2005年8月11日(木)
国民の食を支えるべき国内の農漁業は衰退が続き、日本は食料の6割を海外に依存するという先進国でも他に例のない状況におちいったままです。ところが政府はことし3月におこなった「食料・農業・農村基本計画」の見直しでは、食料自給率の引き上げ目標(2010年度までに45%)を5年先送りするよう閣議決定し、多くの作物の生産努力目標を引き下げてしまいました。
小泉内閣は農政「改革」の名で、農産物輸入をいっそう拡大し、輸入品との競争に耐えられない農業経営の切捨てや、農業予算の大幅な削減に乗り出しています。その中心の米「改革」は、米のいっそうの輸入拡大を前提にして、国の安定供給責任を放棄し、米の生産や流通を全面的に市場原理にゆだねようというもので、「備蓄米」の買い入れ価格制度を廃止し、わずかに残っていた米価の下支えもなくしてしまいました。そればかりか、2003年産米の不作を口実に政府が保有する超古米を大量に放出し、04年産米の暴落を政府自身が推し進めました。さらに価格支持制度を全廃し、米価下落対策や転作などの補助金を廃止しようとしています。
新たな「食料・農業・農村基本計画」では、わずかに残された価格支持制度を全廃したうえ、大多数の農家を支援の対象から切り捨て、300万近い農家を40万程度の大規模農家・法人に絞り込もうとしています。小規模農家が参加する集落営農も支援の対象にするとしていますが、政府が示す「営農を一括管理する」という要件を満たすのは、わずか15%です。認定農業者や集落営農をすべて施策の対象にするとしても、全農地のわずか3割をカバーするに過ぎません。これでは、世界的に食料不足が心配されているもとで、食料・農産物価格と需給安定に対する国の責任を放棄するものです。
日本共産党は、農業を基幹的な生産部門に位置づけ、国内生産を多様に発展させる方向へ農政を転換させ、食料自給率を早期に50%台に回復することをめざします。農林漁業の再生は、地域経済振興のうえでも重要です。
価格・所得保障が農業予算に占める割合は、英独仏では6〜7割で、まさに農業予算の主役です。ところが日本では公共事業が中心で、価格・所得保障は3割にすぎず、それすら大幅に減らそうとしています。
政府の米の需給と価格を安定させる役割をまもり、不要な米の輸入を削減するとともに、米「改革」を中止し、政府の100%拠出による不足払い制度を創設して、米の品質の向上を図りながらコストにみあう生産者の目標価格(60キロあたり平均1万8000円程度)に近づけます。麦・大豆・食肉など主な農産物にも価格保障が必要です。
農業開発研修センターの調査(昨年12月)によれば、市町村、農協、生協の幹部の7〜8割が「農業に意欲を持つ人は誰でも対象にすべき」だと答えています。大規模経営だけでなく、複合経営、兼業など地域や農家の条件に応じた家族経営や、農業生産法人などの共同事業を支援します。耕作放棄地が広がらないよう、集落などでの耕作の受委託や生産組織への支援を強化します。地域の農産物と結びついた食品加工の振興を図ります。中山間地域の直接支払い制度を改善・拡充するとともに、営農による国土・環境の保全など「農業の多面的機能」を評価して、平場地域も対象に加えます。安易な株式会社による農地取得は、農地の荒廃や転用につながるおそれがあり、反対します。
約3兆円の農林水産予算のうち、半分近くをしめる公共事業費について、真に必要な事業に厳選する、無数の公益法人への補助金・委託金を見なおすなど、ムダをはぶき農業予算を改革すれば、1兆円程度の価格・所得保障予算は十分確保できます。
アメリカなどの輸出大国と多国籍企業の利益が拡大する一方で、日本など輸入国はもとより各国の家族経営は深刻な打撃を受けています。国内農業の維持、食料の安定確保はどの国にとっても大事な権利です。WTO交渉で、日本の米を自由化の対象から外すなど農業協定を改定させ、食料主権を回復することを強く主張します。
二国間交渉による自由貿易協定(FTA)は、お互いの条件をよく考慮してすすめるなら、経済関係を深めることができます。しかし日本の財界がもとめ小泉内閣がすすめるFTAや経済連携協定(EPA)の交渉では、財界に都合のよい貿易や投資の「自由化」の見返りに、農産物の輸入をいっそう拡大し日本の農業を犠牲にしようとしています。どこの国であれ、国内の農業の維持・発展を考慮するのは当然です。アジア諸国との間で、「多様な農業の共存を前提とした経済連携の強化や農業協力の発展」こそめざすべきです。
ブッシュ政権は、「アメリカの牛は安全だ」として、日本に全頭検査の中止と牛肉輸入の早期再開を迫っていますが、アメリカ生まれのBSE感染牛の発生で、「安全だ」と言うアメリカの主張は根拠を失いました。アメリカでのBSE検査は食肉処理される牛の1%未満にすぎず、検査方法も不十分で、現場を知る元検査官からはBSEが広がっている危険性を指摘されています。牛肉輸入では、アメリカ産を初め輸入牛の全頭検査、危険部位である脊髄など神経組織の完全な除去、トレーサビリティ(生産・流通の経歴が追跡できる仕組み)が不可欠です。BSEの病原体の発見でノーベル賞を受賞したプルシナー米カリフォルニア大教授も「日本が行っているような全頭検査のみが、牛肉の安全性を確保し、消費者の信頼を回復する」と発言しています。危険部位を含む製品の輸入は基本的に禁止すべきです。
膨大な輸入食品のうち、港や空港で安全検査をされるのは7%にすぎません。輸入農産物のチェック体制の強化と原産国表示の徹底を図ります。遺伝子組み換え食品の承認検査を厳密にし、遺伝・慢性毒性、環境への影響に関する厳格な調査・検証を義務づけます。
鳥インフルエンザに感染もしくはその疑いがある鳥が出た場合には、知事への報告・届出義務を所有者に課すべきです。鳥インフルエンザの感染拡大を防止するための処分や出荷停止などに対する補償を充実させます。人間と家畜に共通する感染症に対応するため、行政や法制度の一元化をはかるなど抜本的な改革を目指します。
農薬や化学肥料へ過度に依存した生産・供給体制を改め、有機農業など生態系と調和した生産、「地産地消」や「スローフード」への取り組み、食文化の継承・発展を支援します。
山が荒れ、林業・木材産業が成り立たなくて仕事がないという山村の声は切実です。林業を活性化させ、森林の多面的な機能を発揮させるためにも、緊急を要する除伐、間伐を治山・治水事業の一環として位置づけて国が責任をもってすすめます。木材価格の暴落は、民有林の多くの経営を立ち行かなくさせています。造林経費控除を経費全額に引き上げるなど、価格暴落のもとでの林業の税負担を軽減します。地元の公共事業での国産木材・木製品の利用を拡大し、民間でも国産材の利用への助成を実施するなど需要の拡大につとめます。林業労働者の確保と林業技術の継承を重視します。木質バイオマスによる間伐材や木くずの燃料化、バイオマス発電の推進など山村地域での新たな事業を促進します。
日本は世界の水産物貿易の4分の1を輸入する世界最大の輸入国です。食用水産物の自給率は50%近くまで低下し、乱獲による資源の枯渇も問題になっています。漁業経営の安定のためにも、また乱獲を防いで資源を管理するためにも、政府の責任で価格安定対策を強化し、休漁・減船補償などを実施するとともに、後継者の育成のために青年漁業者支援制度を創設します。7割が公共事業という突出した公共事業偏重の水産予算を改めれば、財源はあります。諫早干拓や、中部国際空港、新たな米軍基地建設などの大規模な開発によって、干潟・藻場の破壊や埋め立て、海砂の採取、河川の汚濁などによる漁場の荒廃や破壊は深刻です。こうした開発をやめ、漁場の保全や改善に計画的に取り組むべきです。有明海の豊かな漁場を取り戻すためにも、ただちに水門を開けての調査を実施すべきです。