働く ルール求める欧州

9千人解雇はねのけた
イタリア


 財政健全化や効率性の向上を理由に民営化が進められるイタリアの郵政事業。このほど会社側が発表した約九千人の解雇計画を、労働者がたたかいと解雇規制法を力にはね返しました。
 イタリアでは中道左派前政権が財政赤字削減のためとして郵政公社の民営化を決定しました。
 労働者に衝撃が走ったのは昨年春のことでした。会社側が民営化に伴う「経営可能な状況」の追求を口実に、約九千人の解雇計画を発表したのです。
 事業が抱える多額の赤字や運営システムの効率化の必要性は、労組側も認めていました。「しかし労働者を切り捨てて問題を解決するのは許せない」―一方的解雇に怒りの声が広がりました。会社との交渉と反対運動が直ちに始まりました。

 

■協議重ね


 「困難な時期もあったが、交渉では集団解雇の規制法が重要な意味を持った」―イタリア最大の労組、イタリア労働総同盟に属する通信労組のレオネジオ全国書記(52)は語ります。
 欧州連合(EU)の集団解雇規制指令を国内法化した「労働市場法」(九一年)です。集団解雇の際、会社側に労組、政府との協議を義務付け、企業間の労働者の移動などを通じて解雇の影響を避ける法律です。
 労組は同法に基づき、会社や労働省など政府機関との交渉を積み重ねました。七月下旬には全国で二十四時間ストライキとデモ行進を行い、社会に訴えました。
 労組が交渉で強調した点は「サービスの最小限の保障」の重要性でした。
 「民営化で利益を優先し、山間部の郵便局や小規模局を閉鎖する考えも出ています。しかし、これまで公共機関としてすべての人に保障してきたサービスを削ることは許されません。大規模解雇で全体へのサービスを保障できるのか」―レオネジオ全国書記はいいます。
 交渉とたたかいは六カ月続きました。この結果、二〇〇一年十月、会社と政府、労組が解雇撤回の合意を結んだのです。

 

■安心感が


 合意は、(1)年金受給年齢に達しているか受給資格のある約五千人は〇二年三月末までに年金生活入り(2)移動手続きにより約千三百人を他局に配転(配転範囲は県内に限る)(3)約二千二百人は別企業へ移動、その際の賃金差額は全額会社負担で創設する「連帯基金」で補てん、という内容です。
 労働者には解雇が避けられたことへの安心感が広がりました。
 労組は今後も、労働時間や職場の安全保護など、労働協約の規定を会社側に厳守させるための運動を続けます。
 

 

●市や国の支援励みに

 米国タイヤ会社「グッドイヤー」のイタリア・ラティーナ工場(ローマ南東約五十キロ、ラティーナ県チズテルナ市)の労働者全員に出されていた解雇通知が二〇〇〇年四月、労働組合や自治体などの反撃で全面撤回されました。新会社へと改装が進む同工場を訪問しました。
 「これまでも多国籍企業が工場を閉鎖し、労働者を切り捨てる例は多くありました。しかし今回の合意は、労働者の再就職に責任を持たせた積極的なものです」
 イタリア最大の労働組合・イタリア労働総同盟(CGIL)のラティーナ県書記長を務めるガブリエーレ氏はたたかいの成果を振り返ります。

 

■500人解雇


 発端は一九九九年十一月末。「グッドイヤー」は国の援助も受けて六五年から操業してきたラティーナ工場を「国際競争への対応」を理由に閉鎖すると発表。約五百人の従業員全員に解雇通知を送ったのです。
 「労働者は路頭に迷い、地域経済も破壊される」―地元には不安と同時に企業の身勝手に対する怒りが走りました。
 イタリアでも集団解雇の際には法律により、約二カ月間の労組代表との協議、それでまとまらない場合には、さらに約一カ月間の政府との協議が義務付けられています。
 労組は同規定に基づいて直ちに会社側と協議に入りました。労働者も解雇が伝わるやいなや、二十四時間のストライキを実施。会社側が勝手に設備を解体しないよう、門前にピケを張り、集会やデモを行いました。会社製品のボイコット運動も呼びかけました。
 特に労働者の励みとなったのが市や国の支援です。
 地元の市議会も工場閉鎖への反対を決議し、チズテルナのカルトゥラン市長もデモ行進に参加。当時の中道左派政権の産業省も閉鎖を見直すよう声明を出すなど、国をあげたたたかいへと発展しました。
 この結果、二〇〇〇年四月、解雇通知すべてを撤回させる合意を結ぶことができました。

 

■諸経費も


 工場閉鎖は避けられなかったものの、合意は(1)退職金とは別に解決一時金を支給(2)所得保障金庫の一年間適用と企業間移動制度の四年間適用。この間の雇用関係の継続(3)新設企業で約二百人を採用(4)工場の施設を無料で譲渡すること、を確認しました。
 所得保障金庫や企業間移動制度は集団解雇の規制を定めた法律に基づく措置です。
 カルトゥラン市長は「約二百人の労働者の雇用が守られ、地域経済への影響も一定程度避けられた。多国籍企業の自由勝手を許さない社会システムの勝利だ」と喜びを語ります。
 現在、工場は航空部品製作工場へと移行作業中です。新会社は二〇〇五年に操業を開始します。
 採用される元「グッドイヤー」労働者への職業訓練もこのほど始まりました。その必要経費約四十億リラ(約二億二千万円)もすべて行政が負担します。(ラティーナで島田峰隆)
(「しんぶん赤旗」 2002年02月16日付け、17日付け )