働く ルール求める欧州

失業出さないリストラ
オランダ



 「非自発的な失業を一人も出さないリストラ協定になった」。オランダ労組連盟(FNV)のハグ・ゴーテル書記は胸を張ります。世界的な金融グループ、ABNアムロの事業再編をめぐる労使協定のことです。
 オランダ国内の約九百五十店舗を六百三十店舗に整理。約三万五千人の従業員のうち六千二百五十人を削減する計画が昨年二月に提示されたときには職場に動揺が起こりました。それが一カ月余の労使交渉で、解雇なし、四年間の雇用と給与保障が決まり、安心が広がったといいます。

 

■差額補償


 第一段階の希望退職募集は昨年九月から約二千五百人が応募して終了。一月十五日から第二段階の「整理統合」が始まりました。今後二年間、地域ごとに順次行われる店舗閉鎖で、次の職場が確保できない従業員は、会社があっせんするグループ企業への転職と、個人の職探しの二つの選択が可能です。
 両方とも新しい職場の給与と労働条件が現在より下がる場合は会社が差額を補償。新職場に移って二カ月以内なら契約を解消して元に戻ることができます。この間、会社が特別訓練プログラムを実施。二年たっても次の職場が決まらない人にはさらに一年間延長することになっています。
 同じオランダの世界的金融資本、INGグループも昨年、同規模のリストラ計画を提示しました。こちらは当初、経営側が全員の雇用保障を約束しなかったため、労組は会社提案を拒否し、交渉は中断しました。
 FNVなど労組は昨年三月二十六日に本社に抗議デモを実施しました。この間、INGの中央事業所評議会(従業員代表組織)が労使双方に対し、三十日以内に解決して新しい社会計画を作成するよう勧告。裁判所に労使合意ができるまでリストラ計画の実施を中止するよう訴えました。この結果、再開された交渉が五月にまとまり、ABNアムロとほぼ同様の再就職計画を含む労使協定に合意しました。

 

■就職保障


 両グループとも職場の組合員は四人に一人。FNVは11%の組織率です。そのたたかいが大きな力を発揮する背景についてFNVのレオ・ブレク書記は、「一方的な解雇は許されないという社会的合意と解雇規制法があるからだ」といいます。同国では個人でも集団でも解雇には地域雇用局の許可が必要です。リストラには職場の事業所評議会が事実上の拒否権をもっています。

 

 

 

●事前許可制で解雇規制

 解雇規制が厳しい欧州でも、オランダは「もっとも規制の強い国」といわれています。
 例えば各企業に設けられている事業所評議会は経営側の計画に「助言を与える」権限があります。これがでないと経営側は計画を実行できません。事実上の拒否権です。各国にある従業員代表組織への情報提供と協議の制度でも拒否権に近い権限を持つのはオランダだけです。
 第二次大戦直後にできた解雇規制制度の一環です。「根幹には、解雇には第三者による公平な判断が必要という考え方と社会的な合意がある」。オランダ労組連盟(FNV)のレオ・ブレク書記は強調します。

 

■届け出て


 個人の責任による解雇が問われる場合でも、リストラのような会社都合の場合でも、雇用者が労働者を解雇するには、事前に通知し、地域雇用局に届け出て許可を得なければなりません。
 通知は書面で理由の詳細をのべることが必要です。経済的理由による解雇にはそれを正当化する明確な理由の説明が要ります。個人の場合でも理由となった労働者の行為の証拠とともに、それをただすため出された「警告書」のコピーが必要です。
 雇用局から通知を受け取った労働者は十四日以内に反論する機会が与えられます。両者の申し立てに基づいて解雇委員会と労働監督所(両者とも労使の代表で構成)が審査し、最終的に雇用局が解雇を許可するかどうかの決定をします。決定に不満な場合は裁判所に提訴できます。提訴される解雇事件は年間、約八万件にのぼっています。
 企業側から規制が厳しすぎるという声があって、九九年に労働党主軸の政府は調査委員会(ロード委員長)を設置。同委員会は昨年二月に勧告を出しました。表題は「解雇の二重決定権にさようなら」。勧告の中心点は「当局による解雇の事前許可制」をやめて経営側の自由にし、労働者が不満がある時だけ提訴できる制度にしようというものです。

 

■制度批判


 勧告は、地域雇用局の事前許可制を「労使関係への政府の関与で、国際労働基準に反する」と批判。ロード委員長は、解雇制度が他の諸国と比べ「著しく遅れている」と強調しています。経営者団体や自由党は報告を歓迎しています。
 これに対して労組は「解雇を容易にしすぎる」(キリスト教労組連合)、「雇用確保より解雇手当に重点を置いている」(オランダ労組連盟)と反対しています。政府も慎重で、労使に勧告についての研究を呼びかけました。社会経済協議会(労組と経営者団体の協議組織)で検討が行われています。(アムステルダムで 田中靖宏)
(「しんぶん赤旗」 2002年02月11日 付け、13日 付け)