高齢者や障害者の介護・福祉サービスが、いま深刻な人材不足に直面し、大きな社会問題になっています。
介護労働者は一年間で五人に一人が離職し、日本共産党国会議員団の調査(二〇〇七年九月)では、募集しても予定どおり人が集まらない障害者の事業所が七割近くにのぼりました。希望に燃えて就職した青年たちが、「月収十五万円では結婚もできない」「働きがいがあるが、仕事がきつい割に給料が安い」と無念の思いであいついで職場を去っています。
高齢社会がすすむなか、今後十年間に約六十万人の介護職員の確保が必要となると見込まれ、障害者福祉も大幅な増員が必要です。このままでは、特別養護老人ホームや訪問介護をはじめ地域の高齢者介護・障害者支援の体制が崩壊しかねない危機的な事態です。
深刻な人材不足は、自民・公明政権が、介護保険法の改悪や障害者自立支援法の強行などにより、利用者に過酷な負担増とサービスの利用制限をしいる一方で、事業所にたいする報酬を引き下げてきたことを最大の原因としています。各地の事業所が経営危機におちいり、賃金カット、正規職員のパート化など労働条件の切り下げを余儀なくされ、閉鎖に追い込まれた事業所もでています。利用者サービスにも重大な影響を引き起こしているのです。
おおもとにあるのは、社会保障予算抑制の「構造改革」路線です。“競争がサービスの質を高める”などという口実で報酬を切り下げ、規制緩和、市場原理優先で福祉の営利化をすすめてきた国の責任がきびしく問われなければなりません。
厚生労働省は〇七年八月、「社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針」(「人材確保指針」)を十四年ぶりに改定し、「給与」など労働条件の改善策をうちだしました。世論と運動の反映です。国は、この「指針」を実行する責任があります。
日本共産党は、なによりも利用者のくらしと人権を守るためにも、職員が安心して働くことのできる労働条件をととのえることが大切であるという立場で、介護保険法改悪、自立支援法にきっぱり反対し、政府に抜本的改善・見直しを求めてきました。深刻な人材不足を打開するために、福祉労働者全体が深刻な状況にあるなかで、とくに高齢者介護と障害者福祉分野にしぼって五項目の「緊急提言」をおこない、実現のために全力をあげます。
高齢者や障害者の介護・支援は、憲法で保障されたくらしと人権を守る仕事です。働きがいのある、魅力ある職業として社会的に評価され、安心して働きつづけられるよう、職員の劣悪な待遇を一刻も早く改善すべきです。
ところが介護職員の一カ月の平均賃金は月二十二・七万円で全労働者の六割程度にすぎません。若年の正規職員や常勤パートでも、年収二百万円に満たない労働者が多く、まさに、「官製ワーキングプア」というべき状況です。
正規・非正規を問わず、いますぐ賃金に一定額の上乗せができるよう、国として「賃金特別加算」措置を緊急につくることを求めます。一定の要件をみたす事業所にたいして、介護・支援の報酬とは別枠で公費により一定の期間措置するものとし、国が指導・監査を徹底して確実に賃金アップがはかられるようにすべきです。事業所の責任はもちろんですが、「国家公務員の福祉職俸給表等も参考とすること」(「人材確保指針」)と改善指針をしめしていることからも、国が責任を果たすべきです。
介護・福祉労働者の産業別最低賃金の創設も必要です。
介護・福祉労働者の劣悪な待遇を改善する最大のカギは、事業所にたいする報酬を大幅に引き上げることです。利用者のサービス向上にもつながります。国は〇九年度に介護・障害者支援の報酬改定をおこなう予定としていますが、事態は一刻の猶予もありません。〇八年度から前倒しで実施すべきです。
介護事業所について、ケアプラン作成の報酬などを含めて、介護報酬を実態に見合って引き上げるべきです。特別養護老人ホームの報酬単価を設定する際に用いられている「人件費比率40%」は低すぎます。東京では多くの施設が「70%」にも達しており、至急改善すべきです。
障害者支援の事業所では、実態を無視した報酬の「日額払い」制はただちに中止し、「月額払い」に戻すべきです。通所・入所施設、児童デイサービスなどの報酬単価は、給食費を報酬に復活することをふくめ、実態に見合った見直し、引き上げをおこなうべきです。
報酬引き上げが利用者負担に連動しないしくみをつくる
介護保険法と自立支援法は、事業所の報酬を引き上げると、保険料や利用料の負担増となってはねかえるしくみになっています。
これを解決するために、介護保険は国庫負担をふやして保険料と利用料の負担を軽減すべきです。自立支援法は「応益負担」制度を廃止すべきです。こうすれば報酬を引き上げても、国民と利用者の負担を増やさず、サービスの向上と職員の待遇改善にあてられます。
福祉現場では、身分が不安定で賃金の安い非正規職員の占める割合が年々増加し、介護職員で約四割、なかでも訪問介護では実に約八割にものぼっています。あいつぐ報酬削減に加えて、職員配置基準における「常勤換算方式」(非常勤職員の人数を常勤職員の人数に換算してよいとする方法)の導入が拍車をかけています。
福祉には専門性や経験の蓄積、継続性が求められます。正規職員の配置を中心にした雇用形態ができるようにすべきです。そして、非正規・パートでも、正規職員と変わらない内容の仕事であれば、同等の賃金など労働条件を保障すべきです。
厚生労働省が〇四年八月、ホームヘルパーの移動・待機時間などへの賃金の支払い、利用者が介護サービスをキャンセルした場合の休業手当の支給など労働条件の改善を求める通達をだしました。介護労働者の運動と日本共産党国会議員団の国会質問が実ったものです。国・自治体は、「通達」を事業所に徹底し、順守させるようにすべきです。
深夜でも歩きまわるお年よりの付き添いやケアなど、特別養護老人ホームの職員は仮眠もとれないほどの超過密労働です。職員配置基準「三対一」は、交代制勤務などのために、実際は夜間は「高齢者二十五人に職員一人」という厳しい実態になっているのです。
障害者施設も同様です。もともと劣悪な職員配置基準であったのに、自立支援法で給食・事務・施設長の三人分の職員配置が実質上バッサリ削られてしまいました。
国は、「従事者の労働の負担を考慮し、また、一定の質のサービスを確保する観点から、職員配置の在り方に係る基準等について検討を行うこと」(「人材確保指針」)としています。
安全でゆきとどいた介護・支援がおこなえるよう、特別養護老人ホーム・老人保健施設などの職員配置基準の改善、認知症高齢者のグループホームの「一人夜勤」は「複数夜勤」にすること、障害者施設の削減された人員配置基準の復活と充実をはじめ、施設・事業所の職員配置基準の改善を早急におこなうべきです。
介護保険や障害者福祉の運営・実施主体は自治体です。都道府県・市区町村も人材確保に責任があります。ところが東京都、大阪府、愛知県などは、「地方行革」の名で、福祉・介護施設にたいする「公私間格差是正制度」や人件費補助制度を次々と廃止・改悪してきました。廃止・削減した補助金を復活、拡充するとともに、他の自治体にも普及されることがのぞまれます。東京・府中市、大阪・吹田市、横浜市などで実施している障害者施設への運営費補助を他の自治体にもひろげることが求められます。
地域生活支援事業にたいする国の財政支援が不十分なために、小規模作業所や移動支援などの居宅支援事業所の運営が危機的な状況になっています。自治体は独自に支援策を講じるとともに、国は補助金を大幅にふやすべきです。
職員確保のために、採用時における十分な研修や「介護職員基礎研修」を有給で保障すること、そのための財政支援も自治体と国がおこなうべきです。
介護・福祉の人材確保のために必要な財源は、予算の浪費を見直すとともに、年五兆円にのぼる軍事費にメスを入れること、大企業と大資産家にたいするゆきすぎた減税をただすことで十分に確保できます。たとえば、介護・福祉労働者の賃金上乗せに必要な財源は、イージス艦二隻分で確保できます。
ヨーロッパの国々では、高齢者・障害者の尊厳を守るために、福祉・介護サービスに手厚い職員配置をおこない、待遇改善と地位向上に力を入れています。世界第二位の「経済大国」である日本で、こうしたことができないはずはありません。
日本共産党は、利用者、事業所、国民のみなさんと力をあわせて、深刻な人材確保の危機を打開し、国民の願いにこたえる介護・福祉を実現するために全力をあげます。