2008年12月1日 日本共産党国会議員団
障害者の全面参加と平等推進委員会
1、調査目的
障害者自立支援法が施行されて2年半余が経過した。政府は、この間、障害者の運動と国民世論におされて2度にわたって負担軽減策などを実施してきた。しかし、原則1割の応益負担による障害者の負担は依然として極めて大きい。施設・事業所は報酬が削減されて運営が危機に瀕し、人材不足も一段と深刻化している。また自治体の地域生活支援事業についても、移動支援事業所が経営危機で倒産し、障害者の社会参加や日常生活が脅かされるなど深刻な事態が各地で生まれている。こうした実態を把握し、政府が来年に予定している障害者自立支援法「改正」の方向を明らかにしていくために、昨年9月につづき、第3回目の調査を実施した。
今回は、障害者事業所にくわえて、地方自治体にもアンケートへの協力をお願いした。
2、調査対象と回収状況
▽障害者事業所
全国の障害者施設・事業所(法定)のうち、通所授産施設(旧法)、日中活動支援施設(新法)、居宅支援事業所(新法)、障害児の通園施設を中心に無作為で抽出した566事業所。
郵送でアンケート用紙を送付し、郵便またはFAXで回答をお願いし、39都道府県 177施設・事業所から回答が寄せられた。回収率は31.3%。なお回答のあった施設・事業所の利用者は合計5996人。
▽地方自治体
全都道府県および政令市・中核市・県庁所在都市・東京23特別区の合計140自治体にアンケートを送付し、33都府県、66市区町村から回答があった。回収率は、それぞれ70.2%、71.0%。
3、調査実施期間
2008年7月30日から8月31日
1、利用者負担について
国の2度にわたる福祉サービスの利用者負担上限月額の引き下げ措置によって、負担額は一定程度軽減されている。しかし、給食費の実費負担と合わせるとなお負担は大きい。さらに、自立支援法の根幹である応益負担制度それ自体について、「憲法の生存権理念に反する」として廃止を求める声が7割にものぼった。
(1)福祉サービスの利用者負担――運動で一定程度軽減
原則1割の応益負担による福祉サービスの負担額は、月額「1500円以下」が最も多く52.4%、次いで「3000円超〜1万円未満」が23.3%、「1500円〜3000円以下」が14.0%となった。昨年の調査に比べて半額程度の水準になっている。障害者の運動の成果である。
しかし、なお月額1万円代、2万円以上という大きな負担を強いられている人が1割を超えて存在している。これらは、居宅介護、移動支援、入所施設などに多く見られた。
(2)なお重い給食費・居住費の自己負担
給食代は、事業所によって種々様々で、1食250円から450円、月6000円から9000円程度が多かった。1食1570円という給食代を徴収している施設もあった。
居住費(ホテルコスト)は、月額10000円程度が多かった。
(3)応益負担導入、給食費実費負担の影響
<1>負担増でサービスの利用中止・抑制が205人
負担増を理由に福祉サービスを「中止した」は26.0%の事業所で88人、利用日数・回数を「減らした」は21.5%の事業所で117人。サービス利用の中止・抑制は合計で205人、在籍者の3.4%にあたる。これは、昨年調査とほぼ同じ比率であり、国の2度にわたる負担軽減策のもとでも影響は依然深刻である。
<2>滞納者が45%の施設に
利用料、給食代の滞納者は、「いない」とした事業所は55.1%。一方、「いる」とした事業所は44.9%で、滞納者は176人にのぼった。在籍者の4割近い滞納者がいる施設(九州地方、就労移行・グループホーム)もあるなど、多くの施設から滞納者の増大を憂慮する声が寄せられた。
<3>”家に閉じこもる”障害者が増加
利用者への影響について、気づいている点を自由記述で答えてもらったところ、多くの声が寄せられた。
「行事への参加、外出等が激減した」(北海道・知的通所更生)。「働いているのに利用料を支払わなくてはならず、働きがいがないという声がだんだん増えてきている」(福井・知的通所授産)。「給食を食べずに弁当にした人が10人もいる」(滋賀・多機能型)。「負担額が増えたことで経済的負担が精神的負担となり、また施設の経営が安定しないことから将来を不安視し、その精神的なケアなどの対応も余儀なくされ、双方がストレスを感じている」(千葉・身体通所・入所)
(4)利用者負担について国への要望
<1>応益負担制度は「廃止」が7割
応益負担制度の今後のあり方について、「維持」または「廃止」について二者択一でたずねたところ、「維持し、負担軽減策の継続・充実をはかる」が30.6%、「廃止する」が69.4%だった。2度にわたって負担軽減策が実施されたものの、事業者の7割近くが自立支援法の根幹である応益負担制度は「廃止すべき」と回答している。これは、自立支援法それ自体が根本から問われているに等しいといえる。
▽「応益負担は廃止」と答えた人の理由
自由記述で答えてもらったが、次のような声が多く寄せられた。
「サービスは『益』ではなく、あたりまえに暮らしていくための権利であるから」(共通)
「障害者の生きる権利を奪う。働いているのに利用料をとるのはおかしい」(共通)
「障害者福祉は国の公的責任において実施されるべきであるから応能の考え方を基本にする」(神奈川・生活介護)
<2>給食代等の実費負担・・・「廃止・いっそうの軽減を」が8割近くに
「現状でよい」は23.3%。一方、「いっそうの軽減策を」が36.7%、「自己負担は廃止する」が40.0%という結果になった。「廃止」あるいは「いっそうの軽減を」が合わせると8割近くになり、給食代が重い負担になっていることがうかがえる。
2、事業所運営への影響
(1)報酬の引き下げで97%の事業所が減収に
事業所にたいする報酬単価の引き下げ、日額払い制への変更による影響をきいた。
▽旧体系の事業所:「大幅な減収になった」が58.1%、「やや減収になった」が38.4%と合わせて96.5%の事業所が「減収」になっている。ほぼ全施設にわたって影響がでていることがあらためて裏づけられた。
▽新体系の事業所:「大幅な減収になった」が28%、「やや減収になった」が26%と、合わせると54%で、過半数が「減収」になっている。一方、「増収になった」が26%あったが、「以前があまりに低すぎた」(福岡県・就労継続B)からという声が共通してだされている。
(2)収入減で利用者サービスの後退、職員の労働条件切り下げ
収入減への対応策をきいた。
▽利用者サービス関係:「土曜日の開所など利用日数の増」が37.0%、「行事の廃止・縮小」が39.7%など、多くの事業所が利用者サービスの後退を余儀なくされている。
▽労働条件への影響:「賃金切下げ・昇給ストップ」が27.8%、「人員削減」が18.7%、「正規職員を非正規やパートに変更」が30.6%であった。ほとんどの事業所が労働条件の切下げを余儀なくされ、危機的な状況に直面している。
(3)深刻な人材不足 「職員が集まらない」が57%
▽離職者の状況:この1年間で、113事業所で360人が退職しており、離職率は15.6%であった。1年間に4割近くの離職者がでている事業所(宮崎・児童通所、東海地方の知的通所授産)や6割の職員がやめた事業所(九州地方の就労継続A)もあった。
▽昨年度、職員募集をおこなった事業所で、「募集人数どおりの応募があった」ところは43.4%。一方、「募集人数に足りなかった」事業所が56.6%あり、人材不足の厳しい実態があらためて浮き彫りになった。
▽人材不足の原因
人材不足の原因について自由記述できいたところ、「低賃金」、「非正規職員という身分不安低」、「労働強化」、「経営が厳しく障害者福祉の将来に見通しがない」などの意見が共通してだされた。
「人件費削減のため、ベテランの職員が異動し、非正規やパートの新人および1〜2年目の職員が多く、支援体制が弱い。業務量の増加、超過勤務の増加で休憩もとれない」(東京・知的障害児施設)。「なんでもお金で片づけようとして心がすさんできてしまった。福祉の心が国によって無視されてしまった」(千葉・生活介護)など制度そのもののあり方が根底から問われる声も寄せられた。
(4)国への要望
事業所経営の危機打開策について、国への要望をきいた。
▽報酬関係:「報酬単価を引き上げる」が71.8%、「支払い方法の月額払い制」が72.3%と全事業所がいずれかの改善策を強く要望している。
▽職員配置関係:「正規職員配置を中心にできる報酬」をあげたのが81.9%と最も多く、続いて「職員配置基準の改善」が51.4%であった。
専門性を発揮し、利用者にゆきとどいた支援をおこなうためにも、また人材不足を解決するうえでも「正規職員化」が切実な声となっている。
3、子ども分野への影響について
障害児関係の事業所44か所から回答があった。
(1)応益負担の影響について
13の事業所から自由記述による回答があった。
「補そう具をやめて普通の靴にした人がいるが、履きにくくて困っている」(埼玉県・児童デイ)、「重度障害者児医療費助成制度を実施している自治体とそうでないところとの負担の格差が大きい」(北海道・障害児施設)など、子どもの成長と発達にかんして深刻な影響がでている。
「児童には契約制度は合わない。家庭での療育が困難である児童が入所しているにもかかわらず、お金が払えないなら家庭に戻してよいというのは納得できない」(佐賀・知的障害児施設)と制度の本質問題についての厳しい批判も寄せられた。
(2)国への要望
「障害が確定しない子ども(グレイゾーン)への支援の充実」が75.0%ともっとも多かった。次いで、「放課後活動について国の補助制度をつくる」が63.6%、「障害程度区分のしくみは導入しない」が52.3%、「契約制度を見直す」が45.5%であった。
4、障害者自立支援法09年「法改正」にあたっての国への要求
自由記述で回答してもらったところ、全体の7割、125事業所から回答があった。
「この時代でも、自宅に鍵をかけられて外にでられない障害者がいます。予算がきわめて不十分。一層の障害者福祉への予算確保にむけてお願いします」(長野・多機能型)
「応益負担が廃止され、真に障害者の立場に立った一人ひとりの自立を保障する法の作成にむけてとりくんでほしい」(埼玉県・知的通所授産施設)
「報酬が日払い制のため、利用者の顔がお金に見えてくることがある。こんな状況ではニーズに応じた支援も難しい。月額払いに戻してほしい」(和歌山・就労B)
「この2年間で1600万円もの借金をして事業を継続しているが、これ以上はもちこたえられない。このままでは障害者福祉事業はつぶれてしまう」(埼玉・多機能型、生活介護)
「障害程度区分を知的、精神などの障害特性に見合った内容に改めてほしい」(滋賀・知的通所)
「就労移行をことのほか強く求めているが、田舎では企業数も少なく活力がないため、とても難しい」(和歌山県・旧知的障害者授産)
「就労も重要なテーマですが、就労が不可能な重い人の地域生活の現況をもっと深く理解した見直しであって欲しい」(長崎・通所更生)
「発達障害児も知的障害児通園施設に通園することを認めてほしい」(長崎・知的障害児通園施設)
5、原油高騰が事業所経営に与えている影響について
(現時点で状況が変わっていると見られるが、当時の回答を記す)
原油高騰が経営に与えている影響では、「非常にある」が113事業所で75.0%、「ややある」が33事業所で24.4%。「ない」はわずか1事業所のみであった。
送迎車のガソリン代やパンづくりのための小麦粉、バターなど原材料の値上げが響いており、国や地方自治体の支援策を求める声が多く寄せられた。
1、「09年法改正」へむけた課題
障害者自立支援法「09年法改正」にむけた課題を聞いたところ、「福祉サービスの利用者負担軽減」をあげた自治体(都府県、政令市等)は38.6%、「事業者に対する報酬改善」は5.7%、「障害程度区分認定の改善」は50.7%、「地域生活支援事業に対する国の財政支援」は62.1%などだった。
国に対する要望については、福祉の現場に向き合っている自治体の立場から、応益負担制度の問題点の解決をはじめ具体的で切実な意見・要望が多数寄せられた(第7項目参照)。
全体として、地方自治体から見ても、障害者自立支援法は多くの矛盾と問題点が噴出しており、法制度のあり方がおおもとから問われているとの認識が共通している。
2、自治体独自の負担軽減策等について
(1)独自措置――政令市等で8割近くが実施
自立支援法施行後、利用者負担軽減策など独自措置を講じた自治体は、都府県が57.6%、政令市等が77.3%にのぼっていた。これほど多くの自治体が独自措置を講じざるをえなかったことは、自立支援法に多くの矛盾と問題点があることを裏づけるものである。
一方、障害者団体の全国調査によれば、市町村で利用者負担軽減策等の独自施策を講じた自治体は22.3%となっている(06年11月末現在、きょうされん調査)。本調査では対象とならなかった財政力の弱い小規模の市町村では、独自策を講じなかった自治体が多いと思われる。自治体間格差が拡大していることをしめしており、国の責任があらためて問われている。
(2)自治体の独自施策――利用者負担軽減が最多
自治体の独自措置の内容は、福祉サービスの原則1割の「応益負担」軽減策がもっとも多く、都道府県で4割、政令市等の6割で実施されている。政令市等では、次いで補装具費用の負担軽減が2.5割、食費負担の軽減が2割であった。自立支援医療では精神通院、更生医療、育成医療の負担軽減措置を実施している自治体がそれぞれ1割程度あった。
応益負担が障害者に重くのしかかっており、対応窓口である自治体は何らかの手だてをとらざるを得なかった実情を反映している。
報酬減対策・人材不足への支援については、重大な課題であるとの認識は共通しているが、独自の事業者支援を行っている都府県はわずか1自治体にとどまった。一方、政令市等では11自治体、16%あった。
3、地方単独の障害者医療制度の変更について
自立支援法施行後、自治体単独の障害者医療制度を変更したのは、都府県で3割、政令市等で1割だった。県単独障害者医障費助成制度に自立支援法にならって「応益負担」を持ち込むという制度改悪を実施した自治体があった。
4、地域支援事業について
地域生活支援事業に責任を負っている市町村等を対象とする設問。
(1)国庫補助金――「不十分」が7割
地域生活支援事業は市町村が実施することになっており、国が予算の範囲内でその費用の2分の1を補助することになっている。政令市等に事業費と補助額の実態をたずねたところ、事業費に対する補助額の割合は平均で約4割(充足率の単純平均)にすぎず、国の補助金が自治体事業費の2割にも満たないところもあった。
こうした状況を反映して、国の補助金は「十分」と答えた市町村等は一つもなく、「不十分」だと答えたところは7割にものぼった。「なんともいえない」が3割だった。
(2)必須5事業について
<1>利用者負担の有無――多くの自治体が1割負担導入
結果は以下の表のとおり。移動支援事業、日中一時支援事業、日常生活用具給付事業は多くのところで「自己負担あり」として「原則1割」が多かった。コミュニケーション支援事業は、関係者の運動を反映して「無料」とする自治体が圧倒的に多い。(数字は自治体数)
(表)必須事業の費用負担
事業名 |
移動支援 |
コミュニケーション |
日中一時支援 |
日常生活用具給付 |
地域生活支援 |
負担あり |
55 |
2 |
53 |
56 |
28 |
負担なし |
2 |
54 |
2 |
1 |
28 |
<2>移動支援事業――6割の自治体が利用制限
▽障害者の外出などを支援する移動支援事業について、自治体として時間数・回数などの利用上限が「ある」は60.6%、「ない」は39.4%であった。
▽利用の上限は様々だが、月10時間という自治体もあった。社会参加どころか日常生活を送るうえでも支障がでることが懸念される水準である。
▽報酬単価は、自治体によって1時間1500円〜4000円程度まで様々だった。1時間1500円程度ではヘルパーの人件費はまかなえても、交通費など間接経費はとうてい足りないと思われる。実際、事業者が経営危機に陥り、倒産や地域から撤退するなどの事態も生まれている。
5、無認可作業所に対する財政支援について
▽ 地域活動支援センター対象外の無認可の小規模作業所に対する補助金制度は、都府県の33%、政令市等の76%が実施していた。
▽現在、助成制度がある自治体について今後の方針をきいたところ、「現状維持」は都府県で5割、政令市等で6割だった。一方、「廃止」と回答した自治体は、都府県3割、政令市等で2割あった。
6、国への要望について
自由記載で回答してもらったところ、多くの意見が寄せられた。特徴的な意見は次のとおり。
▽「障害者の経済状況を十分に検証し、利用者に過重な負担が発生しないよう軽減措置を引き続き実施すること」(同趣旨多数)、「所得保障がされるまで利用者負担を応能負担に戻すこと」
▽「事業者の経営安定化などに配慮した報酬としていただきたい」(同趣旨多数)
▽「知的障害者及び精神障害者については、二次判定における変更率が特に高いことから、より客観的な判定が確保されるよう十分な検証をおこない、障害程度区分の認定システムが3障害の特性を踏まえたものとなるよう、改良普及に努めること」(同趣旨多数)
「居宅介護等に設定されている国庫負担基準を廃止していただきたい。障害程度区分は支給量決定時の勘案事項の一つの指標であるにもかかわらず程度区分毎に国庫負担基準が定められてしまっては、真に必要な支給決定がすべて市町村負担となってしまう」
▽「地域生活支援事業について国庫補助金が法定割合で交付されていない。所用の予算確保を」(同趣旨多数)、「地域生活支援事業の国の補助金の義務化」
▽「制度改正が短期間で頻回に行われるため、それに伴う事務経費が嵩むとともに、障害者及び事業者も含め制度把握が出来にくい」、「制度・規則の場当たり的な小刻みな変更はやめていただきたい」という声も複数の自治体から出ている。
以上