2007年3月19日 日本共産党
看護師不足が、いま大きな社会問題になっています。
深夜の病棟に鳴りひびくナースコール、重症患者のあいだを分刻みで走りまわる看護師さん――全国各地の医療現場で、絶対的な人手不足により、限界をこす超過密労働が蔓延しています。この3年間でミスやニアミスを経験した看護職員は86%にのぼり(日本医労連調査、05年)、夢をいだいて入職した新人看護職員の10人に1人、養成所約140校分に相当する人が就職後1年以内に職場を去りました(日本看護協会調査、05年)。看護師不足で病棟閉鎖に追い込まれた病院もでるなど地域医療の崩壊につながる事態も起きています。
まさにいま、看護師不足は医師不足とともに、安全でゆきとどいた医療を実現するうえで、緊急に解決が求められている国民的な課題です。
昨年4月、国が重い腰をあげ、「患者7人に看護師1人」という手厚い看護配置基準へと18年ぶりの改正をおこないました。この人員配置にすれば病院が受け取る報酬もふえるしくみです。しかし絶対的な看護師不足が大本にあるうえ、「構造改革」にもとづき診療報酬を総額1兆円も削減したため、“看護師争奪戦”が激化し、地方や中小の病院で看護師不足が一段と深刻化しています。
日本の看護師数は100病床あたり54人で、アメリカ233人、イギリス224人、ドイツ109人に比べて大きく立ち遅れています(02年)。長年にわたる世界でも異常な政府の医療費抑制策の結果です。しかもこの数年、「医療構造改革」によって入院日数が大幅に短縮させられ、看護の業務量が激増しました。にもかかわらず看護師の抜本的増員策が放置されてきたために超過密労働が増大し、看護師不足が深刻化しているのです。自民・公明政権の社会保障切り捨て「構造改革」、医療費抑制策を転換させることが急務です。
日本共産党は、このほど全国の病院を対象にアンケート調査を実施しましたが、回答を寄せた724病院のうち、「看護師不足」を訴える病院長が7割にのぼり、看護師増員対策や診療報酬の改善などを望む声が数多く寄せられました。病院関係者のこうした切実な要望をふまえ、看護師不足を打開して安全・安心の医療を実現するための「緊急提言」を発表し、国政・地方政治で実現のために全力をあげます。
国が実施にふみきった、「患者7人に看護師1人」(7対1入院基本料)の配置基準は、長年にわたる医療関係者の運動と国民世論が実ったものです(これまで最高基準は「患者10人に看護師1人」)。医療事故をふせぎ、ゆきとどいた看護ができるようにするために、手厚い人員配置はその前提条件であり、アメリカやオーストラリアでは、すでに「常時5対1」が州法などで定められています。
ところが、「7対1」をめぐって噴出した“看護師争奪戦”などの矛盾や混乱を理由に、新看護体制を後退させる動きがでていることは重大です。問題は、国が絶対的な看護師不足を放置したまま、しかも診療報酬の総額を大幅に削減したことにあるのです。多くの中小病院が苦境に立たされ、「7対1」基準をとった病院でも看護師確保に四苦八苦しているのはこのためです。「療養病床削減で看護師不足は解決する」などという無責任な政策をおしすすめてきた、政府の責任が厳しく問われなければなりません。
日本共産党は、「7対1」問題の矛盾と混乱を解決するために、次の4点を国と自治体につよく求めます。
第一、安全でゆきとどいた看護ができるよう、すべての看護配置基準の病院について、診療報酬を07年度からでも緊急に引き上げること。
第二、「7対1」基準は、特定の病院に限定することなく、現行の施設基準を満たすすべての医療機関が継続・取得できるようにすること。
第三、国・自治体の責任で、全国の病院・施設の実態調査を緊急におこなうこと。
第四、国は看護師の絶対的不足を打開するために、養成数を増やすなど抜本的対策を緊急に講じること。
看護師が生きがいと誇りをもって働きつづけられる労働条件・職場環境をととのえることは、離職をふせぎ看護師をふやす決め手です。そのために、国の責任で看護師の大幅増員と診療報酬上の保障を講じることが不可欠です。
●「夜勤は3人、月8日以内」を早急に実現する
夜勤は、看護師に心身ともに極度の疲労をもたらします。ところが、人事院が「夜勤は複数、月8日以内」との判定をくだし(1965年)、40年以上もたつのに、いまだに夜勤が月8日以上の病院が少なくありません。看護師の約4割が夜勤8時間のうち休憩時間がゼロという悲惨な実態です(厚生労働科学研究、03年)。夜勤負担を軽減するために、すべての病院で、「夜勤は3人、月8日以内」を早急に実現できるようにすべきです。
●結婚・出産・育児などに対応できるよう勤務条件をととのえる
看護師の多くは女性で、結婚、出産・育児が離職の大きな理由の一つです。結婚しても安心して働きつづけられるよう、院内保育所の確保や産前産後の休暇、育児休暇などが十分にとれるよう代替要員の確保など体制をととのえることが必要です。
国が公立・日赤などの院内保育所運営費補助金を廃止したために、院内保育所の休園を打ち出した自治体もでています(岩手・盛岡市、父母などが自主運営中)。国は公立病院などへの院内保育所運営費補助金を復活し、民間病院への補助金をふやすべきです。
●社会的役割にふさわしい賃金を
医療内容が高度化・複雑化し、安全な医療への国民的な要求も高まり、看護師の専門性がいっそう求められています。看護の業務量も比較にならないほど増大しています。しかし、看護師など医療業(医師除く)の賃金は、同世代の他の職種の労働者と比較すると、月3万円近く低いというのが実情です(05年)。
これを保障するためには、医療保険から支払われる診療報酬をひきあげることが必要です。とりわけ看護にかかわる報酬を改善し、在院日数の縮小で重要性がましている外来看護について診療報酬を新設することなどが急がれます。
いま、あらためて浮き彫りになった看護師の深刻な絶対的不足を打開するために、国の看護師養成確保対策を抜本的に見直すことが急務です。
●「看護職員需給見通し」を緊急に見直す
国の「第6次看護職員需給見通し」では、3年後(2010年)の看護職員の必要数を140万6000人と推計し、現在の不足数4万1700人が1万5900人へと「改善が進む」などとしています。しかしこの「需給見通し」は、「7対1」導入前の基準を前提にしているきわめて不十分なものです。国は新基準をふまえて「需給見通し」を緊急に見直すべきです。
●国として「看護師確保緊急7カ年計画」を策定・推進を
日本共産党は、国が「需給見通し」を見直すとともに、「看護師確保緊急7ヵ年計画」を策定し、看護師増員対策を強力に推進するよう提案します。「需給見通し」の見直しと「緊急7カ年計画」は、以下の基準にもとづくものとすべきです。
▽すべての一般病院が「7対1」基準を実現し、さらに「夜間は患者10人に1人以上、日勤時は患者4人に1人以上」の看護配置が実現できるよう7カ年で順次達成をめざします。療養病床・精神病床も一般病床に準じた基準にし、また外来看護職員の配置、介護・福祉関係施設での増員、訪問看護ステーションの職員配置基準の改善などをすすめます。
▽夜勤制限など労働条件の改善項目を定めている看護師確保法・「基本指針」(1992年制定)は14年前につくられたもので、現状とは合わないものになっています。早急に見直すべきです。
以上のために、看護師確保法を改正して、国と自治体に「緊急7カ年計画」の策定を義務づけ、実施責任や財政保障を明らかにしたものとすべきです。
●自治体も積極的な看護師増員対策をすすめる
地域医療をまもるために、看護師不足を解決することは自治体の重要な役割です。ところが東京都は看護師確保対策予算を毎年減らしつづけ、11校あった都立看護専門学校のうち4校も廃止してしまいました。「地方行革」の名で市立看護学校が廃止され(宮城・仙台市)、看護学生奨学金貸付金の削減(岡山県)などが強行されようとしています。
自治体は、看護師の大幅増員のために、地域の実態に見合った「看護師養成確保計画」(「需給見通し」)を策定することをはじめ、看護師養成学校の定員増、院内保育所への助成充実など積極的な対策をすすめることが必要です。
島根県では、日本共産党の議員が医療関係者の運動とむすび、県議会で看護職員不足の解決を繰り返し要求してきました。この結果、県が実態調査の実施、医療関係者などで構成する「看護職員の養成・確保に関する検討会」の設置、看護師等養成所の定員の見直しなどを約束し、いま実現へのとりくみがすすんでいます。
●看護教育制度の抜本的充実と見直しを
新人看護職員が1年以内に1割近くも辞めている背景には、看護現場の超過密労働とともに、学校で身につけた力と現場で求められる力とのギャップがあることもあります。
新人看護師が自信をもって働けるよう、看護学校での基礎教育の見直しや新卒看護職員研修の制度化をはかることが必要です。それに必要な予算は国が保障すべきです。4年制教育への移行など看護教育制度の見直しも検討課題です。また准看護師のための2年課程通信制進学への支援をつよめるとともに、看護制度の一本化へむけたとりくみをすすめることが必要です。
「免許を持っていて職についていない人が55万人もいる。看護師不足はない」(厚生労働大臣)などという無責任な姿勢では、危機的な事態は解決できません。
働く意欲をもっている人たちが職場に復帰できるよう、なによりも看護現場の過酷な労働条件を改善することが急務です。あわせて、国や自治体の責任で本人の希望に応じた再就職の機会を思いきってひろげる努力が必要です。都道府県のナースセンターやハローワークが実施している就業相談、無料の職業紹介などの充実、安心して職場復帰ができるよう、病院での無料研修講座の実施・充実が不可欠です。そのために国が予算を大幅にふやし、再就労支援策を抜本的に強化し制度化をはかるべきです。
●看護師をふやす財源は十分ある
日本は、医療費(31兆円)がGDP(国内総生産)に占める割合は7.9%とOECD諸国の中で平均以下の低い水準です(02年)。しかも06年診療報酬改定ではマイナス3.16%、国負担分2390億円(診療報酬で約1兆円)が削減されました。その一方で、在日米軍移転費用には、その12倍、3兆円もの国民の血税が注ぎ込まれようとしているのです。こうした“逆立ち財政”をただせば、看護師の大幅増員を実現する財源は十分に確保できます。医療費のなかでも、高薬価・高額医療機器にメスを入れ、人の配置に重点を置いた診療報酬にあらためるべきです。
自民・公明政権の医療費抑制策のもとで、医師、看護師の増員がおさえつづけられ、患者負担の増大、療養病床の削減など国民の命を削る政策がおしすすめられてきました。国民の命よりも、空前の利益をあげながら社会保障の負担をさらに減らそうという財界の身勝手な要求を優先する、この大企業中心の自民党政治の転換がいよいよ重要です。
いま、“看護師ふやせ、超過密労働の改善”を求める運動が力づよく発展し、国民の共感と支持をひろげています。06年秋の臨時国会では、「安全でゆきとどいた医療の確立に関する請願」が全会派一致で採択されました。
日本共産党は、看護師、医療関係者のみなさんと力をあわせ、国民のいのちを守る政治をつくるたたかいとむすんで、「看護師をふやして安心・安全の医療」を実現するために全力をあげます。