特集

『戦争か平和か――歴史の岐路と日本共産党』

訳者の後書き


 2015年4月27日、日本の岸田文雄外相と中谷元防衛相、そして米国のジョンㆍケリー国務長官とアシュトン・カーター国防長官などが出席したなか、ニューヨークで開かれた日米安全保障協議委員会(SCC)で、米国は「日本の『積極的平和主義』政策及び2014年7月閣議決定を反映した法律の整備に向けて現在進めている対応を歓迎し支持する」という立場を公式的に表明した。

 この2014年7月11日、チャック・ヘーゲル当時米国防長官が小野寺五典防衛相との会談後に行った共同記者会見で、集団的自衛権の行使容認を図る安倍政権の閣議決定について「自己防御を超えてさらに大きな軍事的責任を取るため、憲法解釈を変更することにしたことを強く支持する」と表明した以来、8ヵ月ぶりのこと。

 米国の公開的支持の意思表明に鼓舞された安倍政権は恐ろしい推進力を発揮し、2015年5月14日に閣議決定を具体化する11の法案を「平和安全法制」という名で国会に提出した。 政権与党の自民党はホームページに公開した政策広報資料を通じて、その核心を次のように説明している。

日本を守るために集団的自衛権の行使を限定的に容認する。

日本の同盟国や友好国が攻撃を受け、それが日本の存立も脅かすような「新3要件」(注1) にあたる場合に限り、日本防衛のための自衛の措置として、必要最小限の武力の行使ができるようにする。

平和と安全を守る活動への支援を拡充ㆍ迅速化

日本の平和と安全に重要な影響を与える事態では、自衛隊による外国の軍隊への後方支援(補給ㆍ輸送ㆍ医療など)が円滑に行えるようにする。ただし、戦闘現場では支援活動を行いません。同様の後方支援を、国際社会の平和と安全を脅かす事態でも行えるようにするため、新しい法律をつくる。

(注1)安倍政権は「武力を行使する際の厳しいルール」として、「(1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」などの事項を規定した。

国際貢献の拡大

紛争後の国際貢献として、自衛隊がこれまでも参加してきた国連PKOに加え、有志国が実施する類似の活動にも、PKOと同様の条件を満たせば、参加できるようにする。また、付近で活動中の日本人ボランティア等に危険が及ぶような時は、自衛隊が駆けつけて警護できるようにし、そのようなケースに限り、武器の使用制限を緩和。

離島警備の迅速な出動と在外邦人の救出を可能にする

軍隊ではない武装集団が離島を不法占拠するようなケースで、警察の対処能力を超えるような場合は、迅速に自衛隊が出動できるようにします。また、海外の日本人に危害が及びそうな時、その国の同意を得るなどの一定の条件のもと、自衛隊が救出に向かうことを可能にしする。

 併せて、このような「平和安全法制」が「防衛のレベルを越えた軍事行動」に変質されかねないという懸念に対し、自民党は前で言及した「新3要件」や「国会承認」などの「厳しい制動装置」が存在していると強弁している。

 しかし、この「厳しい制動装置」が、ある「歴史的経験」によってアジア周辺諸国が感じる「不安」まで払拭させるのは難しいようだ。

 このような「不安」は2013年12月17日に安倍政権が出した「国家安全保障戦略」2章1節に記述されている「積極的平和主義」の定義を見ると、さらにひどくなる。

他方、現在、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることや、我が国が複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面していることに鑑みれば、国際協調主義の観点からも、より積極的な対応が不可欠となっている。我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で、国際社会の平和と安定のため一層積極的な役割を果たすことを期待している。

これらを踏まえ、我が国は、今後の安全保障環境の下で、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、また、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく。このことこそが、我が国が掲げるべき国家安全保障の基本理念である。

 「我が国を取り巻く安全保障環境」、「国際社会の平和と安定」のための「これまで以上の積極的役割」そして「これまで以上」の「積極的」な「寄与」など、曖昧な表現をしているが、結局は苦もなくその隠れた意図(hidden agenda)が看破されている安倍政権の本音について、志位和夫日本共産党中央委員会幹部会委員長(現ㆍ衆議院議員)は自身の著書『戦争か平和か:戦後70年の北東アジア平和』で「歴史を覆し、憲法を壊し、『殺し、殺される』日本をつくる。このような歴史逆行の暴挙」と鮮明に批判している。

 自民・公明党連立政権の首長である安倍首相と同い年(1954年生)で、同じ年(1993年)に国会に入城した経歴を持つ志位委員長は、以来22年間、安倍首相の「宿敵」と呼ばれ、「日本極右勢力の最も強力で粘り強い抵抗軍」である日本共産党を率いている。 志位委員長は5月20日、安倍首相との党首討論で「ポツダム宣言」を引用し、憲法第9条を破壊して、日本を「海外で戦争する国」に戻そうとする策動に正面でブレーキをかけ、そのような暴走が思いどおりに行われないことを強く示唆した。 翌日の日本のインターネットで、安倍首相は「ポツダム宣言も知らない内閣首班」とし、嘲弄の的になったが、実際のところこれは珍しくない風景である。

 2005年8月に「テレビ朝日」で放送された一対一討論でも、当時「小泉の政治的後継者」として全勝街道を走っていた安倍首相(当時、衆議院議員)は、いわゆる「靖国史観」と定義される彼の歴史認識について、一緒に出演した志位委員長から猛攻を受けた末に筋違いな回答をしたことで、「国民的笑い者」になったことがあるからだ。

 現在、日本共産党は今や1960年代末から70年代の間にあった「第一の躍進」と1990年代後半にあった「第二の躍進」の後を継ぐ「第三の躍進」期に入っている。 これは2013年7月の参議院選挙、2014年12月の衆議院選挙、そして2015年4月の統一地方選挙などで絶えず続く幾何級数的党勢拡張を通じても証明される。

 結局、歴史問題など敏感な事案についていつも声高に反対してきたのは、日本共産党を孤立させるためであり、この半世紀の間にとってきた自民党に代表される日本の支配勢力の封鎖戦略も、古い政治と「自民党の亜流政党」に過ぎない民主党に嫌気を感じた日本国民が平和憲法改正、アベノミックス、脱原発、TPPなど、国民の生活と直結する政策と関連して与党と鮮明に対立してきた日本共産党の支持者に転じるのを食い止められなかったのだ。

 この本は第二次世界大戦終戦70周年を迎える今年に、日本共産党と日本社会の変革について語り、最終的には北東アジア平和協力構想という巨大な未来のロードマップを提示する論著である。 そのような意味でこの本は暗かった過去の歴史と混乱した今日の現実を乗り越えて、新たな日韓関係の地平を考える、そして北東アジアの平和の道を悩む読者たちに意味深長な示唆点を投げかけることができるだろう。

 この本を翻訳・出版する過程で筆者は日韓両国の多くの方々にお世話になった。 本の著者であり、今この瞬間にも歴史問題の解決と民主ㆍ平等の国際関係を通じた北東アジアの平和の実現に向けて孤軍奮闘している志位委員長、いつも温かい激励を惜しまない筆者の最も大きな後援者である緒方靖夫副委員長、数十年にわたる《しんぶん赤旗》特派員経験で多くの教えをくださる森原公敏国際委員会副責任者、最も近いところで筆者が手に負えない重大な責任に苦しむ度に、兄弟の無限の愛で勇気づけてくれた田所稔新日本出版社代表取締役社長兼編集長、ジャーナリストとしての文章力において、数え切れないほどのご指導ご鞭撻を賜った羽田野修一月刊《経済》編集長、海の向こうで行われる出版にすっかり心を奪われている弟子を寛大で温かい気持ちで見守って下さった東京大学の市野川容孝教授と内山融教授、二人の恩師や一生の恩人であり、その存在だけでいつも大きな力になって下さる義兄ㆍ恩師の清水剛教授、韓日中の恒久的な平和と発展に向けた情熱で筆者に対するご指導ご鞭撻をいとわず、本の出版が現実化されるようにご厚誼を賜った建国大学KU中国研究院の韓仁熙院長と丁相基大使、数年ぶりに再会した弟(筆者)と校庭で夜を徹して北東アジアの平和について意見交換した後、快くきつい仕事を引き受けて下さった金容民教授、無二の親友であり、同業者である良獻齋の徐載權代表、最後にこの本を作って下さった李載喆出版部長をはじめ、建国大学出版部の関係者の皆様にはこの紙面をお借りして、心から感謝の気持ちを申し上げる。

2015年6月11日

東京大学の校庭にて

洪 相鉉

 (c)日本共産党中央委員会