2011年2月17日 日本共産党国会議員団
日本共産党の国会議員団が17日に発表した、2011年度予算の組み替え要求は次の通りです。
来年度予算に求められるのは、厳しさを増している国民のくらしをささえ、経済の健全な成長をはかることである。民間賃金は、ピーク時の1997年から年収で平均61万円、総額では31兆円も減っている。年収200万円以下の「働く貧困層」は1100万人に達し、今春卒業予定の大学生の就職内定率は68・8%と過去最悪である。その一方で、大企業の内部留保は244兆円までふくれあがり、現預金など手元資金だけでも64兆円という空前の「カネ余り」となっている。この異常な構造が内需を冷え込ませ、日本経済の健全な発展を妨げている。「大企業を応援すれば日本経済はうまくいく」という路線の破綻は明らかである。
ところが、政府の来年度予算案は、「新成長戦略」の名のもとに、財界いいなりで1兆5000億円の法人税減税を行い、証券優遇税制も2年間延長しようとしている。「財政難」といいながら、大企業・大資産家への減税は約2兆円にのぼる。このバラマキをやめれば、国民のくらしを応援する予算を組むことはすぐにでも可能である。また、来年度予算案では、高速道路や巨大港湾など、従来型の大型公共事業の予算も温存されている。さらに、巨額の軍事費が「聖域」とされ、米軍への「思いやり予算」総額を5年間維持するなど、アメリカ優先の姿勢も強められている。
日本共産党は、財界・アメリカ優先のバラマキと浪費をやめ、国民のくらしを応援する予算案にするために、以下の予算組み替えを行うことを要求する。
働く人の賃金が下がる一方で、一部の大企業に巨額の内部留保がたまる異常な構造から抜け出し、雇用の確保・安定と賃上げを通じて内需振興と日本経済の健全な成長を実現する必要がある。そのために、「労使まかせ」にせず、政府が総合的な賃上げ政策を実行すべきである。
――労働者派遣法の抜本改正、有期労働の規制強化、均等待遇のルールの確立などによって、非正規社員を正社員にする。
――最低賃金を時給千円以上へと大幅に引き上げる。そのために中小企業への支援を抜本的に拡充する。国や自治体が発注する事業での「官製ワーキングプア」をなくす公契約法を制定する。
――大企業による中小・零細企業への際限ない「単価切り下げ」などの不公正な取引が、そこで働く労働者の賃金を押し下げている。大企業と中小・零細企業との公正な取引のルールをつくり、労働者の賃金格差をなくす。
――違法な退職強要、解雇、雇い止めをやめさせ、解雇規制のルールを強化する。空の安全をおびやかし、労働者の権利をふみにじる違法・不当な日本航空の整理解雇をやめさせる。
――利益も内部留保も増やしながら、新規採用を激減させている大企業に追加採用を政府が強力に要請・指導する。新卒未就職者の就職活動を保障しながら業務補助者として一定期間雇用することが一部の自治体で取り組まれているが、これを国が費用を保障する制度として創設する。
――学業と両立できる就職ルールを確立する。経済界、大学、政府による3者協議に、学生の意見、実情を反映させ、実効あるルールづくりを早期にすすめる。
――失業の長期化の実態をふまえ、失業手当給付期間の延長と、保険未加入、給付期間終了後の失業者への生活援助制度を創設する。
民主党政権は、医療・介護・年金・福祉などあらゆる分野で、連続的な給付の削減と制度改悪という、自公政権と同じ社会保障切り捨て路線に踏み込んでいる。憲法25条に保障された生存権を守ることは政治の責任である。国民生活が厳しさを増し、命と健康が脅かされている今こそ、社会保障改悪路線を転換し、国民のくらしを守る制度の拡充へ足を踏み出す。
――後期高齢者医療制度を廃止し、老人保健制度に戻す。国庫負担を拡充して、国保の財政負担を補てんし、高齢者の保険料・窓口負担の引き下げ、現役世代の拠出金の軽減をはかる。
――国保料(税)の引き上げを「指示」した政府の「通達」を撤回し、国の責任で1人1万円値下げする。保険証の取り上げや無法な差し押さえなど、生活困窮者への非道な取り立てや制裁をやめさせる。
――先進国では当たり前の“窓口負担”ゼロの医療制度をめざし、高すぎる窓口負担の軽減・免除、高額療養費制度の拡充をすすめる。子どもの医療費を無料化する国の制度を創設する。
――診療報酬を引き上げ、病院も開業医も、急性期も慢性期も、地域医療をささえるすべての医療機関が十分な医療を提供できるようにする。
――介護保険の国庫負担割合を引き上げ、保険料・利用料の減免制度をつくる。介護サービスの取り上げを中止し、42万人にのぼる待機者の解消にむけた介護施設の増設をすすめる。介護現場で働く人の賃金を国の責任で月4万円引き上げる。
――2011年度の年金支給額削減を中止する。最低保障年金の早期実現による低年金・無年金の解消をめざし、まず、年金が受給できる加入期間の条件を25年から10年に短縮し、無年金者を減らす。
――障害者・障害児の「応益負担」を福祉・医療ともに全面撤廃する。福祉労働者の賃金を国の責任で引き上げる。
――生活保護の老齢加算を復活する。申請の門前払いなど、生活保護法にも反する保護行政をあらためる。
日本を「子育てがしやすい社会」に変えるには、子ども手当などの現金給付だけでなく、仕事と子育ての両立支援、教育の経済的負担の軽減、「子どもの貧困」の解決など、総合的な支援策が必要である。
――子ども手当のさらなる増額ではなく、保育所建設など総合的な子育て支援予算にまわす。政府が行った年少扶養控除廃止によって実質負担増となる世帯が出ないよう税制上の措置を行う。
――国の責任で認可保育所を増設し、待機児童の解消をはかる。保育への公的責任の放棄、保育料への「応益負担」導入など、保育制度の改悪を中止し、公的保育を守る。
――「子どもの貧困」解消にむけ、就学援助の国庫補助の復活・拡充、ひとり親家庭への支援強化などをはかる。
――私立高校生への支援金を大幅に増やし、私立高校の実質的な無償化をめざす。奨学金の無利子化、返済免除制度の拡大、給付制奨学金の創設など、教育の経済的負担の軽減をすすめる。
――少人数学級の推進、教育条件の充実にむけ、教員定数の改善を行う。当面、政府が約束しながら先延ばしした「小学2年生までの35人学級」をただちに実施する。
――削減されてきた国立大学運営費交付金の復元、私学助成をはじめ、高等教育や科学研究の予算を増額する。文化・芸術関連費を抜本的に増額する。地域スポーツ振興の予算を拡充する。
TPP(環太平洋連携協定)が原則とする「例外なき関税撤廃」を実施すれば、日本の食料自給率は13%に激減する。食料自給率の向上という国民の願いに真っ向から反し、農林漁業だけでなく関連産業を含めた地域経済に重大な打撃となるTPP参加は中止すべきである。東アジア諸国の多くが一線を画しているTPPに日本が参加することは、事実上の日米FTA(自由貿易協定)となり、コメなどの関税撤廃だけでなく、郵政民営化、牛肉のBSE(牛海綿状脳症)対策、食品添加物の基準など広範な分野の規制の撤廃・緩和を「非関税障壁撤廃」の名で迫られ、アメリカの経済戦略にいっそう深く組み込まれるのは明白である。いま求められているのは、食料、環境、雇用など「市場まかせ」にしてはならない分野まで自由化一辺倒にするのではなく、「食料主権」を尊重した貿易ルールを確立すること、そして、アメリカ追随ではなく、多様な農業を尊重し、共存共栄をはかりながら、東アジア諸国との平等・互恵の経済関係を発展させることである。同時に、40%までに落ちた食料自給率を50%に回復させるために、多様な農業経営を支援するなど農林漁業の再生に力を尽くすことである。
――TPPへの参加をやめ、「食料主権」にたってWTO(世界貿易機関)農業協定を抜本的に見直す。不要なミニマムアクセス米の「義務的」輸入は中止する。日豪EPA(経済連携協定)の交渉は中止する。
――生産費を償う水準で、主要な農産物の価格保障・所得補償にふみだす。備蓄用のコメとして、米価の下支えに有効な価格でただちに買い入れる。
――多様な家族経営の維持・発展を支援する。後継者の育成を支援し、新規就農者を援助する「就農者支援制度」を創設する。農地の荒廃・転用の危険が大きい株式会社所有を認める農地法改悪を行わない。
――木材の野放図な輸入を抑え、国産材を優先的に使う公共事業や住宅建設をすすめる。森林を保全するための作業道の整備を充実させる。
――漁業者の経営をささえるため、大手スーパーなどの買いたたきをやめさせ、魚価安定制度を創設する。
――郵政民営化、金融・保険、混合診療などの医療、食品安全基準、公共事業など、「非関税障壁」の名によるアメリカの圧力に屈した規制緩和・撤廃を行わない。
内需主導の経済に転換するためには、中小企業・地場産業・商店街を本格的に支援し、疲弊しきっている地域経済の活性化をはかることが急務である。
――高速道路や戦略港湾、ダム建設などの大型開発事業を抜本的に見直し、道路や橋梁(きょうりょう)の危険箇所の維持・補修など、生活密着型の小規模事業に切り替える。
――地方自治体で広がっている住宅リフォーム助成に対する支援を行う。「中小企業憲章」の精神を生かして中小企業・地場産業・商店街への支援を強化し、中小企業予算を倍増する。納税者の権利を保障する「納税者憲章」を制定する。
――中小零細企業の資金繰りを支援するために、「緊急保証制度」の3月末での打ち切りを撤回する。信用保証を急減させた「部分保証」制度を廃止し、全額保証に戻す。
――中小企業向け官公需を拡充し、新製品開発・販路開拓などの支援を強化する。環境・福祉など、新たな分野に挑戦する中小企業を支援する。
――2020年までに温室効果ガスを90年比で25%削減するために、産業界との公的削減協定の締結や排出量取引の導入を急ぐ。自然エネルギーの利用拡大のために、電力の全量買い入れを実施し、主に原発対策に充てられている電源開発促進税を活用し消費者負担を軽減する。
――原発促進のエネルギー政策を改め、故障やトラブルがつづく高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転は断念する。
来年度予算案は、過去最大規模の44兆円の国債と「埋蔵金」など7兆円にのぼる税外収入に依存しており、今後の見通しも立たない深刻なゆきづまり状態である。政府は、このゆきづまりを消費税増税で突破しようとしているが、これこそ国民のくらしを冷え込ませ、経済も財政も破壊する危険な道にほかならない。
いま必要なことは、軍事費と大企業・大資産家優遇税制という「二つの聖域」にメスを入れることをはじめとして、国民の立場に立って財源を確保することである。軍事費をはじめとする無駄の削減で1兆円以上、税制で2兆円、あわせて3兆円程度の財源を確保し、国民のくらしと営業をささえる予算にあてる。
――政府が強行しようとしている法人税率の5%引き下げは、大企業の「カネ余り」をひどくするだけで、雇用にも景気にもつながらない。このバラマキを撤回するとともに、大企業優遇の租税特別措置を整理・縮小する。
――欧米にくらべても極端に大資産家優遇となっている証券優遇税制を廃止する。所得税の最高税率を引き上げる。
――大企業・大資産家に2兆円ものバラマキ減税を行いながら、「税と社会保障の一体改革」などを口実に消費税増税をめざす動きに反対する。
――来年度中に消費税増税を含む「税制改革」を行うことを掲げた09年度税制「改正」法の付則104条を、ただちに廃止する。
軍事費は、4兆7750億円にものぼる。自衛隊の海外派兵体制強化と米軍支援をすすめる予算案を抜本的に見直す。
――「動的防衛力」の名のもとに、自衛隊が米軍と共同して海外での戦争に参加する態勢を強化する新「防衛大綱」・「中期防衛計画」(今後5年間で約23兆5千億円)を撤回し、自衛隊の南西地域への配備強化などをやめる。
――沖縄の新基地建設計画を撤回し、普天間基地の無条件撤去を求めてアメリカと本格的に交渉する。グアムの米軍基地建設費や訓練費、岩国基地への空母艦載機部隊の移転や横田基地における日米司令部機能の一体化などの「米軍再編」計画は、中止、撤回する。
――米軍「思いやり予算」の5年間維持・継続を決めた新特別協定を撤回する。「思いやり予算」や「SACO(沖縄特別行動委員会)」関係費などの米軍支援費を全額削除する。
――アメリカの先制攻撃戦略の一翼をになう「ミサイル防衛」の経費や、宇宙の軍事開発利用を拡大するための関係予算などを削除する。「海賊対策」の名による自衛隊の海外派兵をやめる。
――320億円もの税金を政党が分け取りする政党助成金を廃止する。使途不明の内閣官房機密費をはじめ、あらゆる分野の歳出にメスを入れる。企業・団体献金をただちに禁止する。官僚の天下りを全面禁止し、政官財の癒着を断ち切る。
――雇用保険の特別会計の積立金(11年度末4兆円)、使われずにたまっている原発の周辺整備資金(1100億円)などを活用する。