自民・公明政権が、「世界最高水準の大学をつくる」といいながら、「効率化と競争」に拍車をかける「大学の構造改革」をすすめた結果、大学の教育・研究現場に深刻なゆがみと疲弊がひろがっています。
国立大学は、法人化によって運営費交付金が毎年1%削減され、財政ひっ迫による教育・研究基盤の弱体化、基礎研究の衰退、大学間格差の拡大と地方大学、人文系、教育系大学の経営危機をもたらすなど、極めて深刻な事態に陥っています。私立大学でも国庫助成が削減され、定員割れした私学は「不要だ」とばかりに補助金がカットされています。私立大学の経常費に対する補助割合が11%に低下し、学生の学費負担の増大、教育・研究条件の国公私間格差の拡大、中小私大・短大での経営困難をもたらしました。その一方で、政府は、競争的資金(評価によって配分する研究費)を旧帝大系大学や一部の大手私大に集中させました。まさに「弱肉強食」の大学政策です。そのもとで、「学問の自由」を保障する「大学の自治」が脅かされるとともに、多くの大学教員が研究費獲得とそのための業績競争にかりたてられ、大学で長期的視野にたって自由に、腰をすえた研究や教育にとりくむことは困難になっています。
自公政権は、教育・研究現場のこうした現状を無視して「大学の構造改革」をさらにすすめようとしています。国立大学の運営費交付金の1%削減をつづけるとともに、教職員数に応じた配分から競争的な配分に変えることを検討しています。これでは、多くの大学で教育・研究の基盤が崩れてしまい、財政力の弱い中小の国立大学は存亡の危機にさらされます。新しい産業拠点をつくるために大学の大規模な再編統合がくわだてられていることとあわせ、国民にとって重大な問題です。私立大学の経常費補助についても、増額要求を無視する一方で、競争的な性格をいっそう強めようとしています。また、「経営困難」と評価した法人に対して、「経営指導」と称して介入を強めようとしていることは、私学の自主性を脅かすものです。
わが国の大学・大学院は、学術の中心を担い、地域の教育、文化、産業の基盤をささえるという大事な役割をはたしている、国民の大切な共通財産です。大学改革はこうした大学の役割を尊重し、その発展を応援する方向ですすめるべきです。日本共産党は、大学の公共的役割をまもるため、大学を疲弊させる「構造改革」路線から脱却し、「学問の府」にふさわしいやり方で、国民の立場に立った大学改革をすすめます。
国立大学法人の運営費交付金を充実する……運営費交付金を毎年削減する方針を廃止し、基盤的経費として十分に保障します。法人化後に削減した720億円は直ちに復活させます。政府が検討している競争的資金化を中止し、財政力の弱い中小の大学に厚く配分するなど、大学間格差を是正する調整機能をもった算定ルールに改めます。国立大学法人の施設整備補助金を大幅に増やし、老朽施設を改修します。また、国立大学の地域貢献をきめ細かく支援するとともに、国による一方的な再編・統合に反対します。地方交付税における大学運営費を増やし、公立大学・公立大学法人の予算を増額します。
私立大学の経常費二分の一補助を実現する……私立大学が高等教育において果たす役割を重視し、私立大学への財政支援の拡大、学費負担の軽減など、国公私間の格差を是正します。私大収入の七割以上を学費にたよる経営のあり方を改善するため、年次計画をもって経常費二分の一補助を実現し、国庫負担の割合を大幅に高めます。定員割れした大学への助成金を削減するペナルティを直ちにやめるとともに、定員確保の努力を支援する助成事業を私学の自主性を尊重しつつ抜本的に拡充するなど、私立大学の二極化の是正をめざします。「経営困難」法人への指導と称して私立大学の運営に国が介入することに反対します。
財政負担への国の責任をはたす……わが国の大学がかかえる最大の問題は、大学関係予算がGDP(国内総生産)比で欧米諸国の半分の水準にすぎず、そのことが主な原因となって、教育研究条件が劣悪で、学生の負担が世界に例をみないほど重いことです。教育研究条件の整備をはかることは国の責任であり、大学関係予算を大幅に引き上げます。
「大学の自治」を尊重するルールを確立する……世界で形成されてきた「大学改革の原則」は、「支援すれども統制せず(サポート・バット・ノットコントロール)」であり、「大学の自治」を尊重して大学への財政支援を行うことです。わが国でも、国公私立の違いを問わず、大学に資金を提供する側と、教育・研究をになう大学との関係を律する基本的なルールとして、この原則を確立すべきです。
国立大学法人制度を根本的に見直す……国が各大学の目標を定め、その達成度を評価し、組織を再編するなど、大学の国家統制を強めるしくみを廃止し、大学の自主性を尊重した制度に改めます。教授会を基礎にした大学運営と教職員による学長選挙を尊重する制度を確立します。
独立した配分機関を確立する……一部の大学や大学院に多額の資金を投入するCOE(センター・オブ・エクセレンス、卓越した拠点)予算やGP(グッド・プラクティス、優れた取り組み)予算など、大学・大学院を単位に国が交付する競争的資金は、国の財政誘導による大学間競争、大学統制を強めるものです。これを見直し、大学の自主性を尊重するものへ切り替えます。そのため、大学関係者、学術関係者などからなる独立した配分機関の確立と審査内容の公開をはかり、公正に資金配分を決めるようにします。
私立大学の公共性を高める……私立大学の設置審査を厳正な基準で行うようにし、私学のもつ公共性を高めます。安易な廃校によるリストラを防止するため、私学の「募集停止」も報告事項にせず審査の対象にします。私立大学の財政公開を促進し、教職員によるチェック機能を高めます。まともな教育条件を保障できない株式会社立大学の制度は廃止し、私立大学(学校法人)として再出発できる環境を整備します。
世界一高い学費負担を軽減する……国際人権規約(A規約=経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)の高校と大学を段階的に無償化する条項(第13条B、C項)の留保を撤回し、国立大学費の標準額を引き下げるなど、学費負担の軽減にふみだします。経済的理由による教育格差をなくし、だれもが安心して学べるために、(1)国公立大学の授業料減免を広げる、(2)私立大学の授業料減免への国庫補助を増額するとともに、私立大学生の授業料負担を大幅に減らす「直接助成制度」をつくる、(3)国の奨学金をすべて無利子に戻すとともに、返済滞納者の「ブラックリスト化」を中止し、返済猶予を拡大する、(4)経済的困難をかかえる生徒・学生への「給付制奨学金制度」をつくる、などの緊急策をただちに実行します。
少人数授業をふやし、教養教育を充実する……学生の人間形成や学問の基礎をつちかう教養教育の充実や、わかりやすく学びがいある授業づくりへの改善努力を励ます支援策を抜本的に強めます。少人数教育の本格的な導入や勉学条件の充実のために、教職員の増員をはかり、非常勤講師の劣悪な待遇を改善します。
任期制教員の無限定な導入や成果主義賃金に反対する……任期制教員の無限定な導入や成果主義賃金は、じっくりと教育研究にうちこむことを妨げ、学問の発展を損なうため、導入に反対し、国による誘導策をやめさせます。大学における教育・研究の公共的役割にふさわしく、教員の安定した身分を保障します。
留学生に魅力ある環境を整備する……留学生が安心して勉学できるよう、低廉な宿舎の確保、奨学金の拡充、日本語教育の充実、就職支援などの体制を国の責任で整備します。
科学、技術は、その多面的な発展をうながす見地から、研究の自由を保障し、長期的視野からのつりあいのとれた振興をはかってこそ、社会の進歩に貢献できます。とりわけ、基礎研究は、ただちに経済的価値を生まなくとも、科学、技術の全体が発展する土台であり、国の十分な支援が必要です。
ところが、自民・公明政権による科学技術政策は、大企業が求める技術開発につながる分野に重点的に投資し、それ以外の分野、とりわけ基礎科学への支援を弱めてきました。そのため、わが国の研究開発費(民間を含む)にしめる基礎研究の割合は12.7%と、欧米諸国に比べてもかなり低く、しかも低下傾向をつづけています。また、業績至上主義による競争を研究現場に押し付けたことから、ただちに成果のあがる研究や外部資金をとれる研究が偏重されようになり、基礎研究の基盤が崩れるなど、少なくない分野で学問の継承さえ危ぶまれる事態がうまれています。
日本共産党は、こうした経済効率優先の科学技術政策を転換し、科学、技術の多面的な発展をうながすための振興策と、研究者が自由な発想でじっくりと研究にとりくめる環境づくりのために力をつくします。
科学・技術の総合的な振興計画を確立する…国の科学技術関係予算の配分を全面的に見直し、人文・社会科学の役割を重視するとともに、基礎研究への支援を抜本的に強めます。また、大企業への技術開発補助金や防衛省の軍事研究費など、不要・不急の予算を削減します。
研究者が自由に使える研究費(大学・研究機関が研究者に支給する経常的な研究費)を十分に保障するとともに、任期制の導入を抑え、安定した雇用を保障する制度を確立するなど、研究者の地位を向上させ、権利を保障します。欧米に比べても少ない研究支援者を増員するとともに、劣悪な待遇を改善します。国立大学法人・独法研究機関への人件費削減の義務づけをやめさせます。
科学技術基本計画を政府がトップダウンで策定するやり方をあらため、日本学術会議をはじめひろく学術団体の意見を尊重して、科学、技術の調和のとれた発展をはかる総合的な振興計画を確立します。
科学・技術の利用は平和と「公開、自主、民主」の原則で…科学、技術の研究、開発、利用への国の支援は、「公開、自主、民主」の原則にたっておこなうとともに、大企業優遇ではなく、平和と福祉、安全、環境保全、地域振興など、ひろく国民の利益のためになされるべきです。
憲法の平和原則に反する科学、技術の軍事利用、とりわけ、宇宙基本法の具体化による宇宙の軍事利用をやめさせます。政府が検討している軍事に転用できる技術の公開制限や秘密特許の導入に反対します。
競争的研究費の民主的改革をすすめる…個々の研究者に対して交付される各種の競争的研究費については、科学研究費補助金を大幅に増額し、採択率を抜本的に引きあげるとともに、次の方向で改革します。(1)特定分野や旧帝大系大学に集中するのでなく幅広く大学・研究機関の研究者に配分する。(2)業績至上主義の審査ではなく、研究計画も十分考慮した審査に改める。(3)そのために、科学者による専任の審査官の大幅増員や日本学術会議との連携強化をはかるなど、専門家による十分な審査体制を確立し、審査内容を公開する。
過度の競争を是正し、研究における不正行為を根絶する…研究における不正行為は、科学への社会の信頼を裏切る行為であり、根絶をはかります。そのため、不正の温床となっている業績至上主義による過度の競争を是正するとともに、科学者としての倫理規範を確立します。大学における外部資金の管理を厳格におこなうとともに、研究機関や学術団体が不正防止への自律的機能を強めるよう支援します。
産業と学術が連携し、協力しあうことは、互いの発展にとって有益なことです。同時に、大企業の利潤追求に大学が追随するような連携では、大学本来の役割が弱められ、研究成果の秘匿や企業との癒着がうまれるなど、学術の発展に支障をきたす弊害をひろげます。
産学連携の健全な発展のために、国からの一方的な産学連携のおしつけでなく、大学の自主性を尊重し、基礎研究や教育など大学の本来の役割が犠牲にされないようにします。また、産学連携を推進する国の事業(共同研究への補助など)は、地域や地場産業の振興にも力を入れ、中小企業の技術力向上への支援を拡充します。
大学と企業との健全な関係をむすぶため、以下の点で国のきちんとしたガイドラインを作成します。(1)企業との共同研究の際、学会などでの研究成果の公開が原則として保障され、だれでもひろく使えるようにする。(2)共同研究や委託研究での相当額の間接経費や、共有特許での大学の「不実施補償」を、企業側が負うようにする。(3)企業から受け入れた資金は、大学の責任で管理、配分することを原則とし、研究者と企業との金銭上の癒着をつくらない。
研究者のなかで女性の比率は13.0%、大学教員では18.9%(国立大学は13.4%)と世界的にみても低く、他方で大学の専業非常勤講師のような不安定雇用では5割以上をしめるなど、女性研究者の地位向上、男女共同参画のいっそうの推進が期待されています。大学・研究機関が男女共同参画推進委員会などを設置し、教員、研究員、職員の採用、昇進にあたって女性の比率を高めるとりくみを、目標の設定、達成度の公開をふくめていっそう強めるように奨励します。民間企業の研究者における女性の比率は6.6%でとくに低く、企業に対しても男女共同参画の推進を働きかけます。
出産・育児・介護にあたる研究者にたいする業績評価での配慮、休職・復帰支援策の拡充、大学・研究機関内保育施設の充実など、研究者としての能力を十分に発揮できる環境整備を促進します。文科省が実施している「女性研究者支援モデル育成」の採択枠を大幅に拡大し、保育所の設置・運営も経費負担に含めるなど利用条件を改善します。非常勤講師やポスドクについても出産・育児にみあって採用期間を延長し、大学院生にも出産・育児のための休学保障と奨学金制度をつくるなど、子育て支援策を強めます。
セクシャルハラスメントやアカデミックハラスメントなどの人権侵害をなくすため、大学・研究機関の相談・調査体制の充実をはかります。
この数年来、大学院博士課程を修了しても安定した研究職につくことができない若者が急増し、パートタイムのポストドクター(以下、ポスドク)や大学非常勤講師、企業への派遣労働など不安定で劣悪な雇用状態におかれ、「高学歴難民」「高学歴ワーキング・プア」として社会問題化しています。こうした若者は10万人を超えるとみられ、優秀な学生が研究者をめざす道を敬遠する傾向がつよまっていることとも合わせ、日本の学術の発展と社会の発展にとってきわめて深刻な事態となっています。
この事態を生んだ要因は、何よりも自民党政治が、財界の要求をうけて1990年代以降の「大学院生の倍加」政策をすすめながら、博士の活躍できる場を大学・研究機関や民間企業など、ひろく社会につくりだす施策を怠ったことです。さらに、小泉内閣以来の「構造改革」路線が、大学・研究機関の予算削減、人件費削減と、研究費の競争的資金化を推進したことにあります。国立大学法人では、旧助手の初任給で一万人分にあたる人件費を削減し、他方で研究費によるポスドクの雇用など研究者の非正規雇用を増大させました。また、大企業が、博士課程修了者を専ら契約社員や派遣社員などの非正規で働かせ、正規雇用を怠ってきた責任も厳しく問われるべきです。
ポスドクや大学非常勤講師、派遣社員などの非正規雇用の多くは、年収300万円以下の低所得であり、社会保険にもまともに加入できないなど、劣悪な待遇を強いられています。大学院生が、高い学費負担や劣悪な研究条件のもとで、じっくりと研究に打ち込むことが困難な状況におかれていることも重大です。
こうした若手研究者の「使い捨て」といえる事態は、学術の将来の発展をそこなうものであり、日本の社会にとっての重大な問題です。日本共産党は、国の責任で若手研究者の劣悪な待遇と深刻な就職難の解決をはかり、若手研究者が研究に夢をもてる環境を確保するために全力をつくします。
大学・研究機関による博士の就職支援、ポスドクの転職支援が充実するように政府の対策を抜本的に強化すべきです。文科省の「キャリアパス多様化促進事業」を継続・拡充し、人文・社会科学系にもひろげ、採択機関を増やすとともに、機関間の情報交換、連携を強化します。大学・研究機関がポスドクなどを研究費で雇用する場合に、期間終了後の就職先を確保するよううながします。博士が広く社会で活躍できるように、大学院教育を充実させるとともに、博士の社会的地位と待遇を高め、民間企業、教師、公務員などへの採用の道をひろげます。博士を派遣社員でうけいれている企業には、直接雇用へ切り替えるよう指導を強めます。
日本の大学の本務教員1人当たりの学生数は、イギリスの1.4倍、ドイツの1.7倍であり、大学教員の増員は必要です。大学教員の多忙化や後継者不足を解消するために若手教員を増員し、研究者の非正規雇用の拡大をおさえます。
大学院を学生定員充足率で評価することや、画一的な大学院博士課程の定員削減はやめ、大学院の定員制度の柔軟化をはかります。
院生やオーバードクターへの研究奨励制度の抜本的拡充、ポスドクの職場の社会保険への加入を促進します。日本共産党は政府に働きかけて、独立研究機関が雇用するポスドクの公務員宿舎への入居を実現しました。国立大学法人の宿舎整備をすすめ、ポスドクの入居をひろげます。
大学非常勤講師で主な生計を立てている「専業非常勤講師」の処遇を抜本的に改善するため、専任教員との「同一労働同一賃金」の原則にもとづく賃金の引き上げ、社会保険への加入の拡大など、均等待遇の実現をはかります。また、一方的な雇い止めを禁止するなど安定した雇用を保障させます。
大学院生が経済的理由で研究を断念しなくてすむように、無利子奨学金の拡充と返還免除枠の拡大、給付制奨学金の導入を実現します。卒業後、低賃金などの事情で返済が困難な研究者を救済するため、日本学生支援機構の奨学金の返済猶予事由を弾力的に運用し、年収300万円に達しない場合に返済を猶予する期限(5年)をなくし、広く適用させます。