2014年 総選挙各分野政策
12、TPP
TPPへの暴走=「亡国の政治」に反対し、経済主権、食料主権を尊重した互恵・平等の対外経済関係の発展をめざす
2014年11月
自民党はTPP(環太平洋連携協定)について、2012年の総選挙で「TPP断固反対。ウソつかない。ブレない」というポスターまで張り出しました。安倍首相が交渉参加を表明した後の13年参院選挙でも、「自然的・地理的条件に制約される農林水分野の重要5品目等やこれまで営々と築き上げてきた国民皆保険制度などの聖域(死活的利益)を最優先し、それが確保できない場合には脱退も辞さないものとします」とし、6項目(※)を公約に掲げました。TPP交渉は、異常な秘密交渉のため、詳細な交渉過程はわかりませんが、多国籍大企業の利益を最優先したアメリカの交渉姿勢と各国の利害が対立し、難航しています。ところが、安倍内閣は、アメリカとの交渉でも譲歩を続け、合意に異常な意欲を示しています。まさに売国的な態度と言わなければなりません。
(※)自民党の参院選の公約(Jファイル)で、TPPについて掲げた「6項目――①自然的・地理的条件に制約される農林水産分野の重要5品目(米、麦、牛肉、豚肉、乳製品、甘味資源作物)等の聖域を確保する、②自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない、③国民皆保険制度を守る、④食の安全安心の基準を守る、⑤濫訴防止策を含まない国の主権を損なうようなISD条項は合意しない、⑥政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。
安倍首相も自民党も、「交渉力を駆使し、守るべきものは守り、国益にかなう最善の道を追求する」などと「交渉力」を強調しましたが、アメリカとの事前協議では、コメ、乳製品、砂糖など重要農産物の関税を維持できるという保証をとることはできませんでした。そのことは、交渉の過程で、アメリカやニュージーランドなどが繰り返し関税撤廃を迫っていると伝えられることにも示されています。しかも、日本の交渉参加の条件とされて、「入場料」と呼ばれた牛肉、自動車、保険の3分野でのアメリカの要求を、丸のみしました。しかも、TPP交渉と並行して、自動車、保険、投資、知的財産権、規格・基準、政府調達、競争政策、衛生植物検疫などの非関税措置の撤廃・緩和に向けた日米2国間協議を行い、TPP交渉の妥結までにまとめることまで、約束させられました。
こうした現状は、安倍首相のいう「強い交渉力」などないことを浮き彫りにしています。TPP協定を受け入れれば、近い将来農林水産物の関税全廃せざるを得なくなり、わが国の農林漁業など「守るべきものが守れない」のはいよいよあきらかです。同時に重大なことは、関税をすべて撤廃し、国民の暮らしに関わるルールを「非関税障壁」として撤廃・削減するTPPそのものの危険性とともに、アメリカの言うままに譲歩を重ね、日本を丸ごと売り渡しかねない安倍内閣の「亡国」的な姿勢です。しかも、安倍内閣は、「国のかたちを変えてしまう」と言われるTPPへの参加をアベノミクスの柱に位置づけています。この、アメリカ言いなり、財界奉仕のTPP交渉を、国民への情報開示もなしに強引にすすめています。TPPが参加国間でも深刻な問題が噴出し、日本国民にとって、「百害あって一利なし」であることがいよいよ明確ないま、交渉からの脱退こそ、最も現実的な道です。
「食と農」に壊滅的打撃――国民が生きていく土台を崩していいのか
TPP参加は、日本の農林水産業に壊滅的打撃を与え、国民への安定的な食料供給と食の安全を土台から崩します。自国での農業と食料生産をつぶし、もっぱら外国にたよる国にして良いのか、この国の根本的なあり方が問われています。
農林水産業をこわし、食料自給率を大幅に低下させる――農林水産省は2010年に行った試算で、関税撤廃によって、日本のコメの自給率は1割以下、国民が食べるコメの9割以上が外国産米になり、その結果、自民党政権のもとで低下した食料自給率は、現在の39%からさらに13%に落ちると試算しました。
TPP参加と食料自給率の向上は、絶対に両立しません。競争相手は世界で最も農産物の安いアメリカとオーストラリアです。日本農業が壊滅的打撃を受けることは避けられません。一戸当たりの耕作面積が日本の100倍のアメリカ、1500倍のオーストラリアと、「競争できる強い農業」などというのは、国土や歴史的な条件の違いを無視した暴論にすぎません。米農務省が、TPP合意で2025年までに関税が完全撤廃になった場合に12カ国の農産物貿易がどう変わるかを予測した結果(11月13日日本農業新聞)によると、輸出額が85億ドル増え、そのうち33%をアメリカで占め、58億ドル増える輸入額の70%は日本に押しつけられます。日本にとってまさに、外国食料の氾濫であり、安全な国産食料をという国民の願いを真っ向から踏みにじることになります。
大震災からの復興への希望を奪う――東日本大震災で大きな被害を受けた東北3県の農林水産業にとっては、さらに事態は深刻です。日本有数の"米どころ"への打撃ははかりしれません。三陸の主要産品であるワカメ、コンブ、サケ・マスなど水産業にも甚大な被害が及びます。被災地の基幹産業である農林水産業への大打撃となるTPP参加の強行は、被災者の生活と生業再建の基盤を壊し、復興への希望さえも奪ってしまいます。
環境や国土の保全など農林水産業の多面的な役割も失う――農林水産業は、環境や国土の保全など、多面的な役割を果たしています。日本学術会議は、農林水産業の多面的機能について、洪水防止機能、土砂崩壊防止機能、水質浄化機能、生態系保全機能などで年間約90兆円の効果があると試算していますが、TPPは、こうした多面的機能も喪失させます。
破たんした「アメリカ型ルール」の押しつけ――くらしと経済のあらゆる分野に
TPPは、農業と食料だけでなく、暮らしと経済のあらゆる分野が交渉対象とされます。TPP協定交渉では、政府調達、金融、投資、環境、労働など24の作業部会が設けられています。「非関税障壁」の撤廃の名目で、リーマン・ショックなどで破たんが見えた「アメリカ型ルール」が押しつけられ、「国のかたち」そのものを大きく変えてしまう内容を持っています。
とくに、食の安全、医療、官公需・公共事業の発注、金融・保険、労働などで、国民の生活や安全を守るルールと監視体制、中小企業を支援する制度などが大きく崩される危険が大問題になっています。
食の安全を脅かす――アメリカ政府は、BSE対策であるアメリカ産牛肉の輸入制限の緩和を要求してきました。安倍内閣は、13年4月からアメリカ産牛肉の輸入規制を30か月齢以下に緩和し、国内産牛肉の全頭検査までやめさせようとしています。TPPに参加すれば、食品の安全のための規制も「非関税障壁」とされ、とりはらわれてしまいます。米国通商代表部は、「外国貿易障壁報告書」(2010年)の中で「対日要求」として、輸入食品・農産物の検査、遺伝子組み換えなどの食品表示などがアメリカの規制より厳しいと批判、2011年2月に行われた「日米経済調和対話」でも米国政府は、残留農薬や食品添加物などの規制緩和を要求しています。
国民皆保険制度が崩され、医療崩壊がすすむ――アメリカは、民間医療保険や医薬品などの市場を開放することを繰り返し要求し、その障害として、日本の公的医療保険制度、国民皆保険制度を標的にしています。日本医師会は、TPP参加への懸念として、混合診療の全面解禁で保険のきかない医療が拡大し、所得によって受けられる医療が制限される、株式会社の病院経営への参入によるもうけ本位の医療、不採算部門の切り捨て、地域からの撤退などをあげています。これでは「医療崩壊」と呼ばれるほどの危機をますます深刻にしてしまいます。
安価な薬の供給が減り、薬価が高止まりに――アメリカはTPPを通じて知的財産権の保護強化を主張しています。それが通れば、ジェネリック薬(後発医薬品)の供給が遅れ、医薬品価格が高止まりします。アメリカは、既存薬の形や使い方を変えた医薬品を、効果がアップしていなくても"新薬"として特許申請する「エバーグリーニング」とよばれる手法を使い、既存薬の権利独占を図ろうとしています。TPPでこのルールが認められると、ジェネリック薬市場に参入するまでに、今まで以上に長い年月が必要になります。日本国内だけでなく、多くの途上国では、患者の命をつなぐ安価な医薬品が手に入りにくくなるため、多くの国が反対するのは当然です。薬メーカーに一方的に有利なアメリカ流の「知的財産権の保護」は認められません。
地元中小企業向け官公需発注が困難に――TPP交渉分野の一つである「政府調達」は、政府や地方自治体の物品購入や公共事業で、国際入札を義務づけることなどが検討されています。市町村の小規模な公共事業や物品購入も外国企業への開放が義務づけられ、地元企業への優先発注などは「非関税障壁」として排除される危険があります。地方の建設業界では、外国企業が安い外国の資材や労働力を持ち込んで参入し、「仕事を奪われる」ことも懸念されています。国が「中小企業の受注機会の増大に努める」と定めた官公需法が骨抜きにされ、地方自治体の地元中小企業優先発注や住宅リフォーム助成制度、公契約条例なども、やり玉にあげられかねません。
自主共済も廃止に追い込まれる――アメリカ政府は、相互扶助機関として保険商品を提供している協同組合である共済について、金融庁の規制のもとにある外資系保険会社と同じ「規制と競争」のもとにおけと要求しています(「日米経済調和対話」)。14年の「外国貿易障害報告書」でも、規制されていない共済を金融庁の監督に服させることを「日本政府は、実施を遅延している」ことを指定しています。共済をめぐって、日米商工会議所は、農協共済を名指していますが、商工団体、業界団体、労働団体など各種団体の自主的な共済にも同様な要求が突きつけられるでしょう。
労働法制の大改悪の引き金に――アメリカ政府は、「ただ働き残業」を合法化するホワイトカラーエグゼンプションの導入や、会社が自由に解雇できる「解雇の金銭解決」、派遣法など、アメリカ型に日本の労働法制を改悪することを要求しています(「日米投資イニシアティブ報告書」)。臨時国会で廃案になった労働者派遣法の改悪も、TPPの先取りということができます。
TPPの交渉内容は国民に秘密。「毒素条項」が主権を侵す
TPP交渉の内容が、国民にも、国会にも知らされず、4年間は公表しないという異常な秘密交渉になっています。安倍内閣は、この秘密条項をもっとも忠実に実行しながら、妥結に前のめりです。国のあり方を変える内容であるTPP交渉を国民的な議論なしにすすめるなど許せません。
さらにアメリカはTPPに、投資した外国の企業が、その国の政府・自治体がとる施策によって、予定していた利益が減り、損害が生じると判断した場合、その企業は、政府・自治体にたいして損害賠償や、措置の停止を求める訴訟を、世界銀行のもとにある国際機関に行うことができる「投資家・国家間の紛争解決条項」(ISDS条項)を盛り込もうとしています。この条項は、すでにアメリカ、カナダ、メキシコ3国による北米自由貿易協定(NAFTA)にあり、アメリカ企業が多額の補償金を得た例が出ています。韓国がアメリカと結んだ米韓FTA(自由貿易協定)にこの条項があり、自国のルールを国民が決める主権を侵す「毒素条項」としてきびしく批判されています。
TPPは、「成長戦略」どころか、地域経済と雇用、内需に大打撃となる
国内では、日本経団連など財界が、「成長戦略」とか「貿易立国」などと言って、TPP参加の圧力をかけています。しかし、「恩恵」を受けるのは、一部の輸出大企業をはじめとする多国籍企業で、農業と食料、地域経済と雇用、国民生活は、犠牲だけが強いられることになります。
TPP参加は、農林水産業や地方の建設業界への直接の大打撃となるだけでなく、食品加工、運輸などの関連産業、地域経済と雇用に、その被害が大きく波及します。TPPへの参加で関税を撤廃することにより、GDPが0.66%(3.2兆円)増加するという安倍政権の試算にたいして、「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」の試算(13年5月)によると、政府の「政府統一試算」を前提にしても、国内生産の減少は合計10.5兆円に達し、農林水産業で146.5万人、他産業で43.7万人、合計190万人の就業機会が消失します。GDPに与える影響は、約4.8兆円の減少となり、GDPを1.0%押し下げますが、そのうち0.6%分は、生産減・就業者減による家計消費の減少です。
北海道庁も、政府統一試算を前提に、TPP参加で道経済が1.6兆円(2010年試算では2.1兆円)もの損失を被るとしていますが、その7割は農業以外の関連産業、地域経済が受ける被害です。
このように、TPPは大きな雇用減をもたらし、国民生活と地域経済に大打撃となり、日本経済全体にも大被害をもたらします。一部の輸出大企業が、労働者と中小企業の犠牲のうえに、突出した「国際競争力」を強め、外需だのみの経済にしてきた結果、国内需要の縮小を続け、消費税増税がそれに拍車をかけました。それをさらに加速させるのがTPPです。一部の輸出大企業をはじめ多国籍企業だけが巨額の富を蓄積し、国民の所得が奪われ、日本経済全体は長期低迷から抜け出せない―TPP参加は、この悪循環を深刻にするだけであり、日本経済のまともな発展の道を閉ざすものです。
いますすむべき道は、TPP交渉から撤退し、国民生活応援・内需主導への政治にきりかえ、日本経済の健全な成長とつりあいのとれた発展をはかることです。
食料主権、経済主権を尊重した互恵・平等の経済関係の発展を
TPPが「自由貿易」「投資の自由化」の名で押しつける市場原理、規制緩和至上主義は、新しい貿易や投資、経済関係の前進どころか、世界でも、日本でも、破たんしています。地球規模での飢えと食料危機打開に向けた国際的な努力、地球環境をまもる取り組みと規制の強化、世界経済を混乱させる投機マネーへの規制など、各国の経済主権を尊重し、民主的で秩序ある経済の発展をめざす投資と貿易のルールづくりこそが、新しい世界の流れです。
食料主権を尊重した貿易ルールを――自国の食料のあり方は、その国で決めるという食料主権――関税などの国境措置の維持強化は国際的な流れです。国連人権委員会でも「各国政府に対し食料に対する権利を尊重し、保護し、履行する」勧告が再三決議されています。食料不足と飢餓の拡大のもとで、各国が食料増産、自給率の向上を求められており、貿易ルールにおいても食料主権を尊重することが求められています。豊かな発展の潜在力を持っている日本農業を無理やりつぶして、外国から大量に食料を買い入れ、輸入依存を高める―これは国際正義、人類的道義にも反する行為です。
「金融自由化」から投機マネーの規制へ――TPPは、投機マネーの規制に反対し、投資の「自由拡大」をいっそうすすめようとする考え方で成り立っています。しかし、世界の流れは、アメリカが先頭にたってすすめた「金融自由化」が、目先の利益だけを追い求めて世界中を動き回る巨額の投機マネーを生み出し、世界的な金融・経済の混乱を引き起こしていることを反省し、金融取引税の導入をはじめ投機規制の強化を探求しています。「投機マネー」による円の乱高下に苦しんでいる日本経済を真剣に考えるなら、こうした流れに合流することこそ求められています。
経済主権を尊重した互恵・平等の経済関係の発展をめざす――TPP交渉への参加を表明している国は、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、ペルー、ブルネイ、シンガポール、ベトナム、マレーシアの9カ国に加え、昨年10月から新たに交渉に参加したカナダ、メキシコを合わせ11カ国です。アジアでは、韓国、中国はもちろん、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国も、最大GDPを持つインドネシアをはじめ、フィリピンなども参加していないように少数派にすぎません。中国がTPPへの関心を示しているという報道もありますが、現実味が高まったという話ではありません。TPP参加は、環太平洋諸国、アジアに向かって「開かれた国」にするのではなく、経済主権、食料主権を投げ捨て、経済面でもアメリカの属国になる道にほかなりません。
日本に求められているのは、アメリカ一辺倒から抜け出し、アジアを含む各国と経済主権を尊重した互恵・平等の経済関係を発展させることです。貿易や経済関係を拡大すること自体は、悪いことではありません。しかし貿易の拡大の中でも、農業、食料、環境、労働など市場だけに任せておいては成り立たない分野があります。
新しい世界の流れは、各国の経済主権を尊重し、それぞれの国の民主的で秩序ある経済の発展をめざす、互恵・平等の投資と貿易のルールづくりにあります。とりわけ自国の食料のあり方については自国で決定するという食料主権の尊重は、世界の流れとなっています。この道をすすんでこそ、アジアを含む各国と経済主権を尊重した互恵・平等の経済関係を発展させることができます。日本は、こうした互恵・平等の経済関係を発展させる貿易・投資のルールづくりをこそ、アジアのなかで進めていくべきです。
国民的な共同の先頭に立って、TPP参加を阻止する
アメリカの顔色をうかがって、「国のかたち」を大きく変えてしまうようなTPPに参加する―これは「亡国の政治」以外の何ものでもありません。
TPP反対の世論は、大きく広がっています。JA全中(全国農業協同組合中央会)をはじめとする農漁業団体、消費者団体、地方政財界、医療団体、法曹界、学者・研究者と民主団体が、もTPP参加反対を共通課題とした共同-一点共闘がひろがっています。2010年10月から13年3月の間にTPP参加反対などの意見書・決議を可決したのが44道府県議会、2144市町村議会に及びます。
交渉参加国でも、農業団体、市民団体、環境NGOなどの中に反対の声が広がり、11月には、国際的な連帯行動が行われました。
日本共産党は、TPP交渉への参加反対の一点で、国民の共同、国会内での共同を広げるとともに、国際的な連帯も広げ、TPP参加を阻止するために全力を挙げます。なお、日本共産党は13年5月9日に、 「TPP交渉への参加は日本をアメリカに丸ごと売り渡すことになる――安倍内閣に交渉参加の撤回を強く求めます」を発表し、国民的共同の発展に力をつくしています。