2006年8月30日 日本共産党
4月から改悪介護保険法が全面施行され、多くの高齢者が、容赦なく公的な介護サービスを奪われています。「要介護度が低い」と決めつけられた高齢者は、介護保険で利用してきた介護ベッド・車イス、ヘルパーやデイサービスなどをとりあげられています。昨年10月から介護施設の居住費・食費が全額自己負担となったため、負担増にたえられず退所を余儀なくされたり、ショートステイ・デイサービスを断念した高齢者も少なくありません。政府・与党が宣伝した「介護予防」や「自立支援」とはまったく逆のことが起きています。
これまでも介護保険の実態は、保険料は現役時代の給料からも年金からも容赦なく「天引き」されながら、基盤整備は遅れており、低所得者には利用料の負担が重いなど、「保険あって介護なし」と指摘されてきました。今回の改悪は、いっそうの負担増に加えて、「介護の社会化」という最大の“看板”まで投げ捨てて、要介護度が低いとされた高齢者をサービスから「門前払い」するものです。公的な介護制度でありながら、低所得者、「軽度者」など多くの高齢者の利用を排除する――「保険料だけとりたてて、介護は受けさせない」制度へと、介護保険は重大な変質を始めています。
その責任は、政府と自民・公明両党がごり押しし、民主党も賛成して成立した介護保険法の改悪、そして「構造改革」の名による乱暴な“痛み”の押しつけにあることは言うまでもありません。同時に、自治体でも、国いいなりに高齢者から公的な介護を取り上げてしまうのか、自治体としてできる限りの努力をするのかが問われています。
日本共産党は、以下の緊急要求の実現に力をつくします。これらは、どれも切実で、緊急に解決が求められる問題です。同時に、軽度者や低所得者・弱者を排除する公的な介護制度の大後退に歯止めをかける上でも重要な課題となっています。
1、介護ベッド、車イスやヘルパーなどのとりあげをやめさせる
福祉用具のとりあげを中止する−−要介護1以下の軽度の高齢者は、4月からは原則として、車イスや介護ベッドなどの貸与が受けられなくなり、従来からの利用者への経過措置も9月末が期限とされ、高齢者の不安は高まっています。国の責任で、これまで利用してきた人からの「貸しはがし」をただちに中止することを強く要求します。
市町村が福祉用具貸与の是非を判断する際には、ケアマネジャー・主治医らの判断を最大限に尊重できるようにすべきです。東京・港区、新宿区などのような、福祉用具を自費で購入・レンタルする高齢者にたいする自治体独自の助成なども必要です。
軽度者からの介護とりあげを中止する−−ホームヘルパーなどの利用時間や回数が減らされることも広がっています。4月から、介護サービスを利用するときに事業者に支払われる介護報酬が改悪され、要支援1・2と判定された人の利用限度額も大幅に引き下げられたためです。東京都の社会福祉協議会の調査でも、軽度の利用者の約5割が「時間や回数をへらさざるをえなくなった」と回答しています。
厚生労働大臣は、国会答弁でも「本当に必要な家事援助の方は、当然…今後も受けていただく」と約束していました。国は、高齢者が必要なサービスを今までどおり利用できるように、生活援助の長時間加算の復活もふくめて介護報酬を改善し、要支援1・2の人の利用限度額も引き上げるべきです。
サービスとりあげの行政指導をやめさせる−−給付「適正化」の名の下に、国が市町村に給付削減を競わせていることもサービスとりあげの大きな原因です。同居家族がいる高齢者のヘルパー利用を一律に禁止するなど、事業者に対して、国の基準にてらしても行き過ぎた指導を行う市町村が少なくありません。サービス切りすての指導はやめるべきです。
2、保険料値上げをおさえ、減免制度を充実する
4月から全国の市町村の介護保険料は平均で約24%値上げされ、基準額が4千円以上の自治体も全体の37%と3年前の5倍以上に増えました。しかも、住民税の非課税限度額の廃止など「小泉増税」の影響で、高齢者の約6人に1人が、収入は増えないにもかかわらず、保険料段階が上昇します。経過措置はあるものの、保険料が3倍になる人もいます。“払える保険料”の水準に抑えることは、政治の責任です。
国庫負担割合を引き上げ、保険料値上げを抑える−−介護保険料が高額な最大の原因は、介護保険の創設時に、国の負担割合を2分の1から4分の1(25%)に引き下げたことにあります。当面、全国市長会や全国町村会などが要望しているように、国庫負担を30%にすべきです。これだけでも、今回の高齢者の保険料値上げをほとんど抑えることができます。必要な財源は年間約3千億円であり、米軍への「思いやり予算」と大差ありません。
これまで国と自治体が一般財源で行ってきた介護予防などの福祉事業を、介護保険に「地域支援事業」として吸収したことも保険料値上げの一因です。「地域支援事業」には高齢者虐待に関する相談なども含まれており、一般財源で運営すべきです。
自治体でも、実効性のある減免制度などをつくる努力を−−「小泉増税」で保険料が値上げになる人の対策としても、実効ある市町村の独自減免が重要です。保険料の減免について、(1)全額免除、(2)一般財源の繰り入れ、(3)収入審査だけの減免を「不適当」とする、いわゆる「3原則」による締め付けを国は中止すべきです。法的にも「3原則」に市町村は従う義務はありません。千葉県浦安市や埼玉県美里町など、介護保険会計に一般財源を繰り入れ、保険料の値上げ幅を抑えた市町村もあります。自治体の条件は様々ですが、国の締め付けをはね返し、可能な努力を求めます。
3、介護が必要と認定されても、介護保険が利用できない異常事態をなくす
介護保険を使うには、要介護認定を受け、ケアプランを作成してもらうなどの手続きが必要です。ところが、4月の改悪後、要支援1・2とか要介護1・2と認定されても、「門前払い」や「たらい回し」でケアプランを作成してもらえない人が急増し、メディアも「ケアマネ難民」と報じるなど大問題になっています。介護認定を受けながら、サービスを利用できないというのは、権利侵害にほかなりません。
この原因は、国が4月に実施した介護報酬の改悪です。要支援1・2の人の「介護予防ケアプラン」の作成は、従来のプランよりも手間がかかりますが、ケアマネジャーなどに支払われる介護報酬は約半額に引き下げられました。しかも来年4月以降は、ケアマネジャーは1人8件までしか担当できません。ケアプラン作成の責任は、「地域包括支援センター」にありますが、体制が貧弱で間に合わない市町村が少なくありません。
要介護1・2など軽度の高齢者も、ケアプラン作成の介護報酬が重度よりも低く設定されました。しかも、ケアマネジャーの担当件数が40以上になると、介護報酬をさらに40〜60%も削減する「罰則」まで作られたため、事業者も、引き受けるのが難しくなっています。
国は、今回の改悪を撤回し、ケアプラン作成にかんする介護報酬や基準のあり方を抜本的に改善し、介護が必要と認定されても介護保険が利用できないという異常な事態をただちになくすべきです。市町村にも、センターの体制強化など独自のとりくみを求めます。
実態からかい離した要介護認定を改善する――身体や生活の状態は変わらないのに要介護度だけ軽く変更され、それまでの介護が受けられなくなる人も増えています。給付費抑制を優先するあまり、高齢者の実情を軽視した機械的な調査や判定が広がっていると指摘されています。要介護認定の運営改善を求めます。
4、介護施設の利用料負担をおさえ、施設不足を解決する
食費・居住費の負担を軽減する――昨年10月からの介護施設の居住費・食費全額徴収で、利用者の負担は大きく増え、退所者も全国で1千人をこえています(保団連など調査)。政府は、「低所得者対策」をとるから大きな問題はないと言ってきましたが、国の「対策」は貧弱な上に、「小泉増税」の影響で、その対象からはずれて大幅な値上げになる人も少なくありません。特養ホームの個室化が進められていますが、今度の改悪で個室の居住費は高額になったため、特養ホームへの入所を断念する人や、居住費が安いからと入所希望者が殺到している相部屋を待ち続ける人も増えています。「対策」から除外された通所介護、通所リハビリの負担増も深刻です。
国は「低所得者対策」を拡充すべきです。自治体に対しても、通所介護、通所リハビリの食費にたいする独自の減免制度などを創設・拡充することを求めます。
施設不足の深刻化をくいとめる−−特養ホームの入所待ちは、今年3月で38万5千人にものぼります(厚労省調査)。さらに先の国会で成立した「医療改革関連法」は、今後6年で療養病床を23万床も削減する計画のため、施設不足がいっそう深刻化するのは必至です。
それにもかかわらず国は、今年4月に、都道府県むけの施設整備交付金を廃止(一般財源化)してしまいました。市町村が責任を持ち、高齢者の住み慣れた地域での生活を24時間体制でささえる「地域密着型サービス」も、整備の見込みがたっていません。その一方で、有料老人ホームなど、民間の高額な居住系サービスだけは急増しています。介護施設に入れるかどうかも収入・資産次第という、「福祉の格差」は広がりつつあります。
市町村むけ交付金の引き上げなど、基盤整備にたいする支援の見直しを国に求めます。同時に、埼玉県のように、特養ホームの建設に1ベッドあたり300万円を独自に助成する県もあります。自治体も、地域の実態に応じて、特養ホーム、宅老所、収入に応じた利用料となっている生活支援ハウスなどを整備し、「福祉の格差」の解消につとめるべきです。
5、高齢者の生活をささえる自治体の仕事を後退させない
地域包括支援センターの活動を充実する−−今回新設された地域包括支援センターは、市町村が運営に責任を持ち、高齢者の実態把握、困難を抱えるケアマネジャーへの支援などを行い、地域の高齢者のあらゆる相談にもこたえる拠点とされています。
ところが、人口47万人の千葉県松戸市や、東京23区の2倍をこえる面積の山形県鶴岡市にセンターが1カ所しかないなど、設置数が少ないのが実態です。しかも、体制が貧弱なため、介護予防ケアプランの作成だけで手一杯で、他の活動はできていない場合がほとんどです。介護・医療・福祉などの連携をとり、地域の高齢者の生活を総合的にささえる拠点としてセンターを発展させるため、国や都道府県に財政的な支援を求めます。
また、民間の事業所にセンターの活動を「丸投げ」している市町村も少なくありません。法律で設置が義務づけられているセンター運営協議会なども活用し、市町村としても、センターの活動に責任を負えるような体制をつくるべきです。
介護予防などの福祉事業の後退をゆるさない−−今年4月に、介護予防や高齢者の福祉事業の多くが介護保険に吸収されたことにともない、配食サービスやパワーリハビリ、紙おむつの支給など、市町村が行ってきた福祉事業の利用料値上げや、これまで利用してきた人が事業の対象外となる事態が各地で起きています。
これは「介護予防の重視」という国の宣伝文句にも反します。これまで税金で運営してきた事業に介護保険料が使われるようになったため、4月以降、国や自治体の財政負担は軽減しており、このような福祉の後退に道理はありません。これまでの介護予防や福祉の事業を維持し、介護保険の給付も改善して、高齢者がその人らしく人間らしく生きていくことを支援する、健康づくり、本来の予防事業を地域で多面的に進めるべきです。
6、現場で高齢者をささえる介護労働者・事業者をまもる
昨年10月と今年4月に介護報酬が大幅に切り下げられたため、多くの介護施設などが経営の危機に直面しています。高齢者からの「介護とりあげ」もまた、多くのヘルパーの仕事を奪いました。介護労働者の労働条件はますます過酷になり、収入と誇り、働きがいが奪われています。厚生労働省の外郭団体の調査でも、1年間で介護労働者の21%が離職するという深刻な実態です。事業所は人材の募集にも苦労しています。
このままでは、介護サービスの質は維持できず、結局、一番被害を受けるのは利用者やその家族です。一昨年8月に、厚生労働省も、移動・待機時間への賃金支払い、労災の適用など、ホームヘルパーの労働条件改善を求める通達を出しましたが、介護報酬が低すぎるため、経営者も苦しいのが多くの実態です。4月から創設された介護報酬の「特定加算」制度も、「利用者の1割負担が値上げになるので、加算はとりたくてもとれない」「人材確保が難しい」などの理由で中小事業者はほとんど利用できていません。経営が苦しくても、地域に根ざして良いサービスを提供している事業者への支援こそ行うべきです。
《公的な介護制度の大後退をくいとめる共同をよびかけます》
政府は今回の改悪にとどまらず、利用料の2割負担への引き上げや、軽度者を介護保険の対象から完全にはずすことなども検討しています。このようなサービスとりあげを続け、介護保険をどんどん使えないようにしていけば、介護が必要な高齢者やその家族の仕事と生活にも深刻な打撃となります。介護事業者の経営にも大きな影響を与え、介護労働者の労働条件もいっそう悪化します。多くの関係者の努力で築かれてきた、それぞれの地域の介護基盤そのものが崩れてしまう危険さえあります。
政府・与党をはじめ、今回の大改悪に賛成した人たちは「財政難」などを口実にしますが、一方で政府は米軍再編に3兆円もの負担をするというのですから、その主張に道理はありません。“かつては厚生労働省の応援団だった”と言う人たちからも、今回の介護保険の大改悪にたいする怒りや疑問の声が広がっています。
日本共産党は、高齢者、家族、介護労働者、事業者、自治体関係者などのみなさんに、これまでの立場の違いをこえ、高齢者からの“介護とりあげ”、公的な介護制度の大後退をくいとめるために力をあわせることを心からよびかけます。
そして、「老老介護」をはじめ、家族介護の深刻な実態を考えるとき、公的な介護制度は改善・充実こそ求められています。日本共産党は、介護保険法が改悪された国会審議でも、「改革」というなら、(1)保険料・利用料を支払い能力に応じたものにあらためる、(2)在宅でも施設でも安心して暮らせる条件整備、(3)介護・医療・福祉などの連携による健康づくり、(4)介護労働者の労働条件の改善、(5)これらの実現のためにも国庫負担を増額する、などの改善こそ必要だと訴えてきました。ひきつづき、多くの国民のみなさんとの対話と共同を広げ、誰もが安心して利用できる介護制度をめざします。