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国土交通大臣 金子 一義 殿

2008年10月22日

日本共産党国会議員団

「ダム建設ありき」を改め、住民参加を徹底し、「流域住民が主人公」の河川行政への転換を求める


 ダム建設計画をめぐり、熊本県知事が川辺川ダム建設中止を判断し、淀川水系流域委員会がダム計画を不適切とするなど、新たな事態が生まれています。清流を守りたいという流域住民の粘り強い長年の運動に押されたものに他なりません。

 河川行政のあり方をめぐる経済社会情勢は、地球規模の環境保全、水需要の縮小、計画想定外の豪雨の頻発、公共事業費の圧縮等財政逼迫、そして、住民参加・流域自治の気運の高揚など大きく変化しています。政府が押しすすめてきた「ダム建設ありき」の河川行政のゆきづまりは明らかです。いまこそ「流域住民が主人公」の河川行政に根本的に転換すべき時です。

 日本共産党は、従来から、自然環境と地域社会を破壊し、流域住民の合意のないダム建設計画に反対してきました。流域住民や漁民の反対の声を抑え込みダム建設計画を推進する政府に対し、流域住民や環境保護を願う国民と力をあわせ、自然環境保護や流域住民等の意見の反映、情報の公開など要求してきました。そうした運動が広がるなか、97年に河川法が改正され、河川行政において、環境保護や住民参加が位置付けられました。

ところが、これを順守すべき国土交通省は、法改正で設置された有識者諮問機関(流域委員会)の形骸化をすすめ、住民の意見は聞きおくだけなど「ダム建設ありき」に固執し改正河川法の趣旨をないがしろにしています。これを改め、環境保護や住民参加、流域自治を徹底させるためには法改正も含む抜本的な見直しが必要です。

また、川辺川ダムや八ッ場ダムなどの水没予定地の住民は、何十年も前につくられたダム建設計画によって、耐えがたい苦難を長年に渡り強いられてきました。これ以上苦難を押し付け続けることは許されません。直ちに中止・凍結すべきです。こうした地域住民の生活と営業を守ることを最優先し、新たな生活再建・地域再生のための事業を責任もって取り組むべきです。

 地域住民の命・安全、くらしを守り、自然環境との共生をはかるため、「ダム建設ありき」を改め、住民参加を徹底し「流域住民が主人公」の河川行政に転換すべきです。その立場から、日本共産党の提案と要求を申し入れます。


【1】.川辺川ダム、淀川水系ダムを直ちに中止し、「流域住民が主人公」の河川行政に転換する

 今回の熊本県知事や淀川流域委員会による、ダム建設計画の中止の判断は、流域住民の自治によって河川整備・管理を行うべきことを求めたものである。

 ダム建設は、自然環境や生態系、漁業資源に不可逆的な被害を与える事業であり、地域住民、地域社会へのマイナス影響も計り知れない。だからこそ、水没予定地住民や河川上流から下流域の住民、河川の恵みを糧とする漁民、水道を利用する住民など流域住民を無視して、河川整備や管理を行うことは許されない。国は、これまで、ダム建設計画を強引に押し付け、住民の共同を破壊するなど強権的に介入してきた姿勢を改めるべきである。

1.川辺川ダム、淀川水系ダムの建設中止を直ちに決断すること。

 本年9月11日、川辺川ダムについて、蒲島郁夫熊本県知事が「計画は白紙撤回し、ダムによらない治水対策を追求すべきであると判断した」と表明し、建設中止を求めた。蒲島知事を支持する県民世論は85%にものぼっている。ダム予定地の相良村・最大受益地とされている人吉市も、「治水で守るべきものは、流域住民が生活の糧を得てきた清流・球磨川も含まれる」と計画の白紙撤回を求めている。

 10月16日には、淀川水系ダムについて、淀川水系流域委員会が「淀川などの流量増対策としての効果は限定的で緊急性は低い」ため「『河川整備計画』に位置づけることは適切ではない」とする最終意見書を提出した。今後の洪水対策は、人命を損なう「壊滅的被害」を「回避軽減させる」ことが重要で、計画を超える降雨にも対処できるよう「堤防強化」や洪水を流域で受けとめる「流域治水」による減災を強く提案している。滋賀県議会は、この意見を尊重することを求める意見書を可決している。

 国土交通省は、川辺川ダムの建設中止をただちに決断すべきである。淀川水系流域委員会の意見を尊重し河川整備計画を作成すべきである。重ねて申し入れる。

2.住民参加と情報公開を徹底する

(1)流域住民の意見が反映する住民参加を徹底して、河川整備計画をつくる

 97年の改正河川法は、治水と利水の目的に「河川環境の整備と保全」を加え、「河川整備計画」策定に、住民の意見を反映させる手続きを新たに導入した。計画作成の基準となる「河川整備基本方針」には、その仕組みは導入されない不十分さは残したが、住民参加は一歩前進した。「淀川水系淀川流域委員会」は、この趣旨にそって委員を公募によって決めるなど民主的な手法を取り入れた事例だった。しかし、流域委員会の委員をダム建設推進派で固め、ほとんど審議もせず決定している河川整備計画(愛媛県・肱川:山鳥坂ダム)もある。そればかりか、国土交通省は、自ら諮問しておきながら、意に沿わない意見を無視する暴挙すら行っている(淀川水系)。こうした改正河川法の趣旨に反し、住民参加手続きを形骸化することは許されない。法改正を含め住民参加手続きを見直し、河川整備計画をつくる。

<1> 河川整備基本方針は、策定段階から住民参加手続きを採用して流域住民の意見を反映したものにつくり直す。

<2> 法定の常設機関として「河川流域委員会(仮称)」を設置する。

 河川管理者に対し、計画策定から河川管理実施状況についていつでも意見が言える。

 委員は、学識経験者に流域住民等を加え、公募により選び、河川管理者の策定する河川整備計画について提言や意見を述べる。また、河川整備基本方針についても意見を述べ、変更を提言できるようにする。委員会の提言や意見の尊重を河川管理者に義務付ける。

<3> 河川整備基本方針は10年、河川整備計画は5年で見直す。

<4> 住民等からの意見を反映させる公聴会等の開催を義務付ける。

<5> 河川整備計画ができるまで、従前の計画による工事はいったん凍結する。

(2)情報公開を徹底し、流域住民から求められた資料などの情報はすべて開示する。

 ダム建設計画をめぐっては、治水計画を立てる上で基本となる基本高水流量や上水道・工業用水などの水需要予測が、過大に設定されているとの疑問がとりざたされてきた。また、ダムの代替案とされる堤防補強等の工事費を過大に見積ったり、費用対便益の算定における被害額の想定根拠が希薄であったり、これらの根拠となるデータを示さないなど説明責任を充分に果たさないケースも多い。ダム建設に都合の悪いデータは出さない場合も散見される。これを改め、求められた資料等についてはすべて開示するものとする。


【2】.ダム建設は、経済社会情勢の変化に対応し、中止・凍結を含め抜本的に見直す

 ダム建設は、08年度現在、国・地方合わせて156箇所が事業中で、その総額は9兆円を超え、残事業費は約4.5兆円にものぼり、年間約3000億円がつぎ込まれている。長期かつ多方面に大きな影響を与える巨額事業であることから、何十年も前の計画をそのまま継続することはさまざまな弊害や浪費を生むことになる。国土の開発を自然環境保全より優先してきた政治がゆきづまり、いまや地球規模での環境保全が求められている。公共事業費の圧縮や地方自治体財政の逼迫など財政緊縮は避けられない。水需要の縮小傾向が続き、水需要計画の見直しが余儀なくされている。治水対策でも計画で想定した雨量を超える集中豪雨が頻発している。こうした経済社会情勢の変化に対応し、流域住民の意見が反映する住民参加手続きや情報公開の徹底、緊縮財政のもとでの費用対効果分析などを前提に次の観点から、すべてのダム事業を中止・凍結を含め抜本的に見直す。

(1)事業中のダム計画の見直しの主な観点

<1>自然環境や生態系の保全、流域住民・漁民等の生活を優先する。

 ダム建設の計画段階から環境影響分析を実施するなど、河川環境の保全を優先する。

 流域住民や漁民・漁協等の合意のない事業は実施しない。

<2>「ダムによらない治水」を徹底して追求する。

 堤防強化や遊水地など洪水を流域で受けとめる「流域治水」による減災を追求する。森林保全による保水力の向上、土砂災害の防止のための施策を促進する。

<3>水需要計画の見直し、ダム建設費負担を関係市町村の住民に明らかにする。

 水需要の縮小傾向を踏まえ、計画を今日的に見直す。ダム建設費負担は、水道料金として住民に転嫁されることから、計画段階から関係市町村の住民に負担額を明らかにする。計画の変更に伴う事業費負担増の地方負担分を軽減できるようにする

(2)サンルダム、八ッ場ダム、設楽ダム、山鳥坂ダムなどは直ちに中止する。

 実際には目的や根拠を失っているダム事業、流域住民の合意が得られない事業、民主的手続きに基づかない事業、費用対効果の低い事業などはただちに中止する。

 国直轄・水資源機構が事業主体のダムのうち、次のダム等の事業は直ちに中止すべきである。(川辺川ダム、淀川水系ダム群は前述、地方整備局ごとに列記)

北海道:サンルダム、沙流川総合開発(平取ダム)、 東 北:成瀬ダム、鳥海ダム、

関 東:八ッ場ダム、湯西川ダム、霞ヶ浦導水、  北 陸:利賀ダム、

中 部:設楽ダム、木曽川水系連絡導水路     近 畿:足羽川ダム、

四 国:山鳥坂ダム、中筋川総合開発、長安口ダム改造

九 州:嘉瀬川ダム、城原川ダム、本明川ダム、立野ダム、筑後川水系ダム群連携

水機構:思川開発、小石原川ダム

 例えば、群馬県・八ッ場ダム(総事業費4600億円)は、基本高水流量が過大なうえ、洪水の治水効果がなく、予定地の地盤が崩落する危険があると指摘されている。また、八ッ場ダムの水は、過大な水利用計画や取水対策を見直し、水利権の転用で調整を行えば、必要ないとして、住民訴訟が争われている。また、北海道・サンルダムは、流域委員会でも名寄川の過大な目標流量に疑問が呈され、サクラマスの遡上、産卵にも重大な打撃を与えると専門家から指摘されたが、北海道開発局は説明をつくさず、開発局寄りの「専門家」意見だけをもとに本体着工にむけ事業を強行している。愛知県・設楽ダムは、建設予定地の設楽町が地元には利益がないと計画当初から反対してきた経過があり、「三河湾への影響が強く懸念される」(日本海洋学会)と指摘されるなど環境へのマイナス影響が大きい。などである。

 なお、都道府県が事業主体の補助事業については、同様の観点から抜本的に見直す。


【3】.ダム建設が中止されても、住民の生活再建と地域振興に責任を持って取り組む

 川辺川ダムや八ッ場ダムなど、多くのダム建設計画は、半世紀もの長い間、水没予定地の住民をはじめ、地域に多大な苦難や不利益を押し付けている。

(1)「公共事業の中止に伴う住民の生活再建・地域振興を促進する法律(仮称)」を制定する。

 ダム事業など大型公共事業が中止された場合においても、地域住民が受けた困難を償うなどの観点から、国や関係自治体などが地域振興のための協議会をつくり、住民の生活再建支援や地域振興をはかることを義務付ける「公共事業の中止に伴う住民の生活再建・地域振興を促進する法律(仮称)」を制定する。

(2)ダム建設が進行中であっても、住民の生活と営業をまもる。

 事業実施中のダム事業においても、地域住民のくらしや営業を守るため、生活道路の補修や営業継続のために融資などできるようにする。

以  上  

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<見出し>

「ダム建設ありき」を改め、住民参加を徹底し、「流域住民が主人公」の河川行政への転換を求める


【1】川辺川ダム、淀川水系ダムを直ちに中止し、「流域住民が主人公」の河川行政に転換する

1.川辺川ダム、淀川水系ダムの建設中止を直ちに決断すること。

2.住民参加と情報公開を徹底する

(1)流域住民の意見が反映する住民参加を徹底して、河川整備計画をつくる

(2)情報公開を徹底し、流域住民から求められた資料などの情報はすべて開示する。

【2】.ダム建設は、経済社会情勢の変化に対応し、中止・凍結を含め抜本的に見直す

(1)事業中のダム計画の見直しの主な観点

 <1>自然環境や生態系の保全、流域住民・漁民等の生活を優先する。 

 <2>「ダムによらない治水」を徹底して追求する。

 <3>水需要計画の見直し、ダム建設費負担を関係市町村の住民に明らかにする。

(2)サンルダム、八ッ場ダム、設楽ダム、山鳥坂ダムなどは直ちに中止する。

【3】.ダム建設の中止などに伴い、住民の生活再建と地域振興に責任を持って取り組む

 <1>「公共事業の見直しに伴う住民の生活再建・地域振興を促進する法律(仮称)」を制定する。

 <2>ダム建設が進行中であっても、住民の生活と営業をまもる。

以  上


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