[8問8答]そこが知りたい! 合併論議のポイント


問7 合併したら、農山村などの周辺部はさびれるのではと不安ですが?

答 周辺部がさびれる合併は、地域住民と国民の利益になりません。


 合併によって、「中心になるところはいいが、周辺部はさびれるのでは」という不安は当然です。実際、そうした不安が生まれる地域では、「昭和の大合併」で合併した近隣の地域で、周辺の地区がさびれていった現実を目の当たりにしている場合が少なくありません。

 ある東北の県での集まりで、総務省の担当者は、会場からの質問に「そういうところは合併によってばかりでなく、さびれるべくしてさびれたのでは」と平然と答えています。まったく官僚的な発想です。さびれた地域と住民を思いやる気持ちもなければ、おそらくそのさびれた要因には国の政策の責任があることにも、思いおよばないのでしょう。

 総務省は、合併協議会でつくる「新市町村建設計画を、旧市町村地域にバランスがとれた計画にするから」とか、「地域審議会を旧町村ごとにつくれるようにしたから大丈夫」などと説明しています。しかし、新市町村建設計画は公共事業が中心で、しかもその「財政支援」は一〇年間の事業にかぎられています。その時期を過ぎれば、財政的にはさらにきびしさを予想しなければならず、周辺部に予算がまわる保障はありません。

 農山村では役場がなくなるだけでもさびれる要因

 周辺部になる旧町村の場合、いまの役場がなくなります。支所や出張所は残っても、職員は大幅に減ります。役場周辺の商店や飲食店、商店街が大きな打撃をうけるのは、どこでも共通しています。また役場は、辺ぴで小規模の町村であればあるほど、地域の若者の職場としても大きな比重をもっています。その役場がなくれば、若い世帯が都市にでていき、「少子・高齢化」に拍車がかかることにもなりかねません。

 たしかに「合併=さびれる」とは単純にいえないとしても、特別の施策や努力がなければ避けられないのが、実際ではないでしょうか。そうした地域で、さびれないようにし、活気をまもり、あるいは取り戻そうとするには、産業政策や福祉施策の充実などの努力が必要です。

 合併しないで自立した町、村として残れば、いまの役場を中心にその地域の意思と判断で、独自の努力をすすめることができます。しかし、合併すれば、中心部にある新自治体の役所にすべての権限が移りますから、たしかな保障はないということになります。

 農山村をまもることは、住民と国民の利益をまもること

 過疎など農山村の地域をまもることは、ただその地域にすむ人びとの生活や基本的な権利をまもるというだけにとどまらない価値をもっています。昨年七月に全国町村会が、臨時大会の機会に発表した国民へのアピール・パンフレット『21世紀の日本にとって、農山村が、なぜ大切なのか――揺るぎない国民的合意にむけて――』は、農山村が、食料などの生産物で国民の生存を支え、田畑や森林の機能で「水源かん養機能」、「自然環境の保全」など国土を支え、さらに文化の土台、自然の宝庫であり、新しい産業の場として、都市住民をふくめた全国民的な価値をもっていることを明らかにしています。

 日本学術会議は、昨年十一月、農水省・林野庁の諮問をうけて「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について」との答申を出しました。「答申」は、水田や畑、農山村がもつ多面的機能の評価については、年間四兆一〇〇〇億円、六兆七〇〇〇億円、一一兆八七〇〇億円等の評価があること、森林は全国で年間約七五兆円の多面的機能があるとの試算例にふれています。森林の機能の評価だけでも、国家予算(二〇〇二年度は八一兆円)にも匹敵する規模です。それほど大きな役割を果たしているのです。

 周辺部から行政が撤退する、あるいは行政サービスが後退することになれば、水田、畑、森林が荒廃することにつながりかねないとの危惧は当然です。農山村がいきいきとした地域として存続することは、都市とその住民のくらし、安全、文化など国民生活の全般にわたっても欠かせないものです。

 国は過疎法など過疎市町村への支援施策をおこなっています。これは本来、たんに過疎対策というだけでなく、国土と国民生活の支えを守るという積極的な意味をもっています。

 過疎でも自立めざす町が次つぎ

 過疎の町村で「合併しなければやっていけない」との声があるとも聞きます。しかし、過疎の町村同士が合併しても過疎が解決できるわけではありません。一方、過疎でない市町村と合併すれば、その新しい自治体の周辺部になってしまいます。また、合併特例債が有利といっても、過疎の地域に認められる過疎債の方がもっと有利な条件になっています。過疎債は起債の充当率が一〇〇%で、元手がなくても事業を始められ、その元利償還(借金返済額)の七〇%が地方交付税に算入されるのです。過疎債を使えば、合併しなくても、住民本位の施設を計画的に整備していくことはできるはずです。

 合併しない宣言をした福島・矢祭町の根本町長は「財政規模に合った独立・独歩・自立できる町づくりを継続して推進していく」「小さくとも矢祭町として残ったほうが、大きな市町に埋没することなく、自治権を行使して将来的にも血の通った行政ができ、町民の福祉増進が図れる」といっています。高知の越知町の吉岡珍正町長も「過疎から地域を守ろうとする私たちの努力がなしくずしにされる恐れがある。合併は最終的に行政のリストラに進み、過疎が急激に進む」と国による合併おしつけをきびしく批判し、「自治体が運営していけない状況ではなく、いま、合併の必要はない」と話しています。こうした発言がいま各地の小さな町村の行政や住民を励ましています。