働く ルール求める欧州

破産から救い、雇用を守った
ドイツ



 昨年九月に米国で起きた同時多発テロは世界的な不況に追い打ちをかけ、欧州でも企業のリストラ、人員削減の波が押し寄せています。しかし、欧州各国の労働者は、長いたたかいで勝ち取ってきた解雇規制法などをよりどころにし、政府や自治体の協力も得て、その影響をくいとめています。リストラ支援、“不良債権”処理で倒産に拍車を掛ける小泉政権との違いが浮き彫りになっています。欧州連合(EU)の内閣にあたる欧州委員会は「企業の社会的責任」について規範文書の作成に取り組むなど、「ルールある経済社会」の前進に向けた動きを強めています。欧州の実態をみていきます。

 

■闘争宣言


 ドイツでは連邦政府の仲介・協力で、企業に雇用の責任を果たさせる新たな動きがみられます。フォルクスワーゲンが「産業空洞化」を防ぐための努力として自動車工場を国内に新設したり、ルフトハンザ航空の労使が雇用を確保しつつ企業危機を克服することで合意するなどです。ドイツ建設産業第二位のゼネコン、フィリップ・ホルツマン社の倒産阻止と雇用を確保した取り組みもその一つです。
 同社事業所評議会(従業員代表組織)のユルゲン・マーネケ委員長は、フランクフルトの事務所で回想します。
 「会社首脳から破産が通告されたのは一九九九年十一月十五日でした。会社側は破産申請など通常の手続きを考えていました」
 クリスマスを前に、解雇・失業の不安が、従業員と家族を襲いました。しかし事業所評議会は屈しませんでした。表裏一体の関係にある労組と協力して抗議ストを含めた「闘争宣言」を発表、会社と交渉を開始、政府に窮状を訴える手紙を書きました。従業員二万人を超す同社の倒産にとどまらず、関連した二百七十の中小企業(労働者約七万人)の連鎖倒産を招くことは必至でした。当初は、介入をためらっていたシュレーダー首相も大量失業を懸念し、救済に動きました。
 政府は銀行に働きかけ、自身も二億五千万マルク(約百三十八億円)の信用供与を約束。「自由競争の原則」によって企業救済を制限している欧州連合(EU)にも承認を求めました。従業員側は「十八カ月間、週五時間分の賃金を返上し、危機克服後に支払ってもらう」と表明しました。
 マーネケ氏は「『政府による救済というより、ホルツマンの労働者が社民党政府を救った』と評されましたよ」と笑います。そして「昨年四月、十八カ月の期限が終了。企業も倒産の危機を抜け出しました」といいます。

 

■就職保障


 しかしリストラは避けられず五千四百人が会社を離れました。事業所評議会は企業側と協議し、これらの人々の再就職先を保障する計画を作りました。就職先が決まるまで、一年間は賃金の80%を会社側が保障、以後は失業手当が支給されるというものです。これまでに、70%の人が再就職先を見つけました。
 建設分野の全国労組である建設・農業・環境産業労組のミヒャエル・クノッヘ広報担当は、政府の介入でフィリップ・ホルツマン社の雇用が結果的に守られたことを評価しています。(ベルリンで坂本秀典)
(「しんぶん赤旗」 2002年02月10日 付け)