特集

『戦争か平和か――歴史の岐路と日本共産党』 

あとがき――北東アジアの和解、友好、平和のために


 私たちのすむ北東アジアには、北朝鮮の核兵器問題、尖閣諸島問題など領土にかかわる紛争問題、歴史問題をめぐる対立と相互不信など、さまざまな緊張と紛争の火種が存在しています。いかにしてこの地域に平和的環境を構築していくか。

 そしてまた、今年、2015年は、戦後70年目の節目の年です。この節目の年を、日本とアジア諸国との「和解と友好」に向かう年とするために、何が必要か。とりわけ日本の政治に求められているものは何か。

 これらの問題に対して、私たちがどう考え、どう行動しているか。最後に、紹介させていただきたいと思います。

「北東アジア平和協力構想」を提唱する

「軍事対軍事」の危険な悪循環にきっぱり決別を

 まずこの地域に平和的環境を構築していくために何が必要かという問題です。北東アジアにさまざまな緊張と紛争の火種が存在していることは事実です。しかし、そうした事態に対して、もっぱら軍事的対応を行ったらどうなるでしょうか。

 安倍首相は、ことあるごとに「我が国を取り巻く安全保障環境が悪化している」と強調し、「抑止力」を強化するためとして、集団的自衛権行使を正当化しようとしています。しかし、さまざまな紛争問題に対して、「抑止力」の強化、軍事力増強で構えたらどうなるでしょう。相手も軍事力増強を加速することになります。そうなれば「軍事対軍事」という危険な軍事的緊張の拡大と悪循環に陥るだけではありませんか。

 いま日本に強く求められているのは、こうした有害で危険な道ときっぱり決別して、どんな問題も、道理に立った外交交渉による解決、平和的解決に徹する、憲法9条の精神に立った外交戦略を確立することにあると、私たちは主張しています。              

「北東アジア平和協力構想」――その目標と原則について

 日本共産党は、2014年1月に開催した第26回党大会で、以下の目標と原則にたった、「北東アジア平和協力構想」を提唱しました。

 ――関係諸国を律する平和のルールとして、武力の行使の放棄、紛争の平和的解決、内政不干渉、信頼醸成のための効果的な対話と協力の促進などを定める北東アジア規模の「友好協力条約」の締結をめざす。

 ――北朝鮮問題について、「6カ国協議」の2005年9月の「共同声明」に立ち返り、非核の朝鮮半島をつくり、核・ミサイル・拉致・過去の清算などの諸懸案の包括的解決をはかり、この枠組みを、北東アジアの平和と安定の枠組みに発展させる。

 ――この地域に存在する領土に関する紛争問題の解決にあたっては、歴史的事実と国際法にもとづく冷静な外交的解決に徹する。力による現状変更、武力の行使および威嚇など、紛争をエスカレートさせる行動を厳に慎み、国際法にのっとり、友好的な協議および交渉をつうじて紛争を解決する行動規範を結ぶことをめざす。

 ――北東アジアで友好と協力を発展させるうえで、日本が過去に行った侵略戦争と植民地支配の反省は、不可欠の土台となる。日本軍「慰安婦」問題など未解決の問題をすみやかに解決するとともに、歴史を偽造する逆流の台頭を許さない。

ASEANが実践している地域の平和協力の取り組み

 この構想は、決して理想論ではありません。それは、すでに東南アジアの国ぐに――ASEAN(東南アジア諸国連合)が実践している平和の地域共同の取り組みを、北東アジアでも構築しようというものです。

 私たちは、この間、東南アジアの国ぐにを訪問して、ASEANの取り組みをじかに見てきました。私自身、この間、インドネシア、ベトナム、カンボジアを訪問し、またアジア政党国際会議(ICAPP)に参加したさいに東南アジアの諸政党と交流し、この地域に、私たちが学ぶべき、豊かな教訓を含む、未来ある流れが起こっていることに直接接して、目をみはる思いでした。

 1960年代、70年代には分断と戦争が支配していたこの地域が、いまでは平和・発展・協力の地域へと変わり、2015年にはASEAN共同体が設立されようとしています。この歴史的変化をつくりだしたのは、粘り強く協議と合意を重ね、平和的手段によって安全保障をはかる多国間の枠組みを築くための一貫した努力でした。

 ASEANは、東南アジア友好協力条約(TAC)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、東アジアサミット(EAS)、東南アジア非核地帯条約(SEANWFZ)、南シナ海行動宣言(DOC)、東アジアサミット(EAS)など、重層的な平和と安全保障の枠組みをつくりあげ、それを域外にも広げています。

 なかでも私たちが注目を寄せているのは、TACの重要性です。1976年に締結されたTACは、独立・主権の尊重、内政不干渉、紛争の平和解決、武力行使の放棄、効果的な協力などの基本原則を掲げ、ASEAN域内諸国の関係を律する平和の行動規範としてつくられました。87年以降は、TACはASEANとASEAN域外諸国との安全保障関係の基礎をなす国際条約として広げられました。すでにTACは、ユーラシア大陸のほぼ全域と南北アメリカ大陸にまで及ぶ57カ国に広がり、世界人口の72%が参加する巨大な流れに成長しています。東南アジアは、世界とアジアの平和の一大源泉となっているといっても過言ではないでしょう。

 これらの全体を貫いている考え方は、次のような点にあると思われます。

 ――軍事ブロックのように外部に仮想敵を設けず、地域のすべての国を迎え入れるとともに、アジアと世界に開かれた、平和の地域共同体となっている。

 ――軍事的手段、軍事的抑止力にもっぱら依存した安全保障という考え方から脱却し、対話と信頼醸成、紛争の平和的解決など、平和的アプローチで安全保障を追求する、「平和的安全保障」というべき新しい考え方に立っている。

 ――政治・社会体制の違い、経済的な発展段階の違い、文明の違いを、互いに尊重しあい、「多様性のもとで共同の発展をはかる」という考え方を貫いている。

 東南アジア域内を見ても、数多くの紛争問題は存在します。米国がこの地域での影響力を強めようとする動きがあり、他方で、中国も影響力を拡大しようとしています。さまざまな軋轢、紛争も起こっています。しかし、そのもとでも、ASEANの国ぐには、どんな大国の支配権も認めない自主的なまとまりをつくるとともに、徹底した対話によって、「紛争を戦争にしない」――「紛争の平和的解決」を実践しています。そして、この平和の流れをアジア・太平洋の全体に、さらに世界へと広げようとしています。ここには私たちが大いに学ぶべき未来ある流れがあると考えるものです。

この「構想」の現実性――東アジアの政府の中から平和協力の提唱が

 私たちは、東アジアの政府の中から、北東アジアの平和の地域共同をつくろうという提唱がなされていることに注目しています。

 韓国の朴槿恵大統領は、「北東アジア平和協力構想」を提唱しています。北東アジアの国ぐにが、環境、災害、テロへの対応など、対話と協力を通じてソフトな議題から信頼を築き、次第に他の分野にまで協力の範囲を拡大していく多国間対話のプロセスをスタートさせ、平和と協力のメカニズムを構築することを提起しています。この「構想」に対して、多くの国から賛同が寄せられていますが、わが党の提唱の方向とも重なり合うものであり、私は、これを歓迎し、このプロセスが進むことを心から願うものです。

 インドネシア政府は、「インド・太平洋友好協力条約」の締結をよびかけ、TACのような武力行使の放棄、紛争の平和的解決などの原則にもとづいた地域の平和協力の枠組みを、インド洋と太平洋を横断する広大な地域に広げることを提唱しています。いわば「インド・太平洋版TAC」の呼びかけです。この構想は、壮大なスケールのものですが、たしかな現実的基盤をもった構想です。すでに2011年11月に開催された東アジアサミット(EAS)において、「互恵関係のためのバリ原則」が調印されており、そこには、TACが掲げている諸原則がそっくり盛り込まれているからです。「バリ原則」が表明した諸原則を、法的義務をともなう条約にすることができれば、「インド・太平洋友好協力条約」が実現することになります。

 これらの動きにてらしてみたときに、私たちの「北東アジア平和協力構想」が実現するという希望をもってもよいのではないでしょうか。

 私たちは、この提案をもって、関係各国の政府、内外の人々と懇談を重ねてきました。韓国で若いみなさんを前に、この問題で講演と質疑を行う機会もありました。多くの方々から歓迎の意が寄せられたことは、たいへん嬉しいことです。

 日本の元外務省高官の一人は、次のような感想を寄せてくれました。「(日本共産党の提案は)極めて正論で、当然支持を得られるべきです。日本と中国、韓国も入れて、どういう東アジアをつくるのか、その議論を始めましょう。角を突き合わせていがみ合う東アジアではなく、平和でむつみ合い誠実に、相手に対して寛容な、そういうものがいきわたる東アジアをつくりたい」。

 日本共産党は、野党であっても、東アジアの各国政府・政党、各国国民と語り合い、「北東アジア平和協力構想」を現実のものとするために、力をつくす決意です。さらに、私たちの野党外交の方針が、一日も早く、日本政府の外交方針になる日が訪れるように、努力するものです。

戦後70年――「和解と友好」にむけ、日本の政治がとるべき基本姿勢

 いま一つは、戦後70年の節目の年にあたって、この節目の年を、日本とアジア諸国との「和解と友好」に向かう年とするために、何が必要かという問題です。

歴史問題に対する安倍首相の不誠実な態度

 この問題にかかわって、安倍首相が今年発表するという「戦後70年の新談話」なるものに対して、国内外から懸念と批判が広がっています。

 安倍首相は、戦後50年の「村山談話」、日本軍「慰安婦」問題で軍の関与と強制を認めた「河野談話」について、「全体として継承する」と言います。しかし、「植民地支配と侵略」「慰安所における強制」への反省など、その核心的部分を引き継ぐとは決して言いません。そればかりか、靖国神社の参拝に象徴されるように、「談話」の精神を裏切る言動を重ねてきました。冒頭の一文でも紹介したように、今年5月20日の党首討論で、私が「過去の日本の戦争を『間違った戦争』と認めるか」という繰り返し質しても、安倍首相は「間違った戦争」とは決して認めようとしませんでした。

 こうした不誠実な態度の根源に、安倍首相自身のゆがんだ歴史観――侵略戦争肯定・美化の立場があることは、隠しようもないことです。

 私たちは、「村山談話」「河野談話」の到達点を後退させ、あいまいにするような「新談話」ならば、有害無益であり、出すべきではないと強く主張しています。

日本の政治がとるべき5つの基本姿勢を提唱する

 日本共産党は、2015年1月に開催した第26回党大会第3回中央委員会総会で、戦後70年の節目の年が、日本とアジア諸国との「和解と友好」に向かう年となるよう力をつくすことを表明するとともに、日本の政治がとるべき5つの基本姿勢を提唱しました。

 第一は、「村山談話」「河野談話」の核心的内容を継承し、談話の精神にふさわしい行動をとり、談話を否定する動きに対してきっぱりと反論することです。

 第二は、日本軍「慰安婦」問題について、被害者への謝罪と賠償など、人間としての尊厳が回復される解決に踏み出すことです。

 第三に、国政の場にある政治家が靖国神社を参拝することは、侵略戦争肯定の意思表示を意味するものであり、少なくとも首相や閣僚による靖国参拝はおこなわないことを日本の政治のルールとして確立することです。

 第四は、民族差別をあおるヘイトスピーチを根絶するために、立法措置も含めて、政治が断固たる立場にたつことです。

 第五は、「村山談話」「河野談話」で政府が表明してきた過去の誤りへの反省の立場を、学校の教科書に誠実かつ真剣に反映させる努力をつくすことです。

 この問題は、私たちの「北東アジア平和協力構想」の4つの目標と原則の全体の土台にあたる重大な問題です。北東アジアで平和と安定のための枠組みを構築するあらゆる努力の基礎となるのは信頼です。信頼がなければ、心を開いた対話はできず、真の平和をつくりだすことはできません。そして信頼は、歴史の真実に正面から向き合い、誠実かつ真摯に誤りを認め、未来への教訓とする態度をとってこそ、得ることができる――これが私たちの確信です。

 日本共産党は、93年の党史を通して、侵略戦争と植民地支配に命がけで反対を貫いた党として、歴史を偽造する逆流の台頭を許さず、日本を世界とアジアから信頼され尊敬される国としていくために、あらゆる力をつくす決意です。

 (c)日本共産党中央委員会