『戦争か平和か――歴史の岐路と日本共産党』
解題
本書は志位委員長本人が序文に記されているとおり、2012年から2014年にかけて発表した原稿を整理して編んだ物である。しかしこの韓国語版は、戦後70周年と日韓国交正常化50周年の歴史的な節目に発刊され、その中で委員長自身の北東アジア平和協力構想が明らかにされているという点で、特別な意味を持つ。日韓関係が戦後最悪と評価され、終戦以後最も右傾化した安倍政権とその政権に対する韓国政府の対応が膠着状態に陥っているこの時期に、日本の良心勢力の代表走者であり、韓国と協力関係を築ける有力な日本政治家の著書であるという理由一つ見ても、本書が出版される意味は大きい。
それでは本書の内容を順に見ていきたい。第一章「亡国の政治と決別し、未来に責任を負う新しい政治を」では六つの小テーマに関連し、日本共産党が現在打ち出しているビジョンとそれを実現させる為の政策、そして安倍政権に対する批判などが提起されている。特に集団的自衛権問題や歴史認識問題、そして原発問題などは、日本だけでなく韓国にも密接な関係があり、日韓関係の重要な論点でもある。特に現在安倍政権が平和安全法制(通称:戦争法案)を強行採択するなど右傾路線を堅守している昨今の状況で、第一節の「集団的自衛権」は詳細な解説と共にその対案と言うべき北東アジア平和協力構想と第三節の原発再稼動反対の主張、第四節の米軍基地問題などに対する見解を読むと、実に単純な保守・革新や左翼・右翼の色分けにとらわれたままの政治構図を超越した、大政治家の卓見を見て取れる。
続く第二章「日本社会の変革と日本共産党」は三つの節で構成されており、分量こそ一番短いが、韓国では正確な情報の少ない日本共産党に対する誤解を解くのに大いに役立つ。韓国内で共産党という名称には先入観がつきまとい、北朝鮮やかつての冷戦時代の共産主義政党が連想される事が多いが、日本共産党は独自の革新性を維持しながら極めて合理的であり(非暴力なのは勿論のこと)議会民主主義に対する強い信念を持つ草の根民主主義政党である。この点は続く第三章でももう一度強調される。共産党と言う名称に対する世間の誤解を払拭しようとする志位委員長の努力が感じられる部分である。そして本書は、日本社会が戦後70年の間にどう変化し、共産党もまたその時代的要求に対応するため、政党としてどう変革して来たのかを明らかにする。
最後の章、第三章「『第三の躍進』を本格的な流れに」は日本共産党の将来像とビジョンが主に展開されるが、単なる少数議席の革新政党ではなく、日本共産党の未来を「政権を目標とする、自民党政治の代案政党」に設定し、それに関連した各分野の構想を具体的に解き明かしている点が大変注目される。韓国社会に、自民党と民主党以外の政党は政権担当能力が無いと言う先入観が厳然と存在する現実にあって、日本共産党がこの間、自民党政治の限界を越えた代案を提示しようとどれほど長い間努力を重ねてきたか、またその方向性に基づいて今後の日本共産党の政策を具体的にどう実現させるかについて、詳細な説明がなされているからだ。同時に日本国内の事案に留まらず、北東アジア地域、ひいては全世界の平和に寄与する為の遠大なビジョンを力説している点で、日本共産党に対する正しい理解にも大いに役立つことが期待される。最後に本書に言及されている志位委員長の高見の中で最も印象的だった部分、即ち「日本の政治が取るべき五つの基本姿勢」を引用し、拙文を締めくくりたい。これは日本共産党が、我々韓国人にとって「旧友」として、協力すべき日本の良心勢力であるという事実を一番よく表している部分だからだ。
一つ、村山談話と河野談話の中心的内容を継承し、談話の精神に相応しい行動をとり、談話を否定しようとする全ての動きに対して断固として反駁すること
二つ、日本軍慰安婦問題と被害者に対する謝罪と賠償など人間としての尊厳を回復するための解決に着手すること
三つ、靖国神社に参拝しないことを日本政治のルールとして確立すること
四つ、民族差別を煽るヘイトスピーチを根絶できるよう立法的措置を含め断固たる政治的措置を取ること
五つ、一つ目に言及した二つの談話の内容を学校の教科書に誠実かつ真摯に反映させるよう努力すること
以上の五つの姿勢は、韓国政府が長らく日本に要求してきた事案であり、韓国人の立場からも十分納得できる前向きな措置だ。是非韓国社会にこうした素晴しいビジョンを持った志位委員長と日本共産党に対する正しい認識が広まる上で、この韓国語版が少しでも寄与することを願いながら解題を終えたい。
2015年7月
建国大学教 KU中国研究院 研究専任助教授
金 容民