2007年3月3日 日本共産党
高すぎる保険料、非情な保険証とりあげ、増大する“無保険者”――4700万人の国民が加入する市町村の国民健康保険は、いま、土台を掘り崩すような危機におちいっています。
年収200万円台で30万円、40万円の負担をしいられるなど、多くの自治体の国民健康保険料(税)は、すでに、住民の負担能力をはるかに超える額となっています。
昨年6月時点で、国保料(税)滞納は480万世帯、制裁措置で国保証をとりあげられた世帯は35万を超えました。国保証をとられ、医療費を全額負担する「資格証明書」にかえられた人が、受診を控えて死にいたる事件も続発しています。有効期間を1カ月、3カ月などに限定した「短期証」交付も122・5万世帯、この10年間で8倍という激増です。
「社会保障及び国民保健の向上」を目的とし、住民に医療を保障するための制度である国保が、逆に、社会的弱者を医療から排除しているのです。こんな事態は、一刻も放置できません。日本共産党は、住民の命と健康をまもり、国保の本来の機能を取り戻すため、以下のことを緊急に提言します。
「不況で仕事が激減し、国保料を滞納した建設業者が『資格証』に。腸が破れる腹膜炎で病院に担ぎ込まれたが、『手術はあかん、保険証がない』と声をしぼりだす。一カ月後、多臓器不全で死亡」(島根県松江市の事件、「朝日」06年7月4日付)――こうした事件が全国で多発しています。
最大の原因は、政府が1997年に国保法を改悪し、滞納者への「資格証」交付を市町村の義務としたことです。改悪後、「資格証」世帯は3・6倍となり、失業・倒産などで苦しむ人から医療まで奪いとる非道な政治は、一挙に拡大しました。
こうした“制裁強化”にもかかわらず、国保料(税)の滞納率は、1997年の16%から、2006年の19%へと増えつづけています。収納率向上に役立たず、住民の命と健康を壊すだけの国保証とりあげは、ただちにやめるべきです。
地方自治体では、住民運動や日本共産党の論戦を受け、また、“資格証をだしても滞納は減らない”という現実に直面するなかで、「失業や病気で所得が減った人は国保証とりあげを控える」(福岡県)、「母子世帯や乳幼児については滞納でも国保証を交付する」(長野県松本市、宮城県石巻市)などの是正が各地で始まっています。
日本共産党は、「資格証」を義務づけた条項を改定し、破たんが明瞭な“とりあげ路線”の押しつけをやめさせます。そもそも現行法でも、災害や盗難、病気、事業廃止など「特別な事情」がある人は「資格証」の対象外であり、自治体の裁量で「特別な事情」の範囲を広げることも可能です。市町村は機械的な「資格証」交付をやめ、滞納者の実態に即した対応をとるべきです。
2、国が責任を果たし、支払能力に見合った国保料(税)に引き下げる
「所得280万円の4人家族で、国保料は年53万円」(大阪府守口市)など、異常に高い国保料が、低所得者の貧困をますますひどくし、滞納者を激増させています。
加入者の過半数が年金生活者などの「無職者」で、加入世帯の平均所得が165万円に過ぎない国保は、国の手厚い援助があってはじめて成り立つ医療保険です。ところが、自民党政府は1984年の法改悪で国庫負担率を引き下げたのを皮切りに、国の責任を次々と後退させてきました。これこそ「国保崩壊」の元凶です。1984年度から2004年度の間に、市町村国保への国庫支出金が49・8%から34・5%に減る一方、住民一人当たりの国保料(税)は、3万9020円から7万8959円と倍増しました。
この間、公的年金等控除の縮小などの税制改悪に連動した国保料(税)の大幅値上げが高齢者に襲いかかっています。また、政府は、国保料(税)の算定について、(1)人数・世帯ごとに定額を課す「応益割」の割合を増やす、(2)所得に応じて徴収する「応能割」も低所得者に重い計算方式とする――など、低所得者からの徴収を強化するよう市町村を指導してきました。こうしたなか、京都市や大阪市では“国保料が一気に2倍、3倍となった”として、数万人の市民が役所に抗議に殺到する事態となっています。その上、政府は昨年の「医療改革」法で、65歳以上の国保料を「年金天引き」で徴収する改悪まで決めました。
国の責任を後退させ、そのツケを保険料値上げや徴収強化で加入者に押しつける路線では、財政悪化、保険料高騰、滞納者増の悪循環が拡大するばかりです。
国保料(税)を引き下げ、国保財政を再建するため、国庫負担を1984年当時の水準に計画的に戻すべきです。
低所得者に重い国保料(税)の算定方式とその押しつけを、抜本的にあらためます。
また、滞納世帯の増加を押しとどめ、生活困窮者への「資格証」発行をなくすために、国が財政負担をしている国保料(税)の「法定減額」の制度を改善・拡充します。
3、市町村の一般財源の繰り入れの増額、都道府県の財政支援――国保料(税)軽減、減免制度拡充にむけた自治体の独自努力を
今年、各地で国保料(税)値下げに踏み切る自治体が生まれています。経緯や財源はさまざまですが、国保料(税)値下げを求める住民の世論と運動、“もはや負担は限界”という市町村の判断によるものです。国保行政は「自治事務」であり、個別の対応は市町村の裁量にゆだねられています。基金の取り崩し、一般財源の繰り入れなど、国保料(税)を引き下げる市町村独自の努力を求めます。各市町村がおこなう「申請減免」についても、減免条例・規則を拡充し、生活実態に即した免除・軽減がはかられるよう、最大限の努力をおこなうことが求められます。
都道府県から市町村国保への独自の支出金は、この間、大幅に減少し、1円も支出していない県が16県にのぼります。国保料(税)の軽減などにむけ、都道府県が積極的に財政支援をおこなうことを求めます。
税制改悪に連動した国保料(税)値上げの被害を食い止める自治体の努力も必要です。
4、使用者の違法行為をただし、資格と権利のある労働者はすべて被用者保険へ
大企業のリストラで健保に加入する正社員が激減する一方、派遣・パートなどの国保加入が増加しています。若い世代では、社会保険に加入する資格と権利のある人が、“保険料逃れ”をねらった使用者の違法行為で健康保険から排除されるケースが急増しています。
「25〜34歳の国保加入者は未納率が4割近くでずば抜けて高い」(東京都杉並区)など、それらの多くの若者が国保料を払えず、事実上の“無保険者”となっていることは重大です。
市町村と社会保険庁の連携、監督・摘発の体制を強化し、従業員を健康保険に加入させ、労使で保険料を払うという当然の責任を使用者に果たさせます。