です。使用者は事業運営のために労働者に対して必要な教育訓練をするわけですから、そのための費用であれば、これは使用者が負担をすべきものです。労働者のスキルアップも兼ねてのものであれば、いくらかは労働者側も負担することはありますが全額ではありません。ですから、まず退職をしてから、弁護士のところに相談に行けばよいでしょう。
次に、1日18時間勤務というのは、変形労働時間制や裁量労働制をとっているのでないかぎり、明白な労働基準法違反です。1日8時間、週40時間をこえて働かせる場合、労使協定を締結して労働基準監督署に届け出ておく必要がありますが、そうされているかチェックしてみてください。また、残業代はきちんと払われているでしょうか?タイムカードや自分のメモなど、労働時間がわかるものをもって労働基準監督署に相談に行ってみてください。
さらに、月給8万円は、フルタイムで働いているのだとすれば、最低賃金法にも違反しています。
たくさんの問題を抱えている経営者のようですから、社会的な制裁が必要でしょう。どのように責任を果たさせていくのか労働組合に相談してみてください。
3 「三重派遣+偽装請負」と思われる相談がありました。その方は、IT業界で、A社に所属し、そこからどういう契約かは不明だけれどもB社に派遣され、そこからさらにC社に派遣され、C社が請け負っている業務のためにD社で勤務しているそうです。給料はA社が支払っていますが、機材等はすべてD社が用意しており、D社の都合で残業や休日出勤があるとのことです。
この働かせ方は、どう見ても違法です。「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)によれば、業務の遂行方法に関する指示や、労働時間の管理、残業や休日出勤の指示、服務規律に関する指示、配置の決定・変更、資金や機材の用意などをすべて自ら行う場合だけが正規の請負であり、どれかを欠く場合には労働者派遣となります。ですので、この相談者のケースは、「C社→D社」は「偽装請負」です。すると、B社およびC社は派遣業登録をしていないといけませんが、おそらくはしていないでしょう。この場合、実際の使用者であるD社に対して、行政指導も活用して直接雇用をするよう求めたり、ピンハネされている「請負」代金ないし「派遣代金」と賃金との差額分の支払いを求めていくことが考えられますが、いずれも相手の抵抗が大きいことが予想されます。どこか労働組合に相談に行き、そこから弁護士につないでもらうようにするとよいでしょう。
資料
あなたは派遣OR 請負!?
□ メーカー社員の指示を受ける
□ 社員といっしょに作業している
□ 休憩の際に許可を得る必要がある
□ メーカー側が出勤簿を管理している
□ 機械や設備をメーカーが用意している
以上が一つでもあてはまれば「派遣」です。
□ あなたの会社とは「請負」契約ですか
もし「請負」で上記のことをやっているなら、「偽装請負」です。
(神奈川「お仕事」実態調査アンケート項目より)
■プロフィール
ひらい・てつふみ
1969年生。1994年早稲田大学法学部卒。2001年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる分野として取り組む。個人加盟組織の出版情報関連ユニオン顧問。日本弁護士連合会憲法委員会幹事、第二東京弁護士会人権擁護委員会委員、自由法曹団事務局次長。一児の父。
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