2007年12月17日 日本共産党国会議員団
貧困と格差の拡大が日本社会を揺るがす深刻な問題になっています。人間としての最低限の生活も保障されない「ネットカフェ難民」と呼ばれる人たちが増大し、「ワーキングプア」といわれる世帯が450万から600万にも達しているといわれます。貧困と格差は、働く人たちから結婚や子育て、将来への希望を奪っています。
なぜ、こんなに貧困と格差が広がっているのでしょうか。そのおおもとには、非正規雇用を増大させてきた財界の雇用戦略と、それを応援するために政府が労働法制をつぎつぎと改悪してきたことがあります。なかでも、労働者派遣法の規制緩和が大きな原因となっています。
労働者派遣法の度重なる改悪によって、派遣労働者は255万人に達し、1999年に派遣対象業務を原則自由化して以降の8年間で、3倍に急増しています。その圧倒的多数が、仕事があるときのみ雇用される登録型派遣労働者であり、きわめて不安定な雇用と低賃金のもとにおかれています。派遣事業の売上高が4兆円(2006年)をこえ、41%(対前年度比)も増大しているのに、派遣労働者の賃金はこの1年間だけでも約8%〜11%(同)も低下しています。派遣労働者の47.7%が年収200万円以下です。女性の場合、その人数は55.1%にはねあがります。若者と女性が最も困難な労働実態のもとにおかれています。
また、日雇い派遣やスポット派遣といったきわめて不安定な日雇い労働が増大し、偽装請負や多重派遣、「安全協力費」や「データ装備費」の天引きなどの違法行為が野放しになっています。「派遣契約の解除を理由に解雇された」「派遣先でセクハラを受けている」「残業代がでない」「派遣先が有給休暇を認めない」「苦情をいったら契約が更新されなかった」など、切実な訴えが後を絶ちません。派遣労働者は、まるでモノのように使い捨てにされています。
こうしたなか、勇気をもって違法や不正を告発し是正させていく運動が大きく広がり、いくつかの企業で直接雇用を実現しています。これに対し、「使い捨て雇用」に固執する日本経団連は、派遣対象業務の拡大や直接雇用の申し込み義務の廃止、派遣期間制限の撤廃など、労働者派遣法のいっそうの規制緩和を要求しています。
いま、労働者派遣をめぐって、規制緩和路線を見直すのか、それともさらに広げるのか、重要な局面にさしかかっています。
日本共産党は、偽装請負やサービス残業など職場の無法をなくし、労働者が将来に希望をもって、人間らしく生き働くことのできる社会をつくるために、労働者派遣法の抜本改正を要求します。(1)労働者派遣法を「派遣労働者保護法」に抜本的に改め、派遣労働者の権利を保護するための措置を拡充します。(2)派遣労働者の雇用と収入を安定させるために、労働者派遣は、臨時的・一時的業務に制限するとともに、派遣元に常時雇用される常用型を基本とし、仕事があるときのみ雇用される登録型は例外としてきびしく規制します。(3)日雇い派遣・スポット派遣というきわめて不安定な登録型派遣は、ただちに禁止します。(4)派遣期間の上限を1年とします。(5)1年の派遣期間をこえた場合は、派遣先が直接雇用したものとみなし、派遣先での正社員化を実現します。派遣先に違法行為があった場合にも、このみなし雇用制度を適用します。(6)派遣を理由とする差別を禁止し、派遣労働者に均等待遇を実現します。(7)派遣労働者の賃金を確保するために、派遣元のマージン率(派遣手数料)の上限を規制します。
日本共産党は、以上の要求の実現に向け、全力をつくすものです。
日本共産党の労働者派遣法改正要求《1》 雇用の原則は直接・常時雇用であり、間接雇用である労働者派遣は、臨時的・一時的業務に制限します。常用型派遣を基本とし、登録型派遣は例外としてきびしく規制します
業務が常にあるかぎりその業務を担う労働者を常時雇用し、労働者を使用する企業が直接雇用するというのが、雇用に関する国際基準です。したがって、雇用責任があいまいになる間接雇用の労働者派遣は、例外的な働き方として位置づけ、臨時的・一時的業務に制限します。派遣労働者の雇用と収入を安定させるために、派遣労働者の正社員化を進めます。そのために、労働者派遣は、派遣元で常時雇用する常用型派遣を基本とし、派遣会社に登録しておき仕事があるときのみ雇用する登録型派遣は、例外としてきびしく規制します。 |
1.派遣先による労働者派遣利用は、あくまでも臨時的・一時的な理由のある場合に、例外的に認めることとします。専門的業務は、現行26業務から大幅に縮小します。
2.労働者派遣は、常用型派遣を基本とします。登録型派遣については、例外としてきびしく規制し、派遣労働者の正社員化を進めます。登録型派遣による日雇い派遣やスポット派遣は、ただちに禁止します。
3.正規雇用の代替を目的とした派遣導入を禁止します。
(1)過去1年間に常用労働者を解雇・削減したり、有期雇用労働者を導入した事業所が派遣労働者を受け入れることを禁止します。
(2)派遣先に対して、派遣労働者の比率と派遣受け入れ期間、さらには臨時的・一時的業務かどうかについて、各都道府県にある厚生労働省の労働局に届け出ることを義務づけ、労働者からの請求があれば公表することとします。
(3)派遣労働者を新たに導入したり、増やすときは、派遣先事業場の過半数労働組合、それが存在しない場合は過半数労働者の代表との事前協議を義務づけるとともに、各都道府県にある厚生労働省の労働局に届け出ることを派遣先に義務づけ、その情報を公開することにします。
《2》 派遣期間をこえた場合や違法行為があった場合、派遣先が直接雇用したものとみなし、派遣労働者を正社員にします
現行法は、派遣期間をこえた場合、派遣先が直接雇用を申し込む義務を定めています。しかし、この規定では不十分です。仮に直接雇用にした場合でも、短期契約にし、期間満了を理由に雇い止め(事実上の解雇)にするといった脱法行為を防止することができないからです。派遣期間をこえた場合や違法行為があった場合、現行法にある直接雇用の申し込み義務に替えて、派遣先が直接雇用したものとみなし、正社員化を確実に実現します。その際の雇用契約は、期間の定めのない契約とします。 |
4.派遣期間をこえた場合や違法行為があった場合、派遣先が直接雇用したものとみなします。
(1)派遣期間の上限を1年とし、同一事業所において1年をこえる派遣期間の更新を認めないこととします。派遣期間をこえた派遣労働者は、派遣先に直接雇用されたものとみなします。ただし、労働者に選択の自由を保障します。
(2)職業安定法と労働者派遣法に違反する偽装請負や多重派遣、ならびに労働者派遣法に違反する派遣(無許可派遣や無届け派遣、社会・労働保険不加入派遣、特定派遣・系列派遣など)の場合、派遣先が労働者を直接雇用したものとみなします。
(3)派遣先による派遣労働者の直接面接や履歴書の閲覧など労働者を特定する行為によって労働者派遣契約を結んだ場合は、派遣先による採用行為とみなし、派遣先が直接雇用したものとみなします。事前面接や履歴書の閲覧をしていないことの立証責任は、派遣先が負うこととします。
(4)企業が系列子会社の派遣会社に常用労働者を移籍させ、そこから派遣労働者として元の企業に派遣就労させるような「もっぱら派遣」を禁止し、違反した場合は、派遣先が直接雇用したものとみなします。派遣元がその労働者の2分の1以上を特定の企業に派遣することを「もっぱら派遣」にあたると明確に法律に規定し、禁止することとします。
(5)労働条件と社会保険・労働保険(雇用保険と労災保険)にかかわる派遣元と派遣先の共同責任を明確にします。これらの保険に入っていない労働者を派遣先が受け入れることを禁止します。受け入れたときは、派遣先に直接雇用されたものとみなします。
(6)偽装請負を受け入れた企業は、受け入れた労働者を直接雇用したものとみなします。また、受け入れ企業に、その労働者が働きはじめた時期にさかのぼって、違法状態のもとで引き下げられた賃金などの労働条件を補償させます。
5.労働基準法を改正し、期間の定めのある契約の上限を、現行法の3年から1年にもどします。有期雇用契約は、合理的理由のある場合に限定し、反復更新を制限します。定められた期間をこえた場合、その契約は、期間の定めのない契約とします。
《3》 派遣労働者に均等待遇を実現し、年次有給休暇や社会保障などの権利を保障します
派遣を理由に労働者を差別することは、絶対に許されません。労働者としての権利を保障し、同じ仕事には同じ賃金という原則など、世界であたり前になっている均等待遇を実現します。セクシャルハラスメントや、派遣労働者に対して「ハケンさん」などと呼び捨てにし、人格を無視するパワーハラスメント(職場の力関係を利用したいじめ)を禁止します。 |
6.同一労働同一賃金の原則をつらぬくとともに、交通費、慶弔費などの支給、福利・厚生施設の利用などについて、派遣先の通常の労働者との均等待遇を義務づけます。
7.派遣労働者の年次有給休暇の権利を実質的に確保する措置を講じます。年次有給休暇について、派遣労働者の希望する時季に付与すること、休暇取得中の代替要員を派遣することなどの具体的措置を、労働者派遣契約に明記することにします。
8.セクシャルハラスメントとパワーハラスメントを禁止し、これを告発・是正する権利を派遣労働者に保障します。告発・是正を求めたことを理由とする不利益とりあつかいを禁止します。
9.派遣労働者に労働基本権を保障します。派遣元・派遣先での組合活動を保障する措置を講じ、そのことを派遣契約に明記することとします。派遣先にも団体交渉応諾義務があることを法律上明記します。
《4》 派遣元・派遣先企業の責任を強化します
派遣労働は、雇用契約を結んだ企業の指揮命令で働く一般的な働き方と異なり、指揮命令をする企業(派遣先)と賃金を支払う企業(派遣元)が異なるため、使用者責任があいまいになります。この弊害を防止するために、派遣元と派遣先の共同の責任を明確にします。 |
10.労働者派遣契約の中途解除について、派遣労働者にもその理由を文書で交付します。合理的理由のない中途解除は無効とし、派遣先職場への復帰か、派遣先・派遣元への金銭賠償かのいずれかを選択する権利を派遣労働者に保障します。労働者派遣契約の中途解除を理由として派遣元が労働者との労働契約を解除することを禁止します。派遣元に賃金継続支払いを義務づけ、労働者の希望に応じ、同等条件の派遣先を提供する義務を課します。
11.派遣労働者の時間外労働についての三六協定を派遣先が厳格に守るよう指導を強化します。三六協定締結にあたっては、派遣元での過半数代表者の選挙に派遣労働者が実質的に参加できる措置を講じます。
12.個人情報保護違反に対して、罰則を強化し、きびしく規制します。
13.派遣元のマージン率(派遣手数料)の上限を規制します。この上限をこえたとき、または派遣元が社会・労働保険加入などで雇用主の義務を果たしていないときは、派遣元のマージンを中間搾取とみなし、労働基準法6条違反として罰します。
《5》 違法行為に対する労働者の申告権を保障し、告発・是正を求めたことを理由とする不利益とりあつかいを禁止します