1,
ホームページに寄せられたコメントを拝見しました。まずその中で、法律家として回答できるものについて回答をしたいと思います。
2,
まず、人件費削減を理由として解雇されたが、その職場では解雇後別のアルバイトを雇用している。この職場では、忙しいときには、労働者の了承なく残業させる。これは違法ではないか、というご質問です。
事業経営上の理由で労働者を解雇する場合を整理解雇といい、これを行うには、判例上4つの要件(1 事業経営上の必要性、2 解雇を回避する施策の実施、3 解雇者選定の合理性、4 説明など手続きの実施)が必要とされています。後からアルバイトを雇うようなケースでは、1 の要件を満たさず、解雇は違法です。また、残業については、労働基準法上の例外措置がとられていない限り、労働時間の拘束は原則1日8時間ですから、この場合は、労働者側が了解の有無に関わりなく、それ以上拘束するのは違法です。
3,
次に、営業中事故を起こしたが、このような場合には自分の保険で対処するという誓約書を会社から出させられているため自分で何とかした。このような場合に会社に責任はないのか、というご質問です。
会社は、原則として、就業中の職員が、第三者に対して起こした不法行為について使用者責任を負います(民法715条)。職員は、いわば、会社の手足として行動したわけですから、本体である会社が責任を負うのは当然のこと。被害者に対して行った賠償につき、会社がその職員に対して負担を請求できる場合もあり得ますが、それはどちらかというと例外的です。ご質問にある誓約書の効果をどのように考えるかは難しい問題ですが、それを書かなければ入社させてもらえないなど、強要されたといえるものであれば、法律的には意味がないといえるでしょう。
4,
(1) 拝見したコメントは、就職活動における差別や、人格を侮蔑される中傷を言われたといった内容、また、非正規社員やフリーターをしていることで「物扱い」されるといった内容が多かったと思います。
(2) 財界、大企業が推し進める非正規社員を常用的に雇用する労務政策が、新自由主義と呼ばれる流れのなか、ますます強く進められています。この流れの中で、やむを得ずフリーターを選択せざるを得ない青年が急増しています。フリーターの増加は、決してフリーターをしている青年自身の責任で引き起こされたことではありません。なのに、財界、大企業は、「労働者の生き方も様々だ、多様化しているのだ」と言って自分たちがもうけのためにしていることを正当化して覆い隠そうとしています。
(3) 今、私たちに必要なことは、あらゆる場面で、雇用形態を問わず、労働者を人として尊厳をもって就労してもらう、事業主がそのための注意を尽くさなければならないといったルール、雇用形態を問わず、働く価値については同等の賃金を支払わなければならないといったルール、雇用期間は原則期間を定めないものとし、有期契約の雇い止めにも、合理的な理由が必要であるといったルールを、法律にしていくこと、また、職場のルールとして勝ち取ることです。
(4) 職場のルールを勝ち取るという意味では、どうしても職場の内外で、労働組合を中心とした労働者の団結が不可欠であると思います。上記に回答した事例も、労働者同士がバラバラで分断されているからそのような無法がまかり通るのであり、労働者が一致して反対すれば事態は変わると思います。
(5) 法令の問題でいえば、男女雇用機会均等法の改正の動きは、差別の禁止に向けて前進といえる内容を持っていますがまだまだ不十分です。しかし、その他(3)で述べたようなルールについて法令で規制する動きは、残念ながら起こっていません。それどころか、厚生労働省は、「労働者の生き方の多様化」などを理由として、逆に今ある労働法の規制緩和をさらに推し進める法律(「労働契約法」)を、来年国会に提案しようとしています。もしこの法律ができるようなことになれば、日本は、資本主義が勃興した19世紀のような古典的な無法地帯に逆戻りして、働く者の権利は今以上に奪われてしまうでしょう。
法令をより充実させるためには、大企業にはっきりものを言い、労働者の立場に立った政策の実現に尽力する政党が不可欠です。私はこの意味で、日本共産党に期待しています。
■プロフィール
ささやま・なおと
1970年生。1994年中央大学法学部卒。2000年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる活動分野として活動中。著書に,『フリーターの法律相談室−−本人・家族・雇用者のために』(共著、平凡社新書 05年10月発行 760円)、『最新 法律がわかる事典』(石井逸郎編の共著,日本実業出版社)、『「働くルール」の学習』(共著、桐書房)。
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