働く ルール求める欧州

右派政権下厳しさ増すが…
オーストリア


 オーストリアでは、戦後、復興のため政労資が強い協力関係を築き、経済発展に取り組みながら、労働者の権利も拡大してきました。二〇〇〇年に誕生した右派政権のもとで、政労資協調は崩れ、労働者の権利は弱体化されつつあります。しかし、不況で工場閉鎖、従業員解雇が増える現在も、労働者は“既得権”を武器に最善の解決策を求めてたたかっています。

 

■権利使い


 昨年十二月六日、ドイツのタイヤ会社「コンチネンタル」が需要の落ち込みや経費節減のため欧州数カ所の工場閉鎖を発表しました。オーストリア東部のトライスキルヒェンにある「セムペリット工場」(従業員約千三百人)も含まれていました。百六年の伝統をもち、労働者と住民の誇りとなっている工場の突然の閉鎖と従業員ほぼ全員の解雇に、抗議の声が広がりました。
 バルテンシュタイン経済労働相は同月十四日、現地を訪れ、支援策を発表しました。主な中身は、(1)トライスキルヒェンを含むニーダーエスタライヒ州南部で最大千人の新規雇用を創出するため、連邦と州政府の双方が千四百五十万ユーロ(約十七億円)を拠出する(2)政府、企業などの拠出で設立する「労働基金」の適用対象を最大千人、期間を四年とし、通常二十週間の失業手当(失業前の給料の55%)をその間、満額支払うとともに、再就職に向けた職業訓練費用を無償にする―というものでした。
 有力紙プレッセは、労働者一人当たり手取り月一万三千シリング(約十一万円)を四年間支給することがこれで可能になると報じました。
 自由党と国民党からなる現政権はこれまで、国営企業の民営化と規制緩和による経済活動の自由化を経済政策の中心とする一方、労働条件を悪化させるなど、労働者に冷たい政治を続けてきました。しかし、同政府にとってさえ「失業者の再雇用支援は重要な政策」(経済労働省職員)であり、対策は「最低限必要な措置」でした。
 労働者の権利が弱い国と比べれば充実した措置ともいえますが、労働者側はこれに強い不満を表明しています。たたかいの先頭に立つのは、企業内の労働者の利益を代表する事業所評議会です。オーストリアの場合、欧州基準より厳しく、五人以上の企業に設置が義務付けられ、企業は同評議会と日常的に協議するとともに、解雇などを行う際には、事前報告をしなければなりません。

 

■支援受け


 アルトモイヤー・センペリット事業所評議会議長は「工場は労働者にとって家族のようなものであり、閉鎖撤回のためにあらゆる努力をする」と強調。経営者と交渉する権利と抗議行動を組み合わせて運動を強めていくとしています。
 今のところ、企業側は閉鎖の方針を変えておらず、閉鎖撤回のめどは立っていません。政府も「閉鎖を撤回させることは考えていない」としています。九六年、同じく閉鎖の危機に直面した同工場を守るため、企業側と直接交渉し、閉鎖を撤回させた社民党(現最大野党)政権とは対照的です。
 しかし、工場閉鎖には地域住民の多くや社民党、最大労組センターのオーストリア労組連盟も強く反対しています。その支援も受けながらたたかいは新年に入っても続いています。(ウィーンで岡崎衆史)
( 「しんぶん赤旗」2002年02月18日付け )