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1996年1月30日
いま、「君の仕事はない。明日からこなくてよい」などといって、一方的、強制的に解雇される労働者が急増しています。
多くの企業では、企業の一方的理由で「希望退職」という退職勧奨がおこなわれ、労働者が事実上、強制的に解雇されています。また、重大なことは多くの企業で55歳(ところによっては45歳)になった中間管理職をふくむ労働者全員を対象に事実上首切りになる出向や転籍が強制されていることです。その結果、60歳定年まで働けると思っていた労働者のライフサイクルが無慈悲に崩されてきています。
一方的な業務命令による残業を、一度、拒否しただけで解雇(日立の田中さん)されたり、子育て中の女性労働者が片道2時間もかかる職場への転勤にしたがわなかったら解雇(ケンウッドの柳原さん)されています。年ごとの契約で10年以上も働いてきた女性パート労働者が、契約期間が残っているのに一方的に全員解雇(中堅の精密機器会社)されるなど、パート労働者が雇用調整の対象にされています。
こうした実態は、日本の労働者が雇用にかんしてまったく無権利状態におかれていることをしめしています。
大企業は、全産業ベースで2期連続で2ケタの増益となる見通しです。内部留保は、この1年間に2兆1千億円以上を積みまして、105兆8千億円(95年3月期、1819社)にのぼるなどぼう大な利潤をあげています。にもかかわらず、「春以来の急激な円高は、日本の高コスト体質を是正するよい機会。最近、若干円安に振れたからといって、合理化、スリム化の手綱はゆるめない」などといって、いっそうの人減らし・解雇をすすめようとしています。このため、不十分な政府統計によっても、完全失業率は1953年に調査をはじめて以来、最悪の3.4%の水準になり、完全失業者は218万人にものぼるなど、失業問題がいっそう深刻となっています。
最高裁などで、「自由に解雇できるものではない」とする判例がでています。しかし、法律になっていないため、社会的ルールとして確立しておらず、これらを乱暴に無視した解雇が横行しているのが実態です。また、裁判で争っても最終審まで十数年から20年以上もかかるため、争うことが困難で、“泣き寝入り”せざるをえないのが現実です。また、ほんらい、労働者を企業による一方的解雇からまもるべき労働協約の多くが、企業に都合のよいとりきめになっていることも、一方的な解雇を許す要因になっています。
しかも、日経連はじめ財界は「人事労務分野の規制の撤廃・緩和」「現行労基法に代表されるような労働契約、労働条件設定について刑事罰を背景にした取り締まり的・介入的規制」をなくせなどといって、いまよりもいっそう資本家や使用者が好き勝手に労働者の首切りができるよう要求しています。これらの背景には、大企業が円高を理由にして、国内での生産と雇用を削減するとともに、アジア諸国を中心に生産拠点などを海外に移し、低い賃金の労働者を活用するなどして、多国籍企業として成長し、大もうけをあげようとしていることがあります。
こうした大企業の横暴な攻撃から、労働者の働く権利をまもるためには、独自の「解雇規制立法」が不可欠です。日本共産党は、1992年2月に「労働基準法の抜本的改正についての提案」をおこない、そのなかで「解雇権の乱用規制」を提起しました。今回の「解雇規制立法提案」は、その基本をふまえて、少なくともこれだけはという雇用上の権利を提案したものです。それは、働く人びとの切実な要求であるとともに、日本の異常な円高を是正し、不況の打開をはじめ、日本経済の発展をつくりだす基礎となるものです。
ヨーロッパ諸国では、多くの国で労働者の雇用上の権利をまもる法律が整備されています。ドイツでは「解雇制限法」、フランスでは「経済的理由による解雇の防止と職業転換の権利にかんする法律」、イギリスやイタリアなどでも、解雇制限にかかわる法律で労働者の雇用上の最小限の権利をまもっています。
日本共産党は、この「解雇規制立法提案」をすべての労働者とその家族、すべての労働組合に、広範な討論をこころから呼びかけます。
日本共産党は、国民の労働権・生存権をまもり、労働者が安心して働けるよう、以下を基本とする法律の制定を提案します。この法律は、すべての労働者を対象とします。
日本では、企業が労働者を雇用するさい、ほとんどの場合は「採用通知」によって、労働契約を結んだことにし、労働基準法で明示が定められている賃金以外の労働条件については、就業規則や労働協約に記載されているもので“包括的に合意”したことになっています。つまり、個別の労働契約がないため、労働条件を正確に承知したうえで、働くようになっていません。
ドイツでは、雇用される労働者本人と文書による労働契約が交わされ、通常、職種と勤務場所、職務内容や難易度、必要経験年数、労働者の負担などを考慮してきめられた賃金等級などが明記されています。したがって、賃金の低い職務や職場への配転などは、労働契約に明記されていないかぎりできません。また、住居の移転をともなう勤務場所の変更は、本人と経営評議会の同意がなければできません。
フランスでは、使用者は労働者と労働契約を締結することが、通常であり、職種などによっては法律で義務づけられています。「雇用契約書」では、職務、勤務地、賃金額(基本給と諸手当)、労働時間、有給休暇、契約の解消などが明記されています。
経営上の理由さえあれば、労働者に遠隔地への配転や出向などを命じることができるとされ、労働者が拒否したら解雇できるという日本とは大違いです。日本でも、個別の労働契約の締結を義務づけ、解雇や出向などの強要から労働者を保護することが必要です。
使用者が、正当な理由なしに、企業の一方的な都合や理由で労働者を解雇してはならないようにします。解雇が正当であるかどうかの証明は、使用者側に義務づけます。ILO158号条約は、労働組合活動、国籍、人種、性別、宗教、社会的身分、政治的意見、出産、病気などは、正当な理由とすることはできないとしています。婚姻、家族的責任、妊娠、その他もっぱら女性であることに起因する労務提供上の困難を理由とする解雇は、許されません。労働者が、障害者である場合は「障害者の雇用の促進等にかんする法律」の目的、趣旨にもとづいて解雇を避けなければならないことはいうまでもありません。
最高裁は、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときは、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用(らんよう)として無効である」(高知放送事件・最高裁第二小法廷判決)として、使用者が解雇権を乱用することを規制しています。それは、解雇が労働者の生活の基盤をうばい、生きていく権利をおびやかすことにつながるだけに、規制・抑制されなければならないからです。
いわゆるリストラ「合理化」など経営上の理由による解雇(いわゆる整理解雇)は、通常の個別の解雇や労働者になんらかの責任がある場合の解雇などとはちがって、労働者の側にはなんらの責任もありません。しかも、通常の個別の解雇に比べて、多数の労働者が一度に解雇され、解雇された労働者とその家族だけでなく、地域経済にも大きな影響をあたえる社会問題です。したがって、法律によっていっそうきびしく規制されて当然です。
4つの要件は、判例法理ではほぼ確立されたものです。しかし、立法化されていないため、社会的ルール(社会規範)として定着しておらず、これを乱暴に無視した解雇が横行しているのが実態です。その立法化が必要です。
ドイツでは、20人〜60人以下の事業所では5人、60人〜500人ではその10%か25人、500人以上では30人の労働者を解雇することを集団的解雇として、個別的な解雇以上のきびしい制限をくわえています。集団的解雇を、30日以内におこなおうとする場合、あらかじめ州の職業安定局に届け出なければならず、当局が届け出を受理してから1カ月間は、当局が同意したときに限り効力を生じるとしています。また、集団的解雇をおこなおうとする使用者は、12カ月間のうちに講じる(解雇を回避するための)すべての手段・方法を書面にして、州の職業安定局に提出する義務を課すなどの規制があり、これらに違反すると解雇は無効となります。
経営上の理由による解雇は、労働者の年齢、雇用期間、家族関係、経済状態などを考慮して、もっとも打撃を受ける労働者の解雇は、最後でなければならないとされています。例えば、IGメタル(金属労働組合)と金属産業使用者団体の「合理化保護協定」では、「55歳以上の労働者は経済的理由による解雇はおこなわない」などをきめています。
あらゆる形の退職強要をきびしく禁止します。
多くの大企業が、形式的には「本人が希望した退職」といって解雇を強行しています。「希望退職」に応じない労働者には、遠隔地に配転したり、従来の仕事をうばったりして、働きつづけることが事実上できない状態においこみ、「退職に同意した」形をとって解雇しています。また、労働者が希望退職への応募を拒否しているにもかかわらず、上司が数人で労働者を取り囲み「執拗(しつよう)な説得」をおこなうことが、くりかえされています。
企業や使用者が、個別の労働者に「希望退職への応募をすすめる」こと自体、事実上の退職強要であり、きびしく禁止しなければなりません。解雇問題での相談の多くは、「会社の圧力によって不本意ながら退職に同意してしまったが、なんとかならないか」というものです。会社の強要によってつくられた「同意」は取り消すことができて当然です。
労働者が、退職にかんして使用者側と協議する場合、労働組合をはじめ労働者本人が選んだ代理人の立ち会いをもとめるのは当然です。通常の一般的な協議や交渉でも、代理人などの同席はひろく認められていることです。
大企業の多くは、労働者を子会社や別会社あるいは関連・下請け企業などに、労働者の同意なしに、一方的に出向させています。また、職場の設備や業務を丸ごと別会社化するなどして、そこで働いている労働者を“丸ごと出向”させる例も少なくありません。
出向は、雇用関係のある使用者(出向元)とは別の使用者(出向先)のもとで働くもので、労働者本人の職業上、社会生活上に大きな影響をおよぼすものですから、労働者本人の同意が大前提であり、拒否する権利があって当然です。
最近、大企業では「出向者の賃金補填の負担が大きい」などといって、労働者を子会社、関連・下請け企業などにむりやり転籍させて首切りをしています。職場の設備や業務を丸ごと別会社化して、労働者を“丸ごと転籍”させる例も生まれています。
転籍は、労働者が転籍元を退職して転籍先に移るものであり、解雇そのものです。転籍先が、これまで働いてきた職場で、これまでの業務をそのまま引き継いだとしても、同じことです。労働者が、いま働いている企業で働きつづけるか、別の企業に移るかは、労働者の選択の自由に属するものです。企業や使用者の都合で、押しつけられるものではなく、労働者本人の同意が大前提です。転籍を強要することは、人権じゅうりん行為です。
いま、パート労働者や派遣労働者など、不安定雇用労働者が急増し、政府の不完全な統計でも、パート労働者が929万人、派遣労働者は57万人です。これらの労働者は、賃金や諸権利で不当な差別を受けているうえに、雇用調整の対象にされ、「いつ解雇されるかわからない」といった不安にさらされています。
とりわけ、女性労働者はパート労働者の67%(623万人)、派遣労働者の約70%をしめています。こうした雇用形態と結びついて、女性労働者の多くが真っ先に解雇されています。
現行の労働基準法や「パート労働法」では、日々雇い入れる労働者や2カ月以内の期間を定めているパート労働者は、即日解雇できるようになっています。3カ月間以上1年間までの場合は、労働基準法の解雇予告(30日前)と解雇予告手当の支払いが義務づけられているだけです。つまり、解雇予告をすれば雇用契約期間が残っていても、一方的に解雇できることになっています。
「労働者派遣法」では、「派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、労働者派遣契約を解除してはならない」としているだけで、経営上の理由や使用者の都合による派遣契約の解除(解雇)については規制がありません。そのため、真っ先に雇用調整の対象にされています。また、大企業などは不安定雇用をこんごの雇用形態の基本にすることをねらっており、パート労働者や派遣労働者の働く権利を確立することが、不可欠です。
パート労働者と一般の常用雇用労働者とのちがいは、労働時間の長短および雇用契約期間に定めがあるか、ないかだけです。派遣労働者と一般の常用雇用労働者とのちがいは、働く職場の企業と直接の雇用関係があるか、直接の雇用関係がないかだけです。労働者にちがいはなく、その諸権利は平等に保障されなければなりません。
労働者が、解雇を不当とする裁判をおこない、仮処分申請や判決によって身分が保全されれば雇用が継続されますが、かならずしも就労は保障されません。
JR各社は、国鉄の分割・民営化にあたって、多数の労働者を国労や全動労などの組合員であることを理由に採用を拒否し、解雇しました。1047人の労働者が、これを不当として争い、各地方労働委員会および中央労働委員会が不当労働行為であり、責任はJR各社にあるとして採用(雇用の継続)を命じました。にもかかわらず、JR各社は命令の取り消し訴訟を起こして、採用を拒否しつづけています。労働者の雇用上の権利をまもるためには、地労委あるいは中労委が救済命令をだした時点で無条件に就労を保障させる必要があります。
ドイツでは、日本にくらべて、法律による解雇規制がすすんでいるだけでなく、係争中の労働者の地位が保障されています。使用者は、すべての解雇について、事前に従業員代表委員会の意見を聴取しなければならず、意見聴取を経ない解雇は無効となります。従業員代表委員会が、その解雇に異議を申し立てれば、使用者は労働者の要求によって、解雇訴訟の終結まで当該労働者を継続雇用することが義務づけられています。異議申し立てが正当であることが証明されれば、解雇は社会的正当性をもたないとして無効になります。
企業の都合による解雇の予告日数を3カ月以上とします。解雇予告期間は、勤続5年以上の労働者は4カ月に、10年以上の労働者は5カ月に、15年以上の労働者は6カ月に延長します。また、予告後、解雇までの期間に次の就業準備のための10日間の有給休暇、またはそれに相当する自由時間を就業時間内にとることができるようにします。
現行法では、解雇予告期間は一律に30日となっています。しかし、「会社の都合による解雇」でなければ、雇用保険をうけとれるようになるまで3カ月かかり、あまりにも短すぎます。勤続年数が1年の労働者も、10年、20年の労働者も、一律30日というのは、合理的な理由がありません。長年、同じ企業で働いてきた労働者ほど、再就職の準備などに時間がかかります。
ILOは、合理的な予告期間をもうけるようもとめています。ドイツやフランス、イギリスでは、勤続年数によって予告期間が延長されるようになっています。
労働者が、一方的に解雇されたり、現行の労働基準法などに違反した解雇も後を断ちません。全国の事業所数にくらべて労働基準監督署や監督官の数があまりにも少なすぎるからです。さらに、希望退職の強要や“入り口は出向、出口は解雇”といった不当な解雇については、監督権限がなく手がだせないのが現実です。
労働基準監督署と監督官の権限を拡充し、監督署と監督官を大幅に増やします。監督署の設置数と場所、監督官の配置数は、すべての事業所を対象にし、労働者の申告を受けやすく、それに適切に対応するのに十分な水準を確保するようにします。
労働基準法の罰則規制に準じて、罰則をもうけます。しかし、現行労基法はもっとも重い罰則でも6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金です。これでは、労働者の諸権利をまもることはできません。したがって、労基法の罰則を強化するとともに、解雇規制法にふさわしい罰則をもうけます。
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