日本共産党国会議員団障害者の全面参加と平等推進委員会が、七日発表した「障害者自立支援法実施二カ月──実態調査にもとづく緊急要求 利用者負担と施設経営の危機打開へ制度の抜本的改善を」の全文は以下の通りです。(実態調査のまとめはこちら→)
障害者自立支援法が四月から実施されて二カ月がたちました。原則一割の応益負担が導入され、大幅な利用者負担増と相次ぐ施設からの退所やサービス利用の手控え、施設経営を大本からゆるがす報酬の激減など予想を超える問題点が噴出しています。将来の生活を苦にした親子の無理心中事件も起き、関係者に衝撃をあたえています。
政府は、自立支援法案の審議のなかで、「サービス水準は後退させない」と繰り返し答弁してきましたが、全国各地で起きている深刻な事態は、この政府答弁に真っ向から反するものといわなければなりません。
日本共産党は、さきに、「障害者自立支援法実施にむけての緊急要求」を発表して(〇六年二月二十二日)、小泉「構造改革」にもとづく障害者自立支援法の問題点を厳しく指摘し、応益負担の撤回を要求するとともに、当面する改善策として、(1)利用料負担の軽減、(2)実態に見合った障害認定、(3)地域生活支援事業への財政支援、(4)基盤整備の強化を要求しました。法施行後一カ月の時点で、党国会議員団として障害者施設を対象に緊急実態調査(以下「緊急調査」と略)をおこない、四十都道府県二百十二施設から回答を得ましたが、過酷な利用者負担や施設経営の危機など懸念されていたとおりの事態がいま起きていることが明らかになりました。この結果をふまえ、国および地方自治体にたいして、障害者の自立と社会参加の後退を食い止めるため、障害者自立支援法の緊急の改善策について、以下、三つの課題にしぼってあらためて提言するものです。
日本共産党は、法施行を前に、応益負担がおよぼす過酷な負担増など問題点を指摘して制度の緊急改善を求めてきましたが、小泉首相は、「法律を実施し、問題があると分かればしかるべき対応をとる」と答弁しました(衆議院予算委員会、〇六年二月二十八日)。この首相答弁に照らせば、いま福祉の現場で起きている深刻な事態にもとづき、障害者自立支援法を緊急に見直すべきことは当然です。国としても、至急、応益負担制度導入にともなう利用者および事業所の実態調査をおこない、関係者の意見を真摯(しんし)に聞き、法制度の見直し、改善措置を速やかに講じるべきです。
政府は、福祉・医療サービスへの定率一割の応益負担の導入にあたって、「低所得者にきめ細かな軽減措置を実施している」などと繰り返し答弁してきました。しかし、わが党国会議員団の「緊急調査」でも、四月分の利用料は、身体・知的通所施設(法定)の場合、例外なくすべての障害者が、これまで無料であったのが一気に一―三万円(給食代含む)もの支払いを強いられる結果となっています。障害基礎年金とわずかばかりの工賃収入で厳しい生活を送っている障害者にとって、あまりにも過酷な負担です。しかも国の「月額負担上限額」など「軽減措置」があったとしても、所得要件が厳しすぎるために、実質的な負担軽減に役立っていない事例が数多くあることも明らかになりました。
工賃収入を大幅に上回る利用料負担に、働く意欲をなくし、施設利用を断念する障害者が各地で相次いでおり、党議員団の「緊急調査」のなかだけでも百七十六人(利用断念を検討中を含む)にのぼっています。
日本共産党は、「自立支援」どころか「自立破壊」の応益負担の撤回をあらためて要求します。当面の緊急措置として、国は月額負担上限額の大幅引き下げ、各種減免制度における所得要件の緩和、食費軽減措置の拡充・恒久化などをおこなうべきです。
自立支援医療における高額治療継続者(いわゆる「重度かつ継続」)にたいする軽減策は、更生・育成医療の対象がきわめて限定されています。早急に範囲を拡大すべきです。
地方自治体で、独自に利用料(医療費含む)の負担軽減策を実施しているところは、東京都・京都府・横浜市・広島市など八都府県と二百四十四市町村にのぼります(五月末現在、千八百二十自治体の13・4%。きょうされん調査)。これらは、応益負担がもたらす影響の深刻さおよび国の「軽減措置」がいかに実態に合わないかということを裏づけるものでもあり、国の責任があらためて問われます。同時に、障害者の暮らし・福祉を守るために、さらに全国の自治体で独自の負担軽減策を講じることが期待されます。
一方、障害者自立支援法の実施にともない、独自の重度障害者(児)医療費助成制度を改悪、後退させている自治体が、岡山県(一割負担導入)、大分県(食費補助除外)など相次いでいることは重大です。医療費助成は、障害者の社会生活の維持とともに生命にもかかわる制度です。自治体の独自軽減措置を維持・拡充することこそが求められます。
応益負担の導入によって、国と自治体は合計約七百億円の財政負担が軽減されました。この財源で、国も自治体も障害者の過酷な利用者負担を緊急に軽減すべきことは当然です。
施設・事業にたいする報酬単価が、四月から支援費対象事業所では全体で1―1・3%引き下げられ、支払い方式が月額制から日額制に変更(通所施設の場合‥月二十二日利用、94・5%の利用率で設定)されたために、福祉の現場はかつてない混乱と危機的事態に直面しています。
党国会議員団の「緊急調査」でも、身体・知的障害者施設では回答を寄せた全施設で減収となり、前年度比の収入減が平均一―二割、なかには四割を超す施設もありました。十月実施の新事業体系に移行した場合、さらに大幅な減収になると見込まれ、「廃園も現実的な課題になってきた」などと悲痛な声が数多くの施設から寄せられています。グループホームも収入減で閉鎖への危機に追い込まれ、障害児の放課後保障にかけがえのない役割を果たしている児童デイサービスも各地で存続が危ぶまれる事態です。
「夏の一時金支給ゼロ」、「賃金を削減」、「四名のパートとの再契約おこなわず」など、全国の施設でやむなく職員を犠牲にしての事業の存続をかけた深刻な対応策に追われている実情が浮き彫りになりました。夏休みの削減、土曜日の開所、旅行など行事の中止、定員を超す利用者増など、利用者への厳しいしわ寄せも各施設で余儀なくされています。
“福祉は人”です。施設・事業所の職員は、いまでも劣悪な賃金(月十九万五千円、三十歳、〇四年度埼玉県調査)など厳しい労働条件のもとで、障害者の権利保障のために献身的に働いています。このうえさらに労働条件が切り下げられることになれば、利用者サービスの後退はもちろん、若い職員の確保はいっそう困難になり、日本の障害者福祉の前途にとっても、憂うべき事態になることは火をみるよりも明らかです。
国は、施設・事業者が安定して障害者の自立支援がすすめられるよう、報酬単価の水準を抜本的に引き上げるべきです。障害者は障害があるために毎日通所ではなく施設を休むことがあるのです。報酬の日額支払い方式は、実態に見合って至急見直すことが必要です。
十月からの新体系施行にあたっては、実態に見合った報酬単価、職員配置基準などを確保すべきです。就労移行支援事業などに、雇用の場に何人結びつけたかなどによって公的な運営費に格差をつける「成功報酬」を導入するとしていますが、競争原理は障害者福祉と相いれません。やめるべきです。
精神障害者などの小規模作業所の安定した運営を保障するために、義務的経費の諸事業に移行しやすくなるよう、定員要件など緩和策を講じることが必要です。
地方自治体も、可能なかぎり独自の支援をおこなうことが必要です。川崎市、東京・葛飾区、足立区(予定)などは報酬減による影響を軽減するため施設への運営費補助を実施しています。こうしたとりくみを緊急に他の自治体でも広げることが求められます。
報酬単価を引き上げると利用者負担増につながる――当事者・家族と事業者のあいだに、こうした利害の対立がもたらされることになったのは、政府が応益負担を導入したことが最大の原因です。日本共産党は、国が応益負担を撤回すること、当面、減免制度を大幅に拡充すること、それと一つのものとして報酬単価の改善をすすめるようかさねて要求します。